第44話 本戦二回戦目 

二回戦の対戦相手は改めて"厳正な組替え"で戦う事となった。


第七試合

ファルソ(サキュバス族)対シング(クエルノ族)

第八試合

ムガル(クエルノ族) 対ラダー(帝国出身騎士)

第九試合

ドメタ(クエルノ族) 対オルド(グラディオ出身冒険者)


この対戦表を見てムガルとドメタは楽勝だと判断して余裕の表情だ。

一方のラダーとオルドは緊張が走った。

そしてもう一人、対戦を嬉しく思った者が居た。

それはシングだ。

何故ならファルソの戦いぶりを観ていて、闘争心を掻き立てられ無性に手合わせしたくて

ウズウズしていたからだ。


もっとも、それはムガルとドメタも同様だったが、先をシングに奪われてしまった様だ。

もしも、シングが負ければ優勝争いで対戦出来るので、人族を軽く捻り潰してやろうと思っている二人だ。



「只今から二回戦目の第七試合を始めます」



第七試合はファルソ対シングの戦いだ。


二人の魔物が闘技場中央に現れると観衆が一斉に沸きたった。

それは第一試合の様な魔物同士の激しい戦いが観れると思った人族と、この試合で決勝戦に出る三人の一人が決まるからだ。


それは三連券の一人と言うことなので、同族に掛けているクエルノ族が盛り上がっている。

その熱気は対戦する二人にも分かっていた。



カンカンカンカン



試合開始の鐘が鳴ると両者共に強化魔法を使った様だ。

するとファルソがしゃがみ込んだ。

左手を上げ後頭部を触る様な仕草で、右手は左脇に当てている。

そして右足は膝立ていた。


その姿を観て自分の強さに恐れていると錯覚してしまうシングだが、予定通り魔法剣を出してファルソに向かって走り出した。



「あー、シング終わったな」

「どう言うことだ、聖魔王よ」

「まぁ、直ぐ終わるから観てれば分かるよ」



ほとんどの観衆は違和感を持っていたが、試合の成り行きを観ていた。

気付く者も居たが、魔物だからと当たり前の様に観戦していた。


何故ならファルソは手ぶらだからだ。

一回戦の時の双剣は携えていなかった。


「その腕、もらったぁぁぁぁっ!」


左腕を狙ったシングがファルソに切りかかった。


ギンッ‼︎

「何ぃぃ!」


自身の魔法剣が遮られたと同時に両足に激痛が走った。


シングは黒い魔法剣の下に蒼白の魔法剣を観ながら崩れた。


両足の切断を目撃し即座に四人の審判が駆け付けて合図を出した。



カンカンカンカン‼︎



試合開始後数分で勝負が決まった様だ。


シングは立ち去る小柄な少女の両手から蒼白の双剣が消えていった瞬間を見た。

(まさか、氷の魔法剣なのか?あの娘・・・)



