Alius fabula Pars40 モナスカのエルフ4

「感じたかお前たち」

「はい、凄まじい殺気でした」

エルフたちとの謁見を終わらせた国王と大臣に文官達だ。

「アレが殺気ですか!」

「私は何故体が震えたのか解りませんでしたが、アレがそうですか・・・」

戦場に出て、強者たちと剣を交えた事のある者は知っているが、文官などは言葉だけで理解はしていない。


「流石に余も焦ったわ」

「私もで御座います」

「まぁ事なきを得たが、そのアルジとか申す者・・・」

「はい。あの二人に依頼を出している者か、我らと同様の関係と見ましたが・・・」

「余もそう思う。名を出しただけであの豹変ぶりだ。彼らと敵対するのは愚策でしかないと見たが」

「は、おっしゃる通りだと存じます」

「そうか。意見が合って良かった」

「王子達を塔に住まわせて良かったのですか?」

「ふむ。あの二人と婚姻を結べば最良であろう」

「そこまでお考えでしたか」

「もっとも、それがあの二人の夢らしいがな。ならば親として叶えたいではないか」


エルフを取り込む国王の計画を知る重臣だ。




「ところで陛下、例の書状は如何いたしますか?」

「帝王と魔王がギルドと組んだヤツか?」

「はい。帝国とギルドが考えたものであれば納得も行きますが・・・いかんせん、魔王までも参入しているとなると我が国としては余り関わりたくは無いのが本音でございます」

「それは余も同じだ。しかし、あの書状は全ての国に送られているであろう」

「しかも勝利すると自治権を与えるという無謀とも言える計画です」

「ふむ。力のある者が権力と金を手にすれば・・・」

「反乱の予兆ともなり得うるかと」

「だが、そんな事が解らない筈はないだろう」

「全くです。武力を抑えられる仕組みが有るのか、それとも別の取り決めが有るのか・・・魔王がどのように関与しているのかも気になる」


「はい。しかし、ギルドが大々的に協力しているので有れば、その闘技大会自体は確かな物かもしれんな」

「ふむ・・・」

「取り合えず密偵に調査させます」

「いや、密偵の報告を聞いてから動いたのでは遅いだろう」

「何かお考えが御座いますか?」

「同時進行すれば良い」

「なるほど。闘技大会に参戦し同時に街の情報も入手する訳ですな」

「その通りだ。あの内容を鵜呑みにするわけでは無いが、我が国の者が勝利すれば、その街の自治権を得られるのだぞ」


国王の下心丸出しの顔を見抜く重臣だ。


「陛下、例の魔法付与させた剣を与えるのですな?」

「その通りだ」

「ジーメンスの報告を聞く限りでは、同様の魔法付与された防具に剣で有れば防御出来るらしいので、扱う戦士も相応の使い手で出ないと勝者とはなりますまい」

「では騎士団の中から選出すれば良いではないか」

「ですか陛下。あの書状には国の要職者の参加は禁止とあります」


「そう言えば出身国で登録するのならば冒険者はどうだ?」

「現在この国の冒険者で上位の実力者は何かしらの任務を遂行しております」

「だが、開催はまだ先だぞ」

「しかし、冒険者にわが国の聖剣を下賜するのは・・・」

「反対か?」

「はい」

「ふぅぅむ。どうするかのぉ〜」


国王が思い描く構想を話した。

「のぉ、こんなのはどうだ?。腕の立つ騎士か団長でも良いが、一時的に辞めさせるのだ。そして密命を与える。勿論、戻ってきたら復帰する事を約束してだ」

「なるほど。騎士団の者であれは口も硬いし、勝利する可能性も高い。騎士団の実力を押しはかる事も出来ますな」

「ふむ。出来れば団長が良いが、第一と第二は顔が知れ渡っとるから駄目だろう」


「それでしたら第三か第四の団長が良いかと存じます。強いて言えば第三騎士団長が宜しいかと」

「何故だ?」

「第一、第二団長は国の要であれば、まだ若いので万が一の場合でも変わりは居ますし、第四隊は隊の形式を取っておりますが訓練中の者たちで団長は熟練の年長者です」

「そうだったな。まぁ、特別任務として第三騎士団長は一時的に第二騎士団長が兼任してもよかろう」

