第46話 次の大会は?

街は夜通しのどんちゃん騒ぎだった。

初めての職種別闘技大会の勝者が女性だった事もあり、魔物で有りながら人族の人気も高いようだ。

賭けに勝った者は喜びの酒精を浴び、次は更なる大金を手に入れると豪語する。

賭けに負けた者は、そんな奴らを横目で眺め、次こそは!と、酒精をあおりながら負けた者同士で次の優勝者の予測で酒場を盛り上げている。



剣術の後は拳技だ。

各国とギルド支部には大会予定競技の順番が通達してある。

競技の種類によっては種族に得手不得手もあるだろう。



バリカタ教からは幾人もの参加者が出ているが、その中でも有力候補が居た。

辺境の教会で司祭の肩書きを持つが、実は武術に特化した戦闘集団養成所だ。

教祖から指名されたのは男の名はハリガーネと言う。

筋骨隆々の三十代後半のオジサンだ。

モンクのハリガーネたちは無手戦士だ。

基本的に無手だが、武器や防具も存在する。

手首位先に装備可能な武器。

棍棒や刃の無い武器。

腕に装備可能な武器兼防具。

膝下に装備可能な武器兼防具。

胸部の防具。


優勝必須で挑む覚悟のハリガーネだ。

優勝確実と自他共に認めているが、周りからの圧力も強く受けている。

そんなハリガーネは他九名のモンクと共に教皇の前に訪れていた。


「我が教会の望みは、この中から拳王が生まれる事である。上位を独占しても構わないぞハリガーネよ」

「ハッ、猊下のお望みのままに」

「おぉ、出来ると申すか?」

「それこそが我らの存在理由でございます」

「ウム、神の御加護が其方達にも届くように祈りを捧げようぞ」



教皇が入手した事前情報によれば、冒険者にはほぼ無手戦士は居ないらしい。

他国や異教にも際立って名の通る者は存在しない。



バリカタ教のモンク達は事前に集められて、剣術の大会を見学していた。

もっとも、見学していたのは全ての国や何かしらの組織に属する者達であり、魔導具を使用して魔法を使わなければゴーレムを倒せない選別試験だと認識を得ていた。


剣術の試合が始まる頃には、以降の大会参加予定者に対して国や組織から魔導具が貸し与えられた。

全ては本戦に向けての準備だが与えられた魔導具には、この時点で優劣があった。


魔導具の強さに、効果を正しく理解し行使出来る者だ。

説明を受けても夜な夜な練習する者も居たらしい。




一方で、王国で選別された獣人族が鍛錬に余念は無かった。

基本的に獣人族は無手が得意だ。

剣術や弓術などの武器を使う戦闘は後発的に覚えたもので、腕力に爪を利用した攻撃は本能で身体が動くようだ。


そして拳術だか、ザックリとカルニボラと言う括りで集められた中から選抜された強者だ。


その中で人狼族シグル・ノーザはアルゴス・エルギ・ノーザ(獣人族代表)の娘だ。

ノーザ親娘が中心となり王国の無手戦士を編成したようだ。


また一方では族長のメガモナスが音頭をとり、クエルの族が大きな祝宴を開いていた。

厳密に言えばサキュバスはクエルノ族ではないが、この大陸では昔から生活を共にしてきた親戚のような種族だ。

そのように思わせるのはどちらの種族も額から二本の角が突き出しているからである。

個別の能力は違えども戦闘特化種族と特殊能力種族が協力体勢を築いてきたのだ。


そんなに種族に最強の女戦士が現れたのだから両種族は只事ではなかった。

サキュバス族は強さよりも特殊能力で地位を確立していたがファルソの登場で鼻息が荒い。

クエルノ族は同胞を打ち負かした女戦士を一目見る為だが、内心は嫁に迎える想いを抱いて祝宴に参加している者がほとんどだ。


メガモナスは聖魔王の剣技指導で召喚された戦士の認識だが、既に自国に迎え入れる気満々である。


ファルソの周りには大勢の角を生やした男女が押しかけており、その場はメガモナスの采配で取り仕切っている。


ファルソ殿、得意技はなんでしょうか?

