夏の終わり、二匹目となるカブトムシも自然の摂理に習い一生を終えた。優人は死んで動かなくなったカブトムシと復活ボタンを片手に父親の元に向かい笑顔で話す。


「パパ見てて! これで復活するから!」


「優人……」


 満面の笑顔で無邪気にバスのブザーを復活ボタンだと言い、カブトムシの死骸に当てて押す。ぴかっと電気が点くと、嬉しそうに生き返ることなどないカブトムシが動き出すのを待っている。


「ほら見て! これで復活したよ!」


 父親は苦笑いを浮かべて虫かごの中を覗き込むが、やはり復活などしていないカブトムシの死骸が転がっているだけだった。


 優人の目だけにはカブトムシが復活して見えているのだろうか、死を受け入れられずに生き返ったと思い込んでいるのか父親はどう話せばいいか悩んだが、優人が泣く姿を見たくないという思いに調子を合わせた。


「あぁ、凄いな……」


 優人に満足そうに虫かごを揺らしてカブトムシを眺めている姿に父親はホッと息を吐き、パソコンで季節を問わずに買えるカブトムシを一匹注文する。


 次の日の夜に、そっと届いた新しい生きたカブトムシと死んだカブトムシを入れ替えた。優人が復活ボタンを押して、父親がこっそり生きたカブトムシに取り替える作業は、優人がもう少し大きくなるまで繰り返えされる。

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