第42話 本戦3

第二試合ムガル(クエルノ族) 対、サーモ(グラディオ出身剣闘士)の対戦は続いて行われた。


第一試合とは違い、魔物対人族だ。

しかも今度はどちらも大剣使いで、観客の熱狂が第一試合とは全く違っていた。


「殺せぇぇぇ!!」

「八つ裂きにしろぉぉっ‼︎」

「捻り潰してやれぇぇぇ!!」

大会の趣旨を説明してあったのだが、ほとんどの魔物と一部の帝国出身者は先の戦争の恨みを果たせと叫んでいる。

他の観客は闘技場の雰囲気で流されているようだった。



初めての闘技大会は何事も初めての事ばかりだ。

出場者は会場の末席で観覧する事ができる。

勝者のファルソも指定の観覧場所に戻っている。

敗者のバクタは退場となる。


観戦していた出場者は第一試合を観て同様の考えを持っていた。

それは双剣使いの様に段々と速度を上げるのでは無く、最速で勝負をつける事だ。


身体強化魔法は、ある程度の強者で有れば体得必須魔法だ。

開始後即座に発動して一気に倒す事を想い浮かべる者が多い。


ファルソが勝利した時点で二度目の戦いは、あの速度で戦う事が前提となるからで、仮に他者が勝ったとしてもファルソ以上の速度と技が必要だと理解したからである。




準備が整い試合開始の鐘が鳴った。

カンカンカンカンッ!!


ムガルとサーモは身体強化の魔法を使い、相手に向かっていった。

「「ウオォォォォォォッ!!」」

両者が大剣を叩きつけた。

ガキィィィンッ!!

ガンッ、ガンッ、ガンッと剣撃が鳴る。


同じ魔法を使っていても双剣使い達よりは動作が遅く見えていた。

観客達からは同等の力量で良い勝負に見えていたが、実際は違っていた。


体躯は同様だが、若干身長が高いムガルだ。

筋肉量も同等だが基礎能力値が全く違っていた。

それは最初の一撃を受けた瞬間理解したサーモだ。

だが、自らの自尊心が強く戦法を変えることはしなかった。

あくまでも力で捻じ伏せ屈服させたい剣闘士である。


そんなサーモを煩わしく感じたムガルは力を抜いていたが、一気に畳み掛けることにした。


互いに腕に装着する盾を装備しているが、両手で大剣を持ち連撃を放つムガル。

斬撃が波の様に襲い掛かる。

「クッ、クソォォッ!!」

サーモは防御に徹してしまった。

基礎体力は魔物の方が遥かに高いので、激しい連撃が続くと隙が出来てしまう。


盾の役割も果たしていた大剣が弾かれて懐が空いてしまうサーモ。

「シマッ・・・」

防御より先にムガルの大剣が鎧を裂き肉に食い込んだ。


「グアァ!!」

その瞬間、サーモの左腕が切り落とされた。

激しい痛みに膝を付くサーモ。

するとムガルが大剣をサーモに向けた。

「・・・」

「・・・くそっ、審判っ!!」


サーモは審判を呼び、負けを認めた。

腕を失った状態で、対峙する魔物に勝てないと判断したからだ。

審判は合図を送ると鐘が鳴り、試合終了が知らされたと同時に回復を行う魔法使いが駆けてきた。


四肢の欠損は高位の回復魔法で繋ぎ合わせる事が出来る。

勝負が決して即座に行われれば、試合前と同様の状態となる。


会場は熱気で盛り上がっていた。

魔物は当然だが、人族の中にも歓声を上げている者が多い。

多くの人族が賭けに勝ったのだろう。

同族では無く、勝つ事を優先して掛け札を買った者たちだ。



闘技場は血飛沫を掃除して第三試合の準備をしていた。




「続いて第三試合を行います」




第三試合シング(クエルノ族) 対、クロス(エジェスタス出身騎士)の戦いが行われた。


クロスは騎士である。

それも第二騎士団長だが、国王から勝利する命令のもと、一時的に団長職を解かれ一般騎士として参戦している。


実力が有っても国の要職者は出場禁止なので国王が身勝手な命令をしたのだ。


そして国宝に値する魔剣も着用させての参戦だ。

欲に目の眩んだ国王の思惑がクエルノ族の戦士に通用するか、直前の試合を見て本人も気合が入っていた。


(見れば相手の剣は魔剣では無さそうだし、こちらは魔剣だ。王家から拝借した魔法付与の鎖帷子を着込んでいるからな。腕を落とされる事は無い。それよりも先に切り伏せてやる)