「ほらね」

「あれは氷の魔法剣か?シングの攻撃を左腕で誘って瞬時に顕現させた剣で防ぎ、右手の剣で両足を切断。その為に最初からしゃがんでいた訳か。聖魔王は知っていたのか?」

「まぁね」

「と言う事はファルソの掛札を買っているのだな」

「勿論」

「チッ、買ってないのはワシだけか」


魔人王と聖魔王の会話に入っていくギルドの総帥。


「かぁぁ、まさか女が勝つとはなぁ」

「ステラジアンは買ってないのか?」

「買ってない。あんな小柄な女が勝ち残るとは誰も思わんだろ」


すると約三人にがニヤニヤしていたが、余計な事は言わずに最終戦まで黙っているつもりだ。

ステラジアンの悔しがる姿を楽しみにして内緒にするらしい。


観客の人族はほとんど理解していない様だった。

一部の猛者を除きクエルノ族も同様だが、審査員は結果だけを伝えて次の試合の準備をしている。


ファルソの剣技を期待した者は肩透かしを食らった様だが、観戦していたムガルとドメタは驚愕し対策を練っていた。

まさかファルソが魔法剣を二本同時に出すとは予想外だからだ。


真っ先に思いつくのはエスクードとエスパーダで戦う事だ。

二人は人族との戦いなど眼中に無かった。

全ては、今しがた勝利して隣に座っている小さな女剣士を意識して想定していた。




「続いて第八試合を行います」




第八試合はムガル対ラダーだ。

アッと言う間に終わった第七試合に文句を言う観客が多いが無視して続行された。


ムガルとラダーが中央に立つと、先ほどまでの不評が熱狂に変わっていた。

決勝戦に人族が進めるか、二連券や三連券でラダーを買った者が絶叫して応援しているようだ。


ムガルは目の前の敵などどうでも良かった。

意識しているのは、あの女だった。

勝ち方しかり、クエルノ族の戦士として同様に即座に終わらせる事を意識していた。


全身魔法武具装備のラダーに対して、ムガルは第一回戦とは違い暗黒剣と暗黒盾を顕現させた。

魔法付与された装備でも魔力値の高い方が優位である。

ただの武具と魔法付与された武具は、魔力を持つ者には一目瞭然で解るのだ。

ラダーの何倍も生きてきたムガルは、敵の以上の魔力を使用して顕現させた武具で全力で叩き潰しすつもりだ。

勿論、武具を扱う者の力量でその差を埋める事も可能だ。




「大丈夫かのぉラダーのヤツ」

「魔人王はどちらが勝つと?」

「出来ればラダーに勝って欲しいが・・・」

「実力差もあるでしょう?」

「それを言うと人族に勝ち目は無い。もっと強力な武具を装備させるべきだったか・・・」

「お、始まるみたいだよ」




カンカンカンカン




強化魔法を使い対峙する両者。

ムガルは初激から渾身の力を込めて切りかかった。

ラダーも盾で防御しながら剣を振る。


ガンッ‼︎

しかし、想像を超える衝撃でラダーがよろめいた所に連撃が襲う。

ラダーは反撃しようにもムガルの連撃が押し寄せてくる。

それは呆気なく起こった。


ガキンッ!

「グゥッ、そんなっ!」

ラダーの盾が破壊されてしまったのだ。

それでも戦いを続けようとするラダーにムガルの連戟が襲い掛かる。

圧倒的な強さで襲い掛かるムガルを剣で受け止めるラダーを応援する人族。

しかし、ラダーの視界に予期せぬ物が入った。


「!! 、審判んんんっ!!」


激しい剣戟を受けながら慌てて審判を呼ぶラダー。

ラダーが見たのは剣に走る亀裂だった。

後、何回耐えるか分からない魔剣を使い剣戟を防ぐラダー。

そこに審判の一人が走り寄ってきた。


「どうした?」

「こう・・・」

ガキンッ!!

その瞬間魔剣が折られた。


「「「!!!」」」

「降参だ!!」

間髪入れずに負けを認めたラダー。

それを聞いて二人の間に入る審判に気づくムガル。


残りの審判が集まり試合終了の合図が送られた。

魔法剣と魔法盾を破壊されたラダーが降参したためムガルの勝利となった。


喝采と共に闘技場の半分が歓喜し、残りは落胆の色を見せた。



「あの武具を力ずくで破壊するとはムガルもやるのぉ」

「魔剣って破壊できるんだね。初めて知ったよ」

「まぁそもそも、あの魔剣自体が弱かったのかも知れんしな」

「ええっ帝国の宝物だよね」

「正しくは宝物庫に有った物だ。出処も知らんしアレ自体の強度も知らんからな」

「そうだったら、ラダーは良くしのいだね」

「ふむ。あのムガル相手に無傷で逃げ切ったのだからな」

「まぁその代わりに剣と盾が犠牲になったけどね」

「・・・より強い魔剣を作らせるか」

「今から?」

「勿論、次回の為だ」

「ああ、なるほどね」


魔人王は次回の大会に向けて強力な魔剣を作成する事を決めた。

(ドワーフに依頼してみるか・・・)