ファルソ様、普段から剣の修行をされているのですか?

ファルソ殿の好きな食べ物は何ですか?

ファルソ様の好みの男性はどの様な方ですか?

ファルソ殿は独り身でしようか?

などなど、四方八方から声が飛び交っている


「お前たち、そんなに押しかけて一堂に話すと我らが剣王も困っておられるではないか。剣王は何処にも行かんのだから用の有る者は手紙でも渡せば良かろう」


流石に同胞達が似たような質問をしてくるので気を効かせたつもりのメガモナスだが、同胞にとっては手紙で告白出来ると知り一斉に散らばって行った。


「やっと行ったか。申し訳ないファルソ殿」

「いっ、いえ・・・こちらこそ、ありがとうございます」

「全く凄い人気だわい」


そこにファルソも見知った顔ぶれが現れた。

ドメタにムガルにシングだ。

「ファルソ殿、我々を貴殿の元で双剣の修行をさせてほしい」

「はぁぁ?」

「ちょっと待て、お前たち」

驚くファルソに間髪入れずに割行ったのはメガモナスだ。


「そもそもファルソ殿は弟子など取らん。現在は我らが国の来賓として迎え入れていた方だ。お前たちの望みは叶わぬと思っておけ」

聖魔王の師匠として剣技を教えている事を知っているので、今は諦めさせるメガモナスだ。

(ありがとう族長)

だがファルソには信頼を得た様だ。


メガモナスの本音は聖魔王の修行が終わり次第、自分を含めたクエルノ族の精鋭に修行させようと企んでいた。


焦りながらもその場をしのいで美酒を嗜むファルソ。

種族の優位性を高らかに誇るサキュバス達。

幾つかの城の一室では三連券の配当金額に喜ぶ女性たちが居たそうだ。

それを横目に悔しい思いをする帝王が居たとかいないとか・・・

はたまた、次こそは勝つ為に筋トレを始めた魔王がストレッチをしているとか・・・


未だかつて見たことの無い収益で我を忘れそうになって騒いでいるギルドの総帥は多くの職員に目撃されている。


そんな中、冷静なのはギルドの大会責任者数名だ。

明日からは次の大会に向けての予選が始まるからだ。

二回目の予選は前回とは違い、明らかに数で勝負する計画を立てていた。


拳王戦の予選は数で攻める作戦の運営だ。

ゴーレムの強さは三段階まであり、勝ち進むほど強さと個体数が多くなる。

基本的には前回同様で参加者を傷つける事はせず、捕まえて装備を剥がしたり遠くに投げるだけだ。

挑戦者は時間内に指定の個体数を戦闘不能するか、一定の破壊が求められる。


一回戦は第一段階の木のゴーレム二体

二回戦は第一段階の木のゴーレム三体

三回戦は第一段階の木のゴーレム四体

四回戦は第二段階の木のゴーレム三体

五回戦は第二段階の木のゴーレム四体

六回戦は第二段階の木のゴーレム五体

七回戦は第三段階の木のゴーレム四体

八回戦は第三段階の木のゴーレム五体

九回戦は第三段階の木のゴーレム六体

十回戦は第一段階の鉄のゴーレムニ体


運営的には無手戦士は直接攻撃を主体にしたものを想定して木のゴーレムを使い数で対処する考えだ。

その為に戦闘時間も前回とは違い倍に設定してある。

とは言えせいぜい十分程度なので、ダラダラ戦っているとゴーレムを倒せずに失格となるから、初撃から必殺の攻撃で戦うしかないのだ。








拳技は手に持つ武器は認められない



この大陸における異教とは、名前が違い内容も多少違うが崇め奉る神は同じである。(バレンティアだ)


カルニボラとは、ネコやイヌなどをまとめて大別する括り。


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