第45話 勝者は?

前日の試合の後は、場下街の飲食できる場所では大賑わいだったようだ。

魔物達は王国から剣王が出る事を高らかに誇り、誰が勝利するかを議論している者が多かった。

対して人族たちは、種族からの入賞は無いが、三人の単券とムガルとドメタの二連券を持つ者が多いようだ。

流石にどの種族もファルソを含む三連券を買っている者はいなかったらしい。




本日行われる決勝戦は、三人の総当たり戦だ。

ファルソ、ムガル、ドメタの誰が勝利するのか?

初戦は連撃のムガルと斬撃破のドメタの戦いだ。


すると試合開始前だが、ムガルが誰も居ない方向に剣を振った。

するとどうだろう、ドメタ同様の斬撃波が壁を襲い爆発音と共に粉々になっていた。

(ふん、かなりの魔素を使うが出来無い事も無いか)

「・・・」

それを見ていたドメタは作戦を変えるようだ。




「只今から三回戦目の第十試合を始めます」

カンカンカンカン



試合開始の鐘が鳴ると、両者ともに魔法を使って強化した。

すると、ゆっくりと歩き出すクエルノ族の戦士達。

二人が攻撃範囲内まで接近すると立ち止まり会話を交わす。


「ドメタ、お前の技、使わせてもらおう」

「ほぉ、では我が連撃で阻止してやろうではないか」

互いに不敵に笑いかまえた。



「おい、動かんぞ」

「互いの力量を押し並べて、先に動いた隙を狙っているのだろう」

「そんな事まで解るのか魔人王は!?」

「むしろ、解らん方が可笑しいだろう。なぁ、聖魔王よ」

「その通り」

(焦ったぁぁぁぁ、いきなり振るんだもんなぁ)

「むっ、俺もそうじゃ無いかと思ったわ!」

負け惜しむステラジアンが自分を弁護した。


観客も動かない二人を観て、野次を飛ばす者と理解する者に別れていた。


ジリジリと時が進み両者に汗が滲む。

観客も勝負を見逃さ無いように集中して観ていた。



それは同時だった。

「「キェェェェッ!!」」

互いが放つ連撃を剣と盾で交わしながら、相手に渾身の連撃を放つ二人。


長い睨み合いの後は、長い打撃戦である。

その打撃戦も両者互角のまま時間だけが経った。


ギンッ!!

二人の魔法剣が重なり押し問答となる。


「やるじゃねぇか・・・」

「貴様もな・・・」

「ここまで我と互角とは驚いたぞ」

「それは我の方だ。貴様など捻ってやろうと思っていたが、やり方を変える必要があるな」

「ふんっ、それは我も同じよ」

「「はっ!」」

二人は一斉に後方へ飛び退いた。

そのままジリジリと距離を取る両者。


剣を構えたまま微動だにしない両者。すると

「「ハッ!!」」

黒い斬撃が双方に飛んでいった。


バチィィィン!!

お互いの斬撃波が衝突して霧散したようだ。


「ハッ」

「フンッ」

バチィィィン!!