クロスは魔法付与された防御力の高い鎖帷子を着込み、上から軽装鎧を身に付けている。


一方のシングは、鎧など付けていない。

普段の衣服のままである。

そして手ぶらだが帯剣はしている。


シングは予選で普通の剣を使いゴーレムを倒してきたが、クロスの剣を魔剣と察知して武器を変える事にした。


それはクエルノ族の戦士の証でもある魔法剣の暗黒剣オスクロ・エスパーダだ。


カンカンカンと鐘が鳴り試合が始まると両者共に魔法を使って強化し、クロスが雄叫びをあげながら突進していた。


するとクロスが斬りかかる直前に漆黒の魔法剣を顕現させ、滑らかに身体を動かして斬りつけたシング。


勝敗は一瞬だった。


「がああぁぁぁっ、腕がぁぁぁ‼︎」


両腕が切り落とされていたシングだ。


審判が即座に合図を出して終了の鐘が鳴り回復を行う魔法使いが駆けてきた。


人族達は呆気にとられていたが、魔物達が歓喜の声援を送っているので我に帰る者も多かった。


「一瞬で終わったな。魔物ってあんなに強いのか?」

「でも前の魔物は普通に戦ってだぞ」

「じゃアイツが強いのか。参ったなアイツの単券買って無いなぁ」

「俺は一応魔物は全部単券買ったぞ」

「お前っ、何で教えないんだよ!」

「魔物と一対一で勝てる訳無いだろ馬鹿。買って無いお前が無知なんだよぉ!」

「クッソォォォォ!何て日だぁ」

会場では同様の人族の会話が多いようだ。



「ようやくオスクロ・エスパーダを使うヤツが現れたか」

「人族に使うとは情けない」

魔人王は否定的だ。


「彼らは同族に使うつもりだったでしょう?」

「多分、ファルソの戦いでやる気になったんじゃないかしら」

「それはそれでいい事だけどね」

「フム。勝利はクエルノ族の誰かに決まりだのぉ〜」


会場は清掃が終わり次の試合の案内がされた。





「続いて第四試合を行います」





第四試合ドメタ(クエルノ族) 対、スレイブ(モナスカ出身騎士)


王命を受けたのは騎士団に所属する分団長のスレイブだった。

モナスカの王家もエジェスタスと同様の事を考えていたらしい。

違う点は、王家の秘術とされる魔法付与された聖剣を下賜された事だ。


国王直属の宮廷魔導士であるジーメンスが付与したのは六日間発動する何でも切れる様になる聖剣である。


ジーメンスもその後、付与魔法の効果を研究し、同じ付与魔法の剣に魔剣や魔力を帯びた盾には弾かれる事を知り、王家の秘密とされている。


そんなスレイブの剣を予選で見ていた魔物達だ。

「ヤツも魔剣はそれなりの物らしいな」

それがクエルノ族の評価だった。

ドメタは最初から魔法剣と魔法の盾で挑むつもりでいた。


クエルノ族の出場者は観戦していた仲間から他の出場者情報が入っており、通常の剣で戦うか、魔法剣で戦うか、盾を使用するかを決めていた。


今回の相手は魔剣だが、上位の魔剣と判断したドメタは、クエルノ族本来の戦闘で撃ち倒すつもりでいる様だ。


スレイブは勝つ気満々で望んでいる。

何せ国王から聖剣を賜ったからであり、ジーメンスから聖剣の危険性や保管方法に、切れない物の説明も聞いていたが、既に忘却の彼方だ。

予選でも余裕でゴーレム達を倒してきたが、闘技場の熱気と緊張感がスレイブを奮い立たせていた。


闘技場の中央で合間見える二人は絶対の自信を持っていた。

出場しているクエルノ族の中でも上位の強者がドメタであり、魔法剣の扱いも何十年も積み重ねて来た。

スレイブも聖剣に絶対の信頼が有った。


そんな両者が睨み合う中で鐘が鳴り響いた。


カンカンカンカン!


