第5話 DVD! DVD!

「カンパーイ!」

 陶器のジョッキが触れ合う音が心地よく部屋に響いた。

サクランボのビールはこの辺りの名産品だ。

これはビールに大量のサクランボにつけ込んで二次発酵させた飲み物だが、酸味と甘みが美味しくて、お酒を飲み慣れていない俺らもぐびぐびと飲んでしまった。

 酔いが回ってくると、俺はヨランと別れたことを皆に話した。


「今だから言うけどさ、ヨランってレオと付き合う前からババスといい感じだったんだぜ」


ポンセによってもたらされたタレコミは衝撃的だった。

ババスは一八歳になる村長の息子だ。


「それ、本当のこと?」

「うん。一年前だけど二人が納屋裏でチューしてるの見たんだ。ババスに絶対に言うなって脅かされたから黙ってたけど」


ババスは半年前に隣村の村長の娘と結婚している。

ヨランとはそれで別れたのかな。

今さらどうでもいいけど。

だけど……。


「やっぱり腹が立ってきた!!」


ヨランの奴は「ファーストキスだよ」とか言って照れ笑いしていたのに。


「まあ飲め! 飲んで忘れよう!」


ポンセが小樽からチェリービールを注いでくれる。

皆でもう一度乾杯してから一気にビールを飲みほした。


「ふーっ。俺のことを無能扱いか……。みんな俺が洗濯バサミしか召喚できないとわかってから手の平を返したような態度だよ」

「馬鹿野郎!」


大声をあげたエバンスを見るとエバンスはボロボロと涙を流していた。


「レオと俺は子供の頃からずっとこの村で一緒に育った仲じゃないか。ギフトの力がなんだっていうんだよ。そんなものは関係ない!」

「そうだぞ。今まで通り仲良くやればいいんだ」とポンセ。

「ああ。もうつまらないことは気にするな」とオマリー。


エバンスは俺の肩を抱きながらオイオイと泣いている。

うん、酔っ払いだ。

ポンセとオマリーも泣いていた。

こいつら全員酔っ払いだ。

酔っ払いだけど大好きだ!

感動と酒で気が大きくなった俺は、この三人にだけは嘘をついてはいけない気になってきていた。


「三人に話がある」

「どうしたんだ?」


未だに涙に濡れた目で三人は俺を見つめ返した。


「実は……俺が召喚できるのは洗濯バサミだけじゃないんだ」


ベッドの下から朝隠したままにしておいたDVDプレーヤーを取り出した。


「なんだそれ?」


実は俺にも良くわかっていない。

説明書を読んでいる途中でヨランが来てしまったからな。


「何かが見られるらしいんだけど、俺もまだよくわからないんだ」


それならば、皆で試してみようということになった。


 四人で説明書を見ながら朝の続きを再開する。

まずは主電源だ。


「おお! 青く輝いているぞ」


起動ボタンの横が青く光っている。

次はイジェクトボタンを押してディスク取り出し口を開けますと書いてある。

何のことだかちっともわからないが説明書の通りにやってみた。

次は別に梱包されていた虹色に光る円盤をこの中に入れればいいんだな。


「これ、なんて書いてあるんだろう?」


DVDと言うらしい円盤を指さしながらエバンスが聞いてくる。そこには異国の文字で「うふふ♡なサンプルDVD」と書いてあった。


「うふふ?」

「笑っているみたいだな。何か楽しいことが起こるのかもしれない。だけどちょっと怖いな。悪魔を呼び寄せる道具とかだったらどうしよう……」


ポンセとオマリーは少し怖がりながらもことの成り行きを見守っている。

俺は説明書に従って再生ボタンというのを押した。


 突然、黒い箱の内蓋が輝きだし音楽が流れだした。

聞いたこともないようなメロディーで、どんな楽器で演奏されているかは想像もつかない。

陽気なメロディーだったので皆の緊張も少しだけ解けた。

そして箱には一人の女の子が映っていた。


「箱の中に人が!!」

「外国人か? 見たこともない人種だぞ!」


俺たちの住んでいるベルギア帝国は多民族国家だけど、箱の中の女の人は見たこともない人種だ。

だけど、とっても可愛い。

年齢は俺たちより少し上くらいかな。


「うおおおおお!!」


皆が大声をあげた。

それはそうだ。

風景が突然切り替わり、箱の中の女の子は極端に面積の小さい布を身につけただけの姿で海辺を走っているのだ。

世の中にこんな破廉恥な恰好があるなんて知らなかった。

走るたびに大きなおっぱいが揺れている。


「す、すごいな……」

「ああ。ラルケの奥さんくらいでかいよな」


またまた風景が切り替わる。


「レ、レ、レ、レオォォ! どうしてあの子はロープを持って飛び跳ねているんだよ!?」


オマリーが叫んでいる。


「わからないよ。笑っているから、たぶん遊んでいるんじゃないか?」


こっちが聞きたいくらいだ。

女の子は両手に縄を持ち、それを回しては飛び跳ねている。

海辺で走っていた時よりも、さらに大きく胸が揺れていた。

俺の頭の中も脳みそが跳ね回っている。

大体あのロープは何なのだ? 

ピンク色のロープなんて見たことがない。

やがて風景がまた切り替わり、女の子は異国の服を着ていた。

さっきのように大胆に肌は見えていないので、俺たちはやや落ち着きを取り戻した。

いろいろと質問されて、女の子がそれに答えている。

俺はそれをみんなに翻訳してやった。


「名前はミヤゾノ・ヒメカだって。スリーサイズが上から85-60-86って言ってる」

「スリーサイズってなんだよ?」

「わかんない。好きな食べ物はお寿司だって」

「お寿司って?」

「だからわかんないってば。異世界の食べ物だろ」


何を言っているかはわかるのだが、理解できないことも多かった。

そして質問が終わると、今度はなんとヒメカちゃんがお風呂に入っていた。


「こ、こ、これ、風呂だよな。初めて見た」


さっきからずっと喋っているのはオマリーだけだ。

エバンスとポンセは一言も言わず、食い入るようにDVDを見ている。

ヒメカちゃんは泡だらけの白濁したお風呂に入っているので大事なところはかろうじて隠れている。

だけどしっとりと濡れた肌は色っぽくて俺たちは画面にくぎ付けだった。

そして最後にヒメカちゃんがにっこり笑って画面は暗くなった。


 喉がカラカラだ。

だって、女の子の体をこんなにしっかり見たのは初めてのことだもん。

俺たちは四人同時にチェリービールを飲みほした。


「レオ、これは一回しか見られないのか?」


絞り出すような声でエバンスが聞いてくる。

俺だってもう一回見て見たい。

説明書を読むと何度でも再生できると書いてあった。


「安心しろ。何回でも見られるぞ!」


そういうと大歓声が起こった。


「DVD! DVD! DVD!」


三人が肩を組みながら叫んでいる。

俺は再び再生ボタンを押してジョッキをあおった。

悲しいこともあったけど、生まれて初めてのバカ騒ぎは俺の心を慰めてくれた。

明日からまた頑張ろう。

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