「「・・・」」

斬撃波も同等の威力のようだ。


「ハッ、ハッ、ハッ」

「フンッ、フンッ、フンッ」

互いに連続して斬撃を放ち続けた。


「フンッ・・・ん?」

そして、先に魔力の低下で魔力波が出なくなったのはムガルだ。

するとドメタの斬撃が襲い掛かるが魔法の盾であるオスクロ・エスクードを斜めに構えて斬撃波をいなす。


何発も斬撃波をかわすが、対抗手段も無く再び接近戦に持ち込もうとするムガルだ。


魔物同士の戦いに同族や人族も熱狂しているようだが、長い戦いの末、鐘の音が闘技場に鳴り響いた。


鐘の音が鳴り響いても戦いを続けている両者に審判の4人が駆け寄って静止した。

決勝の審判は魔物が三人と人族が一人だ。


両者とも未だ興奮が覚めやらぬようで、激しい息づかいだ。


審判の焦点は、戦闘内容だ。

勝敗が決まらなかったので、どちらが優っているか、劣っているかを検討している。

その結果・・・


「勝者は・・・ドメタとする。勝敗の理由はムガルよりも多く斬撃波を放った事が勝因だ」

「チッ」

ムガルは残念そうだが、ここで悪態はつかない。

戦う事に関しては非常に真面目な種族だ。

自身の力を理解して、次までに相手よりも強くなる事に切り替える思考を持っている。


闘技場内は歓声に沸いていた。



「ドメタの勝ちか」

「なかなか良い試合だったのぉ」

「クエルノ族って皆んな斬撃波出せるのかな?」

「イヤ、聞いた事は無い」

「あの2人だけ?」

「人の戦いから学んだのだろう」

「凄いね、クエルノ族は」

聖魔王に褒められて、何故か嬉しそうな表情の魔人王だ。




「只今から第十一試合を始めます」




ムガルが連戦するので多少時間が掛かったが、回復薬を飲み参戦した。

ムガルの対戦相手はファルソだ。


ムガルが勝てば、ファルソとドメタの試合次第で、もう一度ドメタと再戦する可能性もある。

ファルソが勝てば、ドメタとの戦いが決勝戦となる。


ファルソを含む三連券を買っている者がどれだけ居るだろうか?

だが、ドメタとムガルの二連券を買っている者は多いようだ。

魔物達の声援が闘技場内に響きわたる。





カンカンカンカン

試合開始の鐘が鳴った。




両者魔法で強化して対峙する。

仕掛けたのはムガルだ。

手ぶらで無防備に見える小さな少女に襲い掛かる。


ムガルが連撃を放とうと剣を振り下ろした時、ファルソの左手には氷の魔法剣が有り、防御の体制を取るかと思ったその瞬間、騒然とした。

女戦士ファルソが危ういと誰しもが思った。


チュドオォォォォォン!!


大爆発を起こしてムガルが後方に吹き飛ばされた。

立っていたファルソの右手には、燃え盛る炎の魔法剣が存在した。


湧き上がる歓声だ。

剣技の戦いに、攻撃魔法のような効果を出す魔法剣の登場で観客は沸いていた。



フォーレは親友の妻が持つ炎の鎧からヒントを得て、剣先が触れた方向に爆発するように強い思念で魔法剣を顕現したのだ。

魔法剣に特定の効果を持たせること自体難易度が高く、親友曰く”やっぱお前は天才だ”と言わしめた。



「・・・くそっ、何が起こった!?」

爆炎の向こうには燃える炎の剣を携えた女が立っていた。

「氷と炎の剣かよ、すげぇなオイ」

盾を持つ左腕が痛いが我慢して起き上がるムガルだ。


「ならばこれはどうだ、フンッ」

ムガルは斬撃波を放ったが、軽々とかわすファルソ。

「フンッ、フンッ、フンッ、フンッ」

四連続の斬撃波だ。

しかし、ファルソには通用しなかった。

直線で飛ぶ速い斬撃は、自身目掛けて組んでくるので、左右に避けるだけで済む事だ。


だが、高速で飛ぶ斬撃波に対応出来る者が少ないがファルソは違う。

ファルソは身体強化魔法では無く、四肢に装着している魔導具を起動させて戦っているだけだ。

右手足の身体速度上昇魔導具に、左手足の筋力強化魔導具だ。

個別の強化魔導具を使う事による相乗効果と、自信で使う身体強化魔法は奥の手として残してある。


ファルソは四つの魔導具で強化を図るのは魔素の消費が少ないからだ。

ただでさえ魔法剣は消費魔素が激しいので節約するためである。


「クッ。く、来るな」

ファルソはムガルに近づいていた。


自分の攻撃が通じず、相手の魔法剣に畏怖したのだ。


どうにか立って迎え撃つ覚悟が出来た時には目の前に立ち強敵。

「ウオォぉォォォッ!!」

雄叫びと共に襲い掛かるムガル。


チュドオォォォォォン!!

爆発音と共に吹き飛ばされたムガルだが、爆炎の中にファルソの姿が有った。

しかも爆発の範囲は剣先の方向だけだ。

ファルソは過去にクエルノ族に敗北し、自らの力で編み出した爆炎魔法剣であり、これこそが対クエルノ族用の対抗策である。


追撃するファルソの一撃。

チュドオォォォォォン!!

連続で吹き飛ばされるムガル。

チュドオォォォォォン!!


