第43話 本戦4

「続いて第五試合を行います」




第五試合グロザ(グラディオ出身剣闘士)対、ラダー(帝国出身騎士)は人族同士の戦いである。

闘技場の観客は人族の声援だけのようで、魔物達からの声援は無い。

殆どの魔物は出場する魔物の掛札を買っているからだ。


グロザはサーモ同様に大剣を使う剣闘士だ。

対するラダーは、元帝国第三騎士隊長だ。

何処の国の王も似たような事を考えていたが、唯一グラディオ国だけは不正をしていなかったようである。


ラダーは帝王から魔剣と魔法の盾に魔法の鎧を下賜されていた。

どれも帝国の宝物庫に秘蔵されていた物だが、強度的には中の下程度の装備品なので、最低でもこの程度の武具ではないと魔物には勝てないと考えていた元魔王だ。


歴戦のグロザと全身魔法武具装備のラダーの対決が始まろうとしていた。


カンカンカンカン‼︎


互いに身体強化魔法を使い突進する。

試合早々かなりの速度で剣を振り、防御や身のこなしも本人たちは最高の戦いだと感じていた。

しかし、観客の目線は違った。

ほんの数試合で目が肥えてしまったようだ。


度重なる魔物との気の抜けない試合は、瞬き一つで勝負が決してしまうので、観客の眼光は鋭かった。

もっとも、魔物対人族の戦いは人族の観客目線でも圧倒的に魔物が強く感じていた。

そんな戦いだが、やはり第一試合の魔物同士の高速戦が印象強く、その戦いと今の試合を比べて愚痴をこぼす観客が大勢居た。


「なんかこう、パッとしないよなぁ」

「まぁ人同士の戦いだからな」

「もっとこう、奥義とか無いのかなぁ」

「そんなの簡単に出るわけ無いだろう」

「それもそうか」

「しかし遠くから見てるとダラダラした動きだよなぁ」

「お前、自分が戦ったことも無いくせによく言うぜ」

のんきな人達が他人事のように試合を評価している者が多いようだ。


だが、戦っている本人たちは必死の形相である。

歴戦のツワモノであるグロザも全身魔法武具のラダーには効果的な一撃を入れることが出来ず、ラダーも騎士隊長だったとはいえグロサよりはかなり若い。


圧倒的な経験値でラダーの攻撃をかわして受け流し、機会を待つグロザ。

騎士隊長の実績よりも全身魔法武具の恩恵で優位に立っているラダー。


試合は両者均衡のまま試合終了の鐘が鳴った。

四人の審判がラダーとグロザの下にやってきた。

この時点ではどの審判も二人の対戦者の優劣を付ける事が出来ずにいたが、二人の姿を見て四人が同じ考えに至った。


しばし、二人の姿を見る四人の審判は協議に入った。

「・・・」

「・・・」

「「・・・」」


すると代表の審判が告げた。

「二人とも見事な戦いぶりでした。我々はお二人の姿や装備品を確認し、グロザ殿の武具に剣の方がラダー殿より損傷が激しいと判断しました。よって第五試合は攻防の優劣がラダー殿の方が勝っていると判断し勝者をラダー殿に決定します」


勝敗の説明が拡声魔導具で説明されている。

判定には納得いかないがガックリと肩を落とすグロザにラダーが手を差し伸べて、二人は手を握った。

人族側の観客は惜しみない声援と拍手を送っている。


「地味な戦いだったが何とか勝てたようだな」

「もうラダーじゃ勝てないかと思ってハラハラしましたよぉ」

「ワシもだ、ゾフィ」

「良かったですねぇ」

「ふむ。これでストラジアンに威張れるぞ」

「俺も威張ろうかなぁ」

((ホント男って子供みたい・・・))

