第5話
お茶を飲んで一息ついた権藤氏は再び話始める。
「実はここだけの話ですが、井上さんは違法行為に手を染めようとしているらしいのです」
「違法行為?」
「事が露見する前に私が直接本人に会って、やめるように説得したいのですよ」
「いったい、どのような違法行為が行われているというのですか?」
「実は、あの近くに別のワームホールがあるのです」
「何言ってるんです。あの近くに別のワームホールがないのは確認済みですよ」
「それは登録されたワームホールでしょ。もし、未登録のワームホールが近くにあったとして、探知できますか?」
「それは……」
最新鋭の重力波探知機なら、半径二十天文単位内にあるワームホールの放つ重力波を探知できるらしい。しかし、うちの会社が使っている旧式で性能ガタ落ちの探知機ではせいぜい七……いや六光秒が限度だろ。もちろん、探査プローブを飛ばす予算などない。
近くに未登録のワームホールがあっても分からないだろうな? しかし……
「未登録のワームホールがあるとして、それが何か問題でも?」
「井上氏はそのワームホールを使って、兵器の輸出を考えているかもしれないのです」
「兵器? 確かに死の商人というのは印象悪いですが、兵器輸出は禁止されてませんよ」
「紛争地帯でなければ」
「それじゃあ、その未登録ワームホールの先にあるのは……」
「タウ星系です」
「あちゃあ!!」
タウ・セチ恒星系と言ったら五年前に軍事クーデターが起きて政権が倒れた後、内戦が続いているという。地球連邦は何度も調停しようとしたのだが、軍閥が群雄割拠している状態で、もはや誰と交渉すればいいのかすら分からない状態らしい。とりあえず、タウに繋がるワームホールは厳重に管理され、兵器の輸出は禁止されているが……
「五年前に、タウの業者がワームホールを開いた後に内戦が始まって逃げ出した。その時のワームホールが、ほったらかしなんです」
「そのワームホールの近くにうちのワームホールが繋がってしまったと……」
「そうです」
「しかし、権堂様はなぜそのことをご存じで?」
「それは……その逃げ出した業者というのは私の親戚でして……」
「なるほど。だとすると、権堂様の身内情報ということですね。それなら井上様は、その事を知らないのでは?」
「う……確かにそうですね」
「権堂様。もし井上様がそのことを知らないなら、そっとしておいた方がよろしいかと」
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