第41話 本戦2

第一試合の対戦者ファルソとバクタ(聖魔王がクエルノ族に変化)が闘技場の中央に残り、審判のギルド職員が四人で四方から見守っている。


貴賓席には帝王と魔王が肩を並べて観覧しているが、この魔王はウルサに変身の魔法を使い偽装している姿だ。

事前にディバルが魔法を使い、声も魔王とソックリにしたものである。

帝王との会話も難なくこなすウルサだが、本体の性能が真似ているだけだ。


人族の観客は魔物同志の戦いに期待を膨らませ、魔物は同族だがどの様な剣技を披露するのか期待の眼差してみていた。


すると試合開始の合図として鐘が鳴らされた。

同様に終了も鐘が鳴らされる予定だ。



「行きますよ師匠!!」

「期待してるわよ」

二人は相手に向かって走り出した。


会場では様々な憶測が飛び交っていた。

「おい、アイツら二人とも剣を二本持ってるぞ!?」

「なんで盾を持たないんだ?」

「同族か?同じ流派なのか?」

「しかし女の剣闘士とは珍しいなぁ」

「頑張れぇ女剣闘士ぃぃ!!」

しかし会場からの声援も数分後には無くなっていた。


双剣同士の戦いは通常戦闘から徐々に速度を上げるものだ。

「なんか、普通だよな」

「こぉズバッて技とか出ないのかな?」

最初は双剣の闘い方を見ていた観客も直ぐに飽きた様だった。


しかしそんな観客の思いなど戦っている二人には届く訳が無い。

「やっぱり観客が居ると緊張する?」

「多少は・・・でも、これからですよ!!」

そう告げるとバクタの動きが早くなった。

(本気を出してきたわね)


それは大勢の観客にも分かる事だった。

先程までとは違い、剣速に身体の動きも速くなっていたからだ。


「おい、見ろよあれ。あんな早さで戦えるのか?」

「出来る訳ねぇだろ。アレは魔物だから出来る戦い方だろうな」

人族の一般人の感想とは裏腹に、魔物も同様の事を考えていた。

「なぁ、ありゃ身体強化の魔法使ってるよな」

「だろうな。二本も剣を振りながら、あんな攻防は普通は出来ねぇぞ」


当初は剣技の速度も上がり、会場は二人の応援に沸いていた。


「・・・」

バクタは考えていた。

(やっぱ、限界まで早くしても師匠には届かないか・・・予定通り強化するしかないな)

すると、一瞬だがバクタを視界から見失ったファルソだ。


ファルソの後方から切り付けるバクタ。

会場から悲痛な叫びが上がった。


バクタの剣は空を切り、その場にファルソは居なかった。

「チッ」

「「「えっ」」」

バクタと会場は驚いた。

斬られたと思ったらファルソが離れた場所に居たからだ。


(まぁ、かわすよね師匠は)

「おい、どうやったんだあの二人」

「解らん。急に速く動いて仕掛けたと思ったらチッコイ女も素早くかわしたな」

「それは見てりゃ分かる。どうやったのかだ。さっきまで身体強化した動きだっただろうに」

「いや、もしかすると・・・」

「なんだ、勿体付けずに言えよ」

「今のが身体強化した動きじゃないか?」

「何ぃぃぃ!!」

「そうとしか考えられん」

「じゃさっきの動きが強化無しの速さかよ。スッゲェなぁおい」

魔物達は冷静に二人の闘いを分析していたようだ。

勿論、腕に覚えのある人族の者も同様の事を考えていたが、対峙した時を連想すると恐怖しか無かった。

だが本当の戦慄はこれからだった。


二人の身体強化魔法は移動速度も増し、観客は遠目だから分かるが対戦者同士では同じ魔法を使うか、同等の速度が出ないと目が追い付かないのである。

その為、身体は目視出来るが腕と剣が見えていない状態が観客の目に映っていた。


「すっげえ速い!!全く見えないぞ」

「やっぱ今が強化している状態だな」

人族に魔物達も関心していた。

2人の身体の動きは見えるが、剣の動きが全く見えない観客が殆どだ。

そして剣戟が絶えず聞こえていた。

カンカンや、ギンギンと打ち付ける金属音では無い。

キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキィィンと絶え間なく連撃が聴こえるのだ。


会場は当初の期待ハズレ感なと忘れ、身を乗り出して声援する者が多い状態だ。

強さを求める者ほど真剣に闘いを見入っていた。


体術と剣技を総動員して二人は戦っている。

(おかしい。師匠の視線が俺を見てない時の剣筋もいなされてしまう。何でだろう・・・)

