第一章 あなたとの出逢い

2.パーティーへ

 その日、ミリアーナは王宮に向かう馬車に子爵である父と兄と共に揺られていた。


「父さま、お城が見えてきましたわよー」


 馬車の小さな小窓からカーテンを少し開け、ミリアーナは青い空にそびえる白い王宮の外壁をキラキラした濃いアプリコット色の大きな瞳で見上げる。


 「どうだい?綺麗で大きいだろう?王宮は魔術師様が結界を張っていらっしゃるから、雨も風もなく穏やかな環境に整っているんだ。浄化魔法で建物もピカピカ。いやー、魔術師様は本当にすごいなぁ‼︎」


 「まあ、魔術師様は数が少ないので、殆どお姿を見ないですけどね。魔術学院に入学出来ても、魔術師様になれるのは一握りとか」

 「そうだねー。魔力を魔術に変換する、なんて難しい事しながら更に術を行使するなんて、私には無理だ。......まあ、私は魔力自体無いんだけどねー」

 父のアーガストは軽く手を振りながら和かに笑った。


 「僕もです。魔力が無いと判った時はガッカリしましたが。魔術師は高給取りで地位も高いですが自由が少ないし、行動にかなりの制約があるそうなので、なんでも良し悪しがあるんだな、と思います」

 そう言うと兄のハルトは苦笑した。


 「わたくしも自由がないのは嫌ですわ。でも、お水を手から出せたらお花の水やりがとっても楽になるんですけど」

 そう言いながらミリアーナは小さな手をぎゅっと合わせてパッと開いてみせた。勿論何も出ない。


 「僕たち家族は母さまも含めて誰も魔力が無いからね。残念だけど水やりはジョウロであげてね」

 クスクス笑いながらハルトは可愛らしい妹の頭を撫でる。


 「やだ、兄さま。髪が崩れます。今日は王子様がいらっしゃるんでしょ?ぐちゃぐちゃだったら恥ずかしいわ!」

 「大丈夫だよ。ミリアーナはとっても可愛いから。元々ふわふわの癖毛だし」

 「でもでもー!ぐちゃぐちゃとふわふわは違いますわ!」

 そう言いながらミリアーナはハルトの手をペシペシ叩く。


 「ふふ。楽しみかい?ミリアーナ。初めてのパーティーだものね?レジン王子は同じ10歳におなりだ。今日の誕生日パーティーは年の近いご令嬢やご子息が沢山招待されているだろう。気の合う子が居れば良いね」

 優しくアーガストが微笑むと


 「ええ!とっても楽しみですわ」


 ミリアーナは髪に手を当てながらニッコリ笑った。


 王宮への外壁を抜け、馬車の停留所へ着く。

 先に降りたハルトに手を出されステップを降りると素早く馬車はその場を離れ各家名の待ち場まで戻って行った。


 ミリアーナは今年10歳になるカサナロ子爵の長女である。

 薄いミルクティー色のふわふわの髪を腰まで伸ばし、アプリコット色の大きな瞳とピンクの小さな唇はふっくらした色白の肌に映えて年頃の好奇心溢れる少女独特の魅力を醸し出していた。


 性格は優しい父アーガストと穏やかな質の母ラシェル。5歳離れた家族想いの優秀な兄ハルトに真綿で包まれ、ぬくぬくと愛情一杯に育てられ、本人もお転婆ではあるが、大変心優しい娘に成長した。


 カサナロ子爵の領土は差して広くもないがここ10年ほどは大変肥沃な土地に改善されており穀物もさる事ながら、おそらくこの地のみに咲く珍しい赤の星形が四重なっているような「ハサル」の花が特産になっている。


 ハサルの花は濃厚な匂いは無いが、部屋に一輪差して置くだけで空気を清浄、浄化する効能が発見され、医療現場などで近年取り入れられるようになり、ハサルの花の加工した製品開発が進み、カサナロ領地は裕福ではないが逼迫している訳でもなく寒暖差も少なく穏やかな地風も相まって人気のある領だ。


 ミリアーナは初めて作ってもらった黄緑色の生地に金色の刺繍で彩られたドレスを嬉しそうにクルリとひるがえすと、ふんだんに使われたシフォンとレースがふわりふわりと後を追って止まった。


「父さま!人が沢山沢山いますわ!こんなに沢山の人を見たの初めてかも!子どももあーんなに沢山!」


 と、沢山を連呼するミリアーナは興奮状態だ。


「ふふ。ミリアーナ、おいで。今日は子供達だけでテーブルにつくようだ。一番前が王子様が座る席だよ。その近くが公爵家。ミリアーナはこの辺りかな?」


 そう言いながらアーガストは一つ椅子を引いた。


 一番前からは大分離れているが、ミリアーナは全く嫌がらず素直に座った。


「王子様の近くは緊張しますわ。それより父さまは私と一緒に座ってくださらないの?ミリアーナさみしい.....」


 アーガストは思わず可愛い娘の頭を撫で回したかったが、左手で右手首を掴んで寸でで止まり、ニッコリと微笑みながらこっそり耳元で囁いた。


「後で抱っこしてあげるからね。ミリアーナももう10歳だ。周りの子達と楽しくお喋りしてごらん?きっと良い想い出になるよ。仲良くなったら文通するのも良いよね」


 父にとってはいつまでも幼い愛娘であった。


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