「確かに。大会が終われば戻って来ますからね。空席にしておかないと本人も困るでしょうから」

「まぁ、負けたら武者修行してきたと思わせれば良かろう」

「はい。あの書状には殺害を禁止した闘技大会と書かれておりましたので」

「ふむ、それも驚きよのぉ。今時不殺の試合が通用するのか見物ではあるがな」

「全くですな。それが可能であれば、我が国の剣闘士も成長するでしょうし」

「強者を作るのが今後の課題か・・・」

「・・・」


「一人で宜しいですか?」

「そんな何人も団長を送るのか?」

「いえいえ、優勝候補として聖剣を持たせる者は一人ですが、参戦は何人でも可能のはずです」

「なるほど、自国の冒険者も送る訳だな」

「はい、可能性は多い方が良いかと存じます」

「よし、団長に模擬試合をさせて見比べるか」

「畏まりました」


王家の無謀な策略で、真面目な騎士が密命を持って解雇されることとなるのは、もうしばらく後の事である。






夕暮れ間近の街並みを早歩きで進むギルド職員のドーズだ。

今日も街中の店を回り、物色して物を確保してギルドに帰って来たのは夕刻前だったが、伝言を聞いて慌てて飛び出した。


(何か有ったのか? まだヘマはしてないはずだが。とりあえず話を聞きに行こう)


ドーズは元冒険者であり、多少魔法も使える。

そんなドーズに転移魔法陣に乗ると発動する魔法を教え、屋上まで楽に行き来できるのだ。


扉を叩き声を掛けるドーズ。

「お待たせしましたぁドーズです」

「入ってきて」

シニストラとデクストラが普段過ごす部屋は厨房の隣だ。


「どうしましたか?」

「むふ。我らは今日王宮の謁見の間を見て来た」

「ええっ王宮に行ったのですか?」

「ああ、それで必要な物を書き出したのだが見てくれ」

紙に書かれていたのは、この大陸の文字だ。


「玉座から赤い絨毯を引き、壁に幾つもの鏡を貼り、天井には装飾的な照明器具を吊り下げ、金色の額に風景画を飾り、煌びやかな椅子と机を置く・・・」


ドーズもギルド職員として数回謁見の間に入った事が有り、書かれている内容と王宮を思い出すと思い浮かぶ景色がある。


「確かに王宮の謁見の間は、書かれている物が飾られていますがねぇ、俺はこちらの謁見の間の方が格式は上だと思いますよぉ。何も同じにすればいい訳では無くて、アルジ様の気品を感じさせる物で揃えないと意味が無いでしょう」

「・・・ドーズ。全てお前に任せる」

「へっ?」

「そうよドーズ。アルジ様が気に入って頂けたなら、私達からも貴方の事を信頼できるものとして報告するわ」

「その様に言って頂けるなら頑張ります!! あ、でも備品で迷ったら助言してください」

「迷うとは、どういうことだ?」

「はい、実は今も迷う備品が有りまして困っているのです」

「一体何に困ってるの?」

「アルジ様の部屋に使うカーテンの色です」

「ほぉ」

「外の樹木の様に淡い緑にするか、室内の木目に合わせて落ち着いた薄茶にするか迷ってましてねぇ」

「「・・・」」

「我は薄茶が良いと思うが」

「私は淡い緑が良いと思うわ」

「はい、どちらも良いのですよ。だから迷ってまして・・・」

「木々の葉を感じさせる緑色が合うに決まってるでしょう!!」

「何を言うか。室内の木目と統一した方がしっくりくるに決まってるだろ!!」

「何て事なのデクストラ。あなたおかしいわよ」

「お前こそ、どうかしているぞシニストラ」

「まぁまぁお二人さん・・・」

何故かカーテンの色で言い合いになるエルフの兄妹を諫めるギルド職員だ。


「それなら、いっそのこと暑い時期に緑のカーテンで、寒い時期に茶色のカーテンにされたらどうですかねぇ?」

「それよドーズ」

「素晴らしい提案だぞドーズ」

「そ、そんな事ないですけど・・・」


エルフの信頼を得ながら備品の選定を進めるドーズだった。






もしかしてチョロ兄妹なのか?


ドーズの下の名前はアレですよアレ

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