Alius fabula Pars43 変わりゆく街並み

ある日、常連の冒険者から告白があった。

「好きだ!俺と付き合って欲しい!」


別の日、城勤めの騎士から告白があった。

「け、結婚を前提に私と交際して下さい」


誰かが告白すれば、待て待てと後ろに列を成して告白したい者達が我も我もと並ぶのだ。


ここは決して高く無い料金の宿屋”赤い靴”に併設されている食事処で、最近噂になっている宿屋の娘に愛の告白をする愚かな男が後を絶たないと巷で有名になっていた。


求婚する男達が増えると口論や諍いも増えるのだが、騎士達が紳士同盟を提言し食事処での諍いは起こさず、男の魅力で選んでもらう事を前提とした。

無論、反発する者や力ずくで手篭めにしたい者も現れるが、本人も知らないうちに結成した親衛隊なる者達によって未然に処理されていた。


当事者の娘は、両親が苦労して大きくした宿屋の借金を返済して自分が後を継ぐ決心をしたので、恋愛なんてどうでも良いと考えていた。


この様な話しは何処の街でも有る、ありきたりな内容だ。

重要なのは、この様に求婚される女性が時を同じくしてモナスカの街に数人現れた事だ。



ある娘は露店商人の次女。

ある娘は雑貨屋の長女。

また、ある娘はギルドで見習い職員候補者だ。


変化は春から初夏にかけて起こった。

日々暑くなる日差しに衣服の着用も少なくなり、薄手の布を使った露出の多い物となる。

夏になれば見慣れた物だが、今年の夏は違った様だ。


食事をしながら忙しく料理の注文を受ける娘を見て常連客がその事に気づく。

「なぁ、あの子最近良い感じじゃねぇ?」

「そうだな。ちょっと大人びて色っぽくなったなぁ」

「なんだ、お前も見てたのかよ」

「ふんっ、オメェは知らないのか?」

「何をだ?」

「この子を含めてモナスカの街じゃ、数人が話題になってるぞ」

「何ぃ!本当か!」

「あぁ、俺も見てきたから悩んでるんだ」

「何で俺を誘わないんだよーって、お前が何を悩むんだ?」

「どの子が1番良いかに決まってるだろ!」

「おまっ・・・明日案内してくれよ!」

「しょうがねぇなぁ」


「それで、具体的にどんな感じなんだ?」

「ふむ。それがな、デカいんだ」

「何が?」

「ここだ」

そう言って胸部に手を当てた。

「乳か!」

うなづく連れの男。

「でもよ、乳がデカいだけなら幾らでもいないか?それに太ってるだけの見間違いも有るしよぉ」

「ふふふっ」

不敵な笑みを浮かべる連れの男。

「驚くなよ、乳だけが張り出してる。ほらここの娘も同じだ」


そう言って二人で娘の胸部をガン見する。

「「たまんねーな・・・」」




食事処の違う卓では。

「俺は露天のアムちゃんが一番だと思う」

「何言ってんだ。俺は雑貨屋のキーちゃんが一番だと思う」

「てめぇらの目は節穴だな。見習いだが頑張ってるギルドのルルちゃんに決まってるだろ」

「おい、いい加減にしろ!この店のミアちゃんが一番に決定だぁ!」

「「「ふざけんなぁ!」」」


この様な戯言で揉める男たちが昼夜問わず街の至る所で騒いでいた。

とは言え、市井の者達が賑わっている事は街の繁栄を意味する所である。

では市井以外はどうだろうか?