本音は口に出さない女性たちだ。






「続いて第六試合を行います」






第六試合はエルス対オルドで、どちらもグラディオ出身の冒険者だ。


エルスは金色の認識票を持つ冒険者だが、オルドも同じ金色の認識表で"ジェミノス"でもありグラディオ国では上位の分類されるツワモノだ。


「まさかお前と戦うこととなるとはな」

「全くだぜ。魔物を相手にする前にお前で肩慣らしするか」

「フン、そりゃ俺のセリフだ」


互いに見知った者同士だが、同族同郷の戦いになるとは考えて無かったようだ。


カンカンカンカンッ


二人の意思とは関係無く試合開始の鐘が鳴った。

他の試合同様に強化魔法を使い戦う二人。

どちらも剣と盾を装備しての戦いだ。


二人の戦闘は玄人受けする無駄な動きが無い分、手数が少なくフェイントやカウンターを駆使した物だ。


だが、一般人の観客には受けが良くない様だ。

素早い動きだが、今までの戦いの中で一番地味に見えため、ヤジが飛び交っている。


本人達には不本意だか、汚ない言葉は良く聞こえるらしい。


「速く終わらせろぉ!」

「もっと攻撃しろおお!」

無論、思う所は有るが意に介さない二人だ。


そんな中、オルドが仕掛けた。

「エルス、うまく避けろよ」

「‼︎」

「・・・ハッ‼︎」

ため技の斬撃を放つオルド。

対魔獣の技で、派手な斬撃は人に当たると即死する威力だが、相手の実力を知り避けられると判断して放った。


「テメェ!それを使うかよ」

ジェミノスのオルドの技は知る人ぞ知る斬撃波だ。

「ハッ、ハッ、ハッ‼︎」

必殺の三連斬撃波をギリギリでかわすエルス。


「くそぉぉ、俺もやってやる」

大きく構えて力を込めるエルス。

「生意気に真似をするか。受けて立とうではないか」


両者溜めから斬撃波の発動だ。

「「ハッ‼︎」」


バチィィィィン‼︎


空中で両者の斬撃波が衝突して霧散した。


本人達は斬撃波と呼んでいるが実際は衝撃波では無い。

魔法を使ったとしても下界の生物の身体で、ほんの少し剣を動かすだけで音速を超えることなどあり得ないのだ。

転生した某魔王が前世の記憶を元に新たな必殺技の命名を考えている様だが、別の機会にしよう。


現実的には魔素を含む思念が魔剣や魔法剣の刀身から放たれている魔力波である。

ただの剣から出すには相応の魔力が必要で、人族で扱える者は少ない。


だが、そんな二人の戦いぶりを観て観客の声援が巻き起こる。

流石に魔物達も驚いている様だ。


戦っている二人も即座に理解して攻撃を斬撃波主体に変えた様だ。

距離を置き斬撃波を放ちまくる二人。

だが慣れないエルスはまだ、ぎこちなかった。

斬撃波を放ちながら移動してかわすエルスに余裕のオルド。


その攻防も鐘が鳴り響き終息を迎えた。


今回も四人の審判が協議の上で決まった様だ。

「お二人とも見事な戦いぶりでした。最後は斬撃波の撃ち合いでしたが、オルド殿の優勢と判断しました。よって勝者はオルド殿」


ため息をついてあきらめたエルスはオルドに手を差し出した。

「魔物に負けんなよ」

「任せろ!」




「のぉ、聖魔王。あの二人なかなかやるではないか」

「全くだ。斬撃波をあそこまで使うとは・・・」

「あの二人が戦うとは残念で仕方が無い。魔物と当たっていたら両者とも勝っていたかも知れんのに・・・」

「まぁ、これも運だなストラジアン」

「よいよ二回戦目だ。これからが本番だな」


専用の貴賓室に戻ってきたグラディオ国の王は満面の笑顔だった。

一回戦の集計予測が出揃ってようで、想定の数値よりも桁が多くで笑いが込み上げて我慢出来ない様だ。




二回戦の対戦相手は改めて組替えされた様だ。

第七試合ファルソ対シング(クエルノ族)

第八試合ムガル(クエルノ族) 対ラダー(帝国出身騎士)

第九試合ドメタ(クエルノ族) 対オルド(グラディオ出身冒険者)






グラディオ国ではギルドと剣闘士の認識票を二つ持つ者を”ジェミノス”と呼び尊敬の視線を集め、仕事の斡旋も優先されるのだ。

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