(やっぱり、まだ視界だけで戦っているわね・・・そろそろ仕掛けるか)


双剣は剣術と体術の複合技である。

受け流しを基本とし、小柄な体躯でも大柄な魔物に打ち勝つ勇気を持って会得する剣術だと創始者から伝授されたものだ。


体感による感覚で敵意を感じ取り、見えずとも攻撃をかわして反撃する極意がある。

受け流しと回転避けで攻撃範囲内に入り、急所を狙う剣技だ。

毛の無い生物には撫で斬りで、毛の多い生物には刺突を行う。



ファルソの囮攻撃がバクタを襲うと難なくかわすが、それを見越しての囮攻撃だ。

かわした瞬間にファルソの蹴りがバクタを襲い、大きく吹き飛ばされて大地を転がった。

「痛ってぇぇぇ。クソッ何されたんだぁ」

会場は大きな声援が上がっていた。

バクタがファルソを探すと勢い良く迫っていた。

「ヤバッ」

瞬時に体勢を立て直し挑むバクタ。



その後、激しい攻防が続くが闘技場に鐘が打ち鳴らされた。

定められた時間が終了して、闘った二人と審査員四人が中央に集まった。

大会の規定では時間内に勝敗が付かなかった場合には、四人の審査員の判断で勝敗が決まるのだ。


蹴り飛ばされた事で負ける可能性が高いと判断したバクタは、焦って技が雑になっていた。

そんな状態でファルソに一撃を入れる事など叶わず時間切れとなってしまったのだ。


「バクタは転倒一回。ファルソは無転倒。よってファルソの勝ちとする」

四人の審査員は試合を見ていて既に決めていたようだ。


仕方が無いとはいえ事実を受け入れるバクタと、嬉しそうなファルソ。

その事が拡声式魔導具を使い会場に知らされると、歓声が一気に盛り上がった。

ほとんどが博打に勝った者と負けた者の歓声だ。

強者達は沈黙し、戦い終わった二人を凝視していた。



「まさか、あんな小柄な少女が勝つとはなぁ」

「あら、魔人王様はファルソを買わなかったのですか?」

聖魔女リオが問いかけた。

「買ってない。お前は買ったのか」

「私たちはほら」

そう言うと聖魔王と一緒に札を見せびらかした。

「やられたのぉ〜。二人ともか! だがまだ分からんぞ」

「陛下、私も買いました」

「何ぃ、ゾフィもか。ぬぅぅ」

一人出遅れて悔しがる魔人王だ。


四人は示し合わせたかの様に仮面を付けている。

ディバルの仮面と似ているが、眼の穴は空いている。

聖魔王と聖魔女は黒い仮面で魔人王と魔天女は白い仮面だ。


当初はステラジアンも同席していたが、勝敗が決まると賭金が気になる様で運営本部に出向いて行った。


しばらくすると聖魔王が席を外した。

聖魔王と魔人王の特別貴賓室は転移魔法陣の配置もしてあるので、一度魔王城に戻ってくるそうだ。

「何故戻る必要がある?」

「折角のアタリ札を宝箱に入れて置きたいのさ」

「・・・変わった奴め」

魔人王の疑問も難無くかわし、城に転移した偽魔王だ。

するとそこにバクタが転移して現われた。


「ウルサ様、ありがとうございます」

「良い、変身を解くぞ」

「はい」

二人は元の姿に戻った。


「では我はテトラに戻る」

「俺は闘技場に行きます」


転移して戻った聖魔王はドッシリと椅子に座ったと同時に聖魔女が冷たい飲み物を差し出した。


「ありがとうリオ」

「残念でしたねー」

「本当だよ。でも予想通りに掛札を買って良かったな」

「ハイ」

二人はファルソとバクタの単券を入手し、連券はファルソで統一して買っている。


もしかしたら勝てる可能性もゼロでは無いからと、リオに勧められての事だ。

予想はファルソで、淡い期待で自分に賭けたが、まだまだ未熟だったようだ。


「しかし、先程の二人は凄かったな」

「そうですか?」

「ワシがいた頃・・・いや、あの様な魔物が居たとは知らなかったなぁ」

「世の中は広いという事かな」

「全くだ。派手さは無いが技のキレが凄まじい。以前のワシなら良くて相打ちに持って行けるかどうかだのぉ」

「そこまで言いますか?」

「うむ、ほとんど魔法を使わずに剣技と身体強化だけであの速さは見事だ」


それが師匠と一緒に戦った自分への賛辞だと受け止めて感激する聖魔王だ。


(もっと修行して強くなるぞぉ。いつかは師匠とショウゴさんに勝つ!!)





魔王の決意。

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