盾越しだろうとも爆発の衝撃は全身に影響し、大きく吹き飛ばされて大地に転がるムガルは微動だにしなかった。


「しんぱぁぁん!」

ファルソは審判を呼びムガルを見てもらった。


「死んだのか?・・・息はいてるか・・・」

ムガルは気を失っていた。

この時点で審判は合図を送り試合終了となった。


沸き立つ歓声。

優勝はドメタとファルソの一騎討ちとなったからだ。

必然的に負けた方が次席となる。



「聖魔王はあの攻撃を知っていたのか?」

「イヤ、初めて観た。突き刺した場所が爆発するなんて、俺の魔導具も出来るのかなぁ?」

「しかし、いくら魔法攻撃無効の能力があったとしても、あんな至近距離の爆発を何度も喰らえば流石にヤバいかもしれんな」

「頑張って使えるようにするよ」

「ならば対抗策も考えねばならんな」

互いに牽制しながら楽しんでいる二人だ。


ステラジアンは、自分で買った券が全て外れてしまったので、ギルドの収益と配当に意識を切り替えて、ギルドの事務所に行ったようだ。


聖魔女と魔天女は当たり券をしっかりと確保して、余裕の表情だ。

どちらもファルソ優勝の連券を数種類購入していた。



ドメタとファルソに敗北したムガルが自動的に三席となり、優勝決定戦が行われようとしていた。

闘技場は熱気の渦に包まれているようだった。





「只今から優勝決定戦である第十二試合を始めます」




ドメタとファルソは闘技場の中心に移動して戦いの合図を待つ。

ドメタは悩んでいた。

先の戦いでムガルの戦いが通用しなかったので、どの様に戦えば良いかあぐねていた。

ドメタはムガルと同等の力量の持ち主だが、他の闘い方など知らないのだ。



カンカンカンカン



戦いの鐘が鳴ると魔法を使い緊張が走るドメタ。

ゆっくりと歩き始めるファルソは次第に速度を増して駆けていった。


(来る。あの炎の剣先さえ気をつければ・・・)

盾を構えて剣の突きに最大限の注意を払うドメタ。


二人の間合いが重なる手前でファルソが剣を突いた。

チュドオォォォォォン!!

すると土埃で当たりの視界が悪くなった。


(む、どういう事だ。衝撃がないぞ!?)

てっきり自分が攻撃されて爆発したと思い込んでいたドメタ。

次の瞬間。

「ぐわぁぁぁぁ!」

ドメタの絶叫が響いた。


「しんぱぁぁん!」

土埃で霞む中、声を聞いて駆けてきた審判が見たのは両足が切断されて倒れていたドメタだ。


状況を判断して合図を送る審判。

カンカンカンカン

試合終了の鐘が鳴り響いた。

闘技場は奇声を上げる者がほとんどだ。


毎回その場で治癒魔法を使い回復させているが、ドメタから質問があった。

「我はどの様にして負けたのだ?」

実は審判も土埃でよく見えなかったらしい。

そこでファルソが説明した。


「私の爆炎魔法剣は剣先に触れると、その方向が爆発するの。前の試合見てたから分かるでしょう?」

審判とムガルが首を縦に振る。


「だから直前に剣先を足元に刺したの。そしたら爆風でピュゥゥッて、あなたの頭上を超えて後ろ側に着地。そのまま両足を撫で切ったわ」

「「「・・・」」」

(あの瞬間にそんな事を・・・)


しみじみとファルソを眺めてドメタが言い放つ。

「我の負けだ。お前こそ魔物最強かも知れん」

それには審判の魔物も驚いた。



初めて開催された職種別闘技大会で剣の英傑が決まった瞬間だ。


「クルシブルが誇る最初の十傑は双剣の戦乙女ぇぇ、ファルソだぁぁぁ‼︎」


興奮のあまり審判が誇らしげに宣言すると、闘技場は今までにない程の喝采と熱気で包まれていた。


その熱気の中、式典が準備されフォルティス帝国の帝王に、ケレプスクルム魔王国の魔王と、東ギルドと西ギルドのギルマス二人が上位三人を迎え入れた。


「第一回剣技職闘技大会の勝者はファルソ。次席はドメタ。三席はムガルとなりました。購入された勝者の単券に二連券と三連券の掛札は、ギルドの窓口で明日からの換金となります」


改めて三人の剣闘を讃えて称賛した。


ギルド内では、最初の反省会が行われて大会の不備や不評を出して健闘されていたと同時に、収益と配当予想が計算されていたが、ステラジアンの表情筋が崩壊しているらしい。


想定の数倍の利益が見込め、職員一同も驚いているからだ。

もっとも、誰もが想像出来なかった者が優勝した結果が数値になって現れているので、毎回この様な事はあり得ないと職員が諌言するがギルドの総帥には右から左に聞き流されているほと浮かれている様だ。


翌日からは、次の大会の準備に追われるギルド職員達だ。







その日の夜は盛大な宴が催された。

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