第2話 チンチロリン
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名称 洗濯バサミ
材質 プラスチック・ステンレス
用途 洗濯ものを干す際に挟む道具
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俺が召喚したモノに添えられたメモには以上のことが書いてあった。
材質のプラスチックって何だろう?
ステンレスってこの金具のことかな?
用途に関しては見ただけで十分理解できる。
力を入れると洗濯バサミは簡単に開いたり閉じたりする。
ロープや物干し竿に洗濯物をひっかけて、これで止めれば風に飛ばされなくていいだろう。
だけど……。
「レオよ、それはどういった用途で使うのかな?」
神官さんはまだ希望を捨てていなかった。
これがただの洗濯物を止めるためだけの道具とは思いたくないようだ。
だけど俺は既に諦めモードだ。
こんなものが一つあったところで何になるというんだよ……。
説明するのも嫌だったけど、
俺は神官さんにメモに書いてある洗濯バサミの用途を伝えた。
俺を取り囲んだギャラリーは一言も喋らない。
なまじ俺が白羽の御子だったから周囲の期待も大きすぎたのだ。
状況がわからなくなって皆混乱していた。
「レオ、もう一度召喚術を試してみたらどうかね?」
神官さんがとりなすように言ってくれたが、俺になす術はなかった。
「すみません。今のところ召喚術は一日一回しか使えないようです」
泣かないように頑張ったけど、声の震えを止めることはできなかった。
「何の役にも立たないスキルじゃん」
火炎魔法を授かったステルガの声だった。
「よ、よせよ」
ステルガを諫めているのは農業の加護を授かったエバンスの声だ。
俺は怖くてそちらの方を向くことができない。
それでも頑張って顔をあげると神官さんと村長が幻滅した表情で俺を見ていた。
ヨランは?
ヨランはどこにいる?
俺はヨランを探した。
だけどヨランは俺と目が合った瞬間に視線を逸らしてしまう。
「あ~あ、馬鹿々々しい。早く帰って自分のギフトを試してみよう」
誰かの声が聞こえた。
「ねえ、私も連れて行って。一緒にスキルを試そう」
「俺のパワーも見てくれよ」
「私の水魔法って日照りの時にも使えるのかな?」
広場のあちらこちらにグループが出来上がり、自分たちの貰ったギフトについて話をしている。
俺はどのグループにも入っていける状態じゃない。
まさか、こんな役に立たない物を召喚してしまうなんて……。
いや、役に立つかもしれないけど、一個だけじゃ何ともならない。
確かに毎日召喚し続けて、三〇個くらい溜まれば使い道はあるかもしれない。
だけど、だからといってどうなるというんだ。
洗濯物を干す時に便利だね、それだけだ。
呆然とする俺を置いて新成人は次々と広場を去って行く。
ヨランもステルガと一緒にどこかへ行ってしまった。
「レオ、あんまり思いつめるなよ。明日はもっとすごいものを召喚できるかもしれないじゃないか」
唯一人、俺にやさしい言葉をかけてくれたのはエバンスだ。
「うん……。大丈夫だよ……」
その日、俺は役立たずの烙印と、「洗濯バサミ」というあだ名、そして本当の親友を得た。
一夜明けた。
普通の家庭では昨日は新年のお祝いをしたはずだ。
家族のいない俺はヨランの家に呼ばれていたが、とても行けるような状態ではなかった。
目覚めた俺はさっそく召喚術を試してみることにした。
昨日は洗濯バサミだったけど、今日は違うものが召喚できるかもしれない。
今のところ俺の召喚術は一日一回しか使えないが、日付が変わればリセットされるようだ。
庭に出て辺りを見回す。
近くに人はいないようだ。
もしも、また洗濯バサミを召喚してしまったら、きっと馬鹿にされるだろう。
人には召喚術を使うところは見られたくなかった。
昨日のことを反省して今度はもっと集中して魔力を高めた状態で召喚術を使ってみることにした。
(女神様……どうか洗濯バサミ以外のモノを召喚させてください)
俺は祈りながら召喚魔法を展開した。
前回のように魔法陣の光が収まると、そこにはまた小さな何かとメモ用紙があった。
今度のこれは何だろう?
四角くてテカテカとしたものに包まれているようだ。
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品名 チロリンチョコ
名称 チョコレート菓子
用途 甘いお菓子。食べると元気が出る
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とりあえず嬉しい。
だって洗濯バサミ以外のモノが召喚できたんだもん!
チョコレートってあれだよね。
都会で貴族とか王様が食べているっていうお菓子のはずだ。
これを見たらヨランも喜んでくれるかもしれない。
そう思ったら居ても立っても居られなかった。
俺はチロリンチョコを握りしめてヨランの家まで走った。
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