闘技場は血で汚れる事も無く次の準備が行われた。

「続いて第九試合を行います」




二回戦最後の第九試合ドメタ(クエルノ族) 対オルド(グラディオ出身冒険者)だ。


闘技場は観衆の声援が鳴り響いていた。

この戦いで優勝争いの三人が決まるからだ。

ファルソとムガルにもう一人。

オルドが人として勝ち進むか、全て魔物が勝ち進むか運命の一戦だ。


「勝てぇぇぇっ!!オルドォォォッ!!」

「うるさいぞ、ステラジアン」

「まぁまぁ、自国の者が最後の戦いに出るから仕方ないでしょう」

「聖魔王は余裕よのぉ、三連券も魔物で買っているのか?」

「勿論」

「まぁ今回は惨敗だが、次は勝たせてもらおう」

(それって勝負の事だろう?それとも勝ち残る戦士かな?)




カンカンカンカン



試合開始の鐘が鳴り、両者強化魔法を使う。

ジェミノスのオルドは必殺の斬撃波を放つ為力を溜めている。

そんなオルドの戦いを見ていたドメタは、その技を真似る事にした。

ドメタが貯めるのは有り余る魔力だ。

初めて試す斬撃派をうまく発動させられるか不安なので、オルドには放たず誰もいない方向に向けて剣を振った。


すると、どうだろう。

刀身から放たれた黒い斬撃が闘技場内の壁に当たり、爆発音と共に大きく崩れた。


「おっ、これは使えるな」

「へっ!?」


思ってもいなかった威力に得した気分のドメタと、途轍もない破壊力を目の当たりにして呆けてしまうオルド。


出場者には全員闘技場内の説明はしてある。

中でも、内壁は人が三人分はある高さで、強固な作りと魔法付与もしてあるので、高度な魔法や攻撃にも耐えられる仕様になっていると。


「審判んんんんっ!!」

(威嚇であの威力なんて、あんなの防御できねぇし、まともに喰らったら命が幾つあっても足りん)


オルドは早々に負けを認めた。

ドメタは試し打ちしただけだったのだが、オルドにとっては脅威だったのだろう。


後日、ドメタに他のクエルノ族も試すが、魔力の調整が難しく、魔力を込めれば強力な残撃波を出せるが連発は精々十回ほどだ。

中には一、二回しか出来無い者も居たとか。

何度も放つにはかなりの熟練度が必要と判断し種族特技にするらしい。



カンカンカンカン

試合終了の鐘と、オルドの負けが報じられた。

闘技場は熱気と不評の野次が飛び交っている。


「何で・・・」

呆然とするステラジアン。

「同じ技でも、あの威力を見たら仕方あるまい」

「しかしだなぁ・・・」

「では貴様はあの攻撃を交わせるのか?」

「そっそれは・・・やって見ないと分からんだろう」

「では聖魔王とやって見たらどうだ。あの程度の技は支えよう」

「ああ、簡単だね」

「なぜ俺が聖魔王と戦わなきゃいかんのだ」

「貴様が交わせると言うからではないか」

「それは・・・例えばの話だ」

「だったらオルドの判断は正しいだろうな」

「しかしだな、戦いもせず敗北を認めるなど剣闘士として有るまじき事だ」

「だが、オルドは冒険者としての顔も持つのだろ?あの技を見て勝てる手段が無いと判断するのも、強い冒険者には必要な事と言えよう」

「これが闘技場でなく、討伐依頼だったらどうなってたかな?」

「うぐっ・・・」

「まぁ、もう終わった事だ。それより三人の券は勝ったのか?」

「買ってない・・・」

「なんだ、貴様もか」

「帝王も人だけ買ったのか?」

「いや、ファルソだけ買ってない。単券の魔物は買ってあるぞ」

「くそっ」

悔しがるギルドの総帥は全て人に掛けて全滅したようだ。

この時点では優位に立っている魔人王だが、明日の決勝戦でどうなるかは解らない。


翌日に持ち越される決勝戦は、三人の総当たり戦だ。

ファルソ、ムガル、ドメタの誰が勝利するのか?





決勝戦の三人は翌日の戦いとなります。

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