スレイブは身体強化魔法を使い敵に向かっていった。

ドメタも身体強化魔法を使い、オスクロ・エスパーダと暗黒盾オスクロ・エスクードを顕現してスレイブを迎え撃つ。


突如現れたか巨大な黒い盾に驚いたが、切れないものは無いと高を括り聖剣を振り下ろすスレイブ。


ガンッ!

聖剣はオスクロ・エスクードに遮られた。


「何いっ!・・・はっ、まさか魔法の盾か!」

即座にジーメンスの言葉が記憶から蘇るスレイブだ。


驚くスレイブに黒い剣が襲い掛かるが、咄嗟に聖剣で弾き返した。


「フン、我がエスクードを弾いたか」

「剣も魔法剣なのか!これは・・・」

スレイブの脳裏に走ったのは盾の差だ。

自身が装備しているのは片腕に装着する小型の盾で、敵の盾は全身が隠れるほどの大きさだ。

唯一の利点は重さで有利だと判断したスレイブだった。

だが魔法の盾に重さを感じる事は無い。


(とにかく隙を突いて回り込めば・・・)

一般的な思考で作戦を立てたスレイブだか、相手の力量を知る事となる。


手数を増やして周りこもうとするが、敵の方が速く動き防御に回るスレイブだ。


(まぁ、こんなもんだろうな)

必死の形相で戦うスレイブを見て、ドメタが仕掛けた。

剣戟の最中に巨大な盾を利用してスレイブの脇腹を襲う。

盾で撃たれ一瞬だか苦悶の表情で大勢を崩すスレイブ。

その瞬間、ドメタのエスパーダがスレイブの腕を切り裂いた。


「グァッ‼︎」

体勢を崩して跪くスレイブに漆黒の剣を向けた。


「・・・審‼︎」

スレイブは負けを認めた。

この魔物に勝つためには魔法の盾が必要だと、自らの力量を無視し武器に責任転換したようだ。


観客席は盛り上がっていた。

それだけ魔物が勝つと掛けた人族が多かったのだろう。



「モナスカ王国にも、なかなか良い魔剣があるようだ」

「それでもクエルノ族の敵では無いな」

「それ、今の立場で言うのはどうかと思うけど」

聖魔王が魔人王を注意する。

「ここは我らしか居ないのだから良かろう。所でケントはオスクロ・エスパーダとエスクードを出せる様になったのか?」

先程までギルドの総帥であるステラジアンと護衛も居たのだが、魔物ばかりが勝つので全体の賭金が気になり賭博運営本部に戻っている。


「ハイ、一応」

「そうなると聖魔王は魔法剣を三種類扱えることになるのぉ」

「扱えるだけですよ。剣技はまだまだです」

「良い事だ。日々の精進は大切だからなぁ」

「ショーゴさんは今も朝練を?」

「勿論。欠かした事は無い。そうしないと身体が反応しないからな」

「流石です」

「まぁ、ケントの才能には敵わんが、更なる高みを手にしないとな。英傑達よりは強くなっていないとまずいだろう」

「そ、そうですねー」


内緒で参戦し、負けた事は秘密にしたい元勇者は冷汗が出ていた。







何故か鼻息の荒い元魔王と気まずい元勇者だ。


オスクロ・エスパーダ(暗黒剣)・・・片刃の剣。魔力の量で大きさ、強さを変えられる。魔

法剣なので、物理攻撃値が異常に高く何でも切れる。


オスクロ・エスクード(暗黒盾)・・・体の成長と共に巨大化する盾。全ての魔法攻撃を無効

化する。高位の術者は恐怖のオーラを纏い術者の周りを旋回してくれて、盾の意思で自動的に攻撃を回避してくれる。

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