4.プレゼント
それからしばらくは第2王子を肴にそれぞれの席にてお喋りに興じていたが、いつの間にかミリアーナのテーブル前まで挨拶に立つ子達が出てくる。
左隣の子爵令息が
「そろそろ行こうか。ちゃんと挨拶出来るかな.....」
と、一緒に行こうと促して来た。
「誕生日のお祝いは何にしましたの?」
「うーん、うちは領地の特産なんて大したもの無いから、単純にクラバットの飾りにしたんだけど、君は?」
「わたくしは領地で咲くハサルの花で作ったブーケですわ。ハサルは浄化作用があるお花なんですの。一部屋に人差しあれば充分なんですけどね。まあ、お誕生日だし大き目にしておきましたわ」
きっと良い夢見られますわよ、と言いながら後ろに置かれた大きな包みを持ち上げる。
そこには赤いハサルの花の周りを白い小花で包むかのように飾られた大きなブーケがあった。
「いやに....大きいね。君の身体頭からお腹まで隠れてるよ」
「目立っちゃいますか?ハサルの花は元々一輪が大きいから.....」
「僕が持とうか?」
「うーん。いえ、私からのプレゼントだし、大した距離でも無いし。大丈夫ですわ」
そう言うとミリアーナは小さな足でチョコチョコとテーブルの間をぬって歩き出す。
その姿はまるで尻尾をふりふりした子リスが大きな木ノ実を運ぶ様に見えた。
子爵令息は噴き出すのを堪えつつ少し後を歩き出す。
周りのテーブルにぶつからないよう注意しながらそれでもなんだか跳ねるように前を歩く小さめな彼女が最前列まで到達出来るように少し緊張しながら後を追った。
後、20歩ほど歩けばテーブル群を抜けられる距離のところで、突然ミリアーナはドシンっと何かに思いっきりぶつかった。
「きゃっ⁉︎」
思ったより大きい何かに弾かれてミリアーナは後ろに倒れそうになる。
「人?」前には誰も居なかったのに?
両足が宙に浮いてそのまま行けば頭を打ち付けてしまうだろう、と倒れながら何となく思った。
それを見ていた子爵令息が慌てて手を伸ばす。
しかし、その手はミリアーナを掴むことが出来なかった。
なぜなら、ミリアーナの小さな体を花束のブーケと共にふんわり抱え込むように支える長身の少年が目の前に現れたから。
そう。
突然出現したのだ。
ミリアーナは大きなブーケを抱いたまま斜め60度の体勢で固まっていた。
「.......あら?」
ビックリし過ぎて固まってしまった体が言うことを効かない。
ここでも子リスっぷりを発揮する。
勿論、魔術でもなんでもなく斜め60度のまま人に支えられていた。
「あ、あのあの、すいません。わたくし気付かずにぶつかってしまいました」
ミリアーナが空を見上げながらそう言うと、はっとしたように長身の少年はゆっくりとミリアーナの体を90度まで起こしてくれた。
抱き起こされたミリアーナは、ホッと小さく息を吐く。無事だったと安堵し、足にぎゅっと力を入れて地面に立つ。
そしてふいっとブーケの隙間から目の前の少年を見上げた。
そこにはミリアーナの肩に手を置きながら驚愕の顔をし、菫色の目を見開いた暗い銀髪の少年が立っていた。
「 ! 」
「え?」
「な、なんだ?」
「え?何が?」
「嘘だろ?」
「何が嘘なんですの?」
「こんな馬鹿な....」
「何が嘘で馬鹿ですか!」
「いや、本当に?」
「違います」
全く噛み合わない言葉のキャッチボールの後、長身の少年はそっとミリアーナの頬に手を滑らす。
するとビクッと指を強張らせ、自ら手を引っ込める。
「う....わ。凄い.....深い?」
「だから何がですの?」
「甘い。蜂蜜のようだ.....」
長身の少年は触れた手をぎゅっと胸元で握りしめ、ふるりと震えた。
「ほっぺに蜂蜜なんか付けてませんわよ!朝食はハムとチーズのベーグルでしたもの。こちらでいただいたのもケーキと..。ん?スコーンを食べる時に蜂蜜をつけたのだったかしら?」
あら?と考え込むミリアーナに後ろから子爵令息が小声で話しかける。
「ねえ、もうそろそろ行かないと」
「はっ。そうでしたわ。ブーケを渡さなければ!」
ミリアーナは大きな瞳を瞬きさせてブーケに目をやる。
「それじゃあわたくしこれで失礼しますわ。ぶつかってごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて長身の少年の前からチョコチョコ歩いて遠ざかる。
その様子を胸の前で手を握りながらボンヤリと菫色の瞳で眺める長身の少年。
その顔は
ニヤリと口元が引き上げられていた。
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