貴族と言う生き物は基本的に宴席を催し、毎夜派手な趣向で酒精を嗜み、美味しい料理を堪能しているが、実際は週単位、月単位で宴席の計画を作り、名目と主催者が割り振りされている。


本当は金も掛かるし出席は断りたいのだが、貴族の派閥や様々な事情で顔を出さざるを得ない。

当主やご婦人に配偶者と貴族だけならまだしも、豪商や高位の冒険者など力の有る者たちも顔を出す様だ。


宴席の名目は様々だが、派閥の宴や、大規模なものもあれば、小さな宴席も有り、男性主体に女性主体の宴もあると言う。



そんな日々忙しい貴族達に、最近新たな集まりが出来たと噂が広まっていた。

中心人物は貴族の中でも高位の女性で、当初は数人の集まりだったが、今では二桁に増えているそうだ。

その集まりが、定期的に行う宴席が午後から行われていた。

女性主体なので、宴席は午後と暗黙の了解が有り酒精は無く、日が沈む前には終わるそうだ。



某公爵家の庭園に作られた宴席は、自慢の花が咲き乱れる美しい庭園で、紅茶や薬草茶を嗜み、焼き菓子に軽食で小腹を満たす程度で有る。

主役は別に存在するが、一番の目的は"おしゃべり"である。



沢山のご婦人やご令嬢が集まる中、主催者が遅れて登場する。

「お集まりの皆様、本日の主催者が挨拶にお見えになりましたので、こちらに注目して下さい」


全員が執事の様な男の方を見た。

「それでは、王妃フィル・プロピン・モナスカ様の登場でございます」

全員が拍手する中にモナスカの王妃が現れた。


「みなさん、ご機嫌麗しゅう御座います。本日はみなさんに新たな仲間を紹介する機会が出来て大変嬉しく思います」

全員が王妃の発言を聞いていた。


「ご本人は我らの仲間になる為に随分と努力をして来られました。過去はともあれ、美に認められた仲間ですから、みなさんも同様に仲良くして下さいね」


宴席に出席しているのは本会員と準会員に、その親族たる予備軍だ。


準会員と本会員の違いは、ビフォーとアフターであり、準会員は本会員になる為に金を貢ぐので有る。

本会員には金の出入りはあまり無いが、金では手に入らないモノを持つ事ができ、見栄と自尊心を大きく持つ事が出来るのだ。


「それでは登場して頂きましょう。ラファイ子爵の御婦人であるクレディ・ラファイ婦人と、サンド辺境伯の御息女スタージュ・ライ・サンド嬢の登場です」


大きな拍手の中現れたのは二人の女性だ。

二人とも準会員だったが、今回から本会員として昇格した様だ。


クレディ・ラファイ子爵婦人は三十代後半だが、身体の線が強調されるドレスを身に纏い、以前の姿を知る会員達に変化の違いを見せつける衣装で登場した。


辺境伯の長女であるスタージュ・ライ・サンド嬢も以前の姿と全く違う自分を見てもらう為にラファイ婦人同様で露出の多い衣装を着用さしている。


「「さぁ、見て!生まれ変わった私を!」」


「素晴らしいわぁ!ラファイ様!まるで別人の様ですわ」


「サンド様、なんて素敵なの!こんなに美しくなるなんて奇跡よ!」


本会員と準会員から絶賛されて有頂天の二人だ。


では、何がどう変わったのか?

それは本会員と準会員を見比べれば自ずと解る事で有る。


本会員の女性達は美しい身体の曲線を備えており、シャープな顎、引き締まった腰回りに、大きく張り出した胸部と、適度に大きな臀部である。

身体に余分な駄肉は一切存在しない。


方や準会員は、金に糸目を付けず贅沢三昧な暮らしの中で育ててきた為、脂肪を身体中に蓄えさせている。太ももの様な二の腕や丸太の様な太もも。もしかして、妊娠しているのではないかと疑いたくなる腹部。衣服では隠しきれない首周りにも駄肉のアクセサリーが巻かれている。


では、準会員がどうして本会員になれるのか?

それこそがこの宴席の秘密であり、仕切っている代表がこの国の王妃だ。




とある施設で施術の際は眠らされているので本会員も具体的な方法まで知らないが、ある種族が関わっている事から絶大な信頼を持っていた。

勿論、準会員は何も知らされていない。


市井の娘達と貴族の女性達。

一見、接点は無いのだが・・・

実際はモナスカの街で人知れず技術向上の為に努力する者?・・・の仕業だ。






だーれも知らない

知られちゃいけーないー


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