第40話 本戦
その日、真新しい闘技場には沢山の魔物と人族で埋め尽くされていた。
初めて職種別で行われる異種族の闘技大会で、巷では剣王が生まれると噂が出ている。
実際には職種による自治裁量権を持つ英傑だが、何事も初めての取り組みは浸透するまで時間を要するようである。
闘技場内には設置型のゴーレムを数多く配置して、暴動が起こった際に鎮圧させる役割も有るが、誰一人として気づく者は居ない。
拡声式魔導具を使い大会の趣旨や、観覧に来ている国の紹介や賓客が紹介されている。
案内の説明をしているのはクルシブルに新しく設置された東ギルドと西ギルドのギルマス二人だ。
人族のギルマスと魔物のギルマスが交互に説明し、フォルティス帝国にケレプスクルム魔王国の紹介と、帝王に魔王の紹介も同時に行われた。
一般の人族が魔王を見た記念すべき日で有ると同時に、帝王も魔物達に見られていた。
二人は内心、気づく者が居る可能性を不安視していたが、広い闘技場では近場は衛兵が配備されており、遠目からでは良く見えないのが現実だ。
そして余りにも大きな闘技場の為に、遠くが見える観覧用眼鏡アリナ・オクロスと言う専用の簡易眼鏡を売っている。
長い式典の様な闘技場と街の規則が説明された後、第一回目の剣技を用いた闘技大会が始まるのだった。
ゴーレムによる予選を勝ち上がった十二人が闘技場に現れると会場から盛大な歓声が巻き起こった。
二人のギルド長から参加者の紹介が行われ、出身国の発表で歓声が沸き上がる。
今回は出場者が決まった二日後から賭博の販売が始まっている。
十種類の券に魔法を付与させた物だが、宮廷魔法大臣のロドコッカスと聖魔女リオの協力の元、複製する魔法を使って用意した物だ。
そして発表されたのは厳正な抽選の対戦相手だ。
第一試合ファルソ対、バクタ(聖魔王がクエルノ族に変化)
第二試合ムガル(クエルノ族) 対、サーモ(グラディオ出身剣闘士)
第三試合シング(クエルノ族) 対、クロス(エジェスタス出身騎士)
第四試合ドメタ(クエルノ族) 対、スレイブ(モナスカ出身騎士)
第五試合グロザ(グラディオ出身剣闘士)対、ラダー(帝国出身騎士)
第六試合エルス(グラディオ出身冒険者)対、オルド(グラディオ出身冒険者)
決勝は三人だが二勝した者が勝者だ。
そして次席と三席の決める決戦も用意されている。
剣闘の勝敗のルールは単純だ。
剣を使用した戦い以外は無効。
魔剣及び魔法剣の使用は可能。
四肢の切断は不問で、二箇所の切断で終了。
気絶や戦闘不能状態と審判が判断した場合は終了。
片方が負けを認めた場合は終了。
自らが発動させる補助魔法と回復魔法は使用可能。
但し回復の薬は禁止。
絶命させた場合は双方が失格。
事前に列国には通達が有った為、各国を代表する人族は国宝級の剣を
数日前、魔王国のとある場所では。
「えええええっ!! しょっぱなで師匠と対決だなんてぇぇぇ!!」
第一試合の対戦と相手を知らされた魔王は後悔していた。
(はぁぁ、出るんじゃなかったぁぁ)
「大丈夫よ魔王様、この一ヶ月頑張ったじゃない」
(・・・一ヶ月程度じゃ師匠に勝てないよ・・・)
リオが励ますが悲壮感の漂う表情の魔王だ。
「まぁ期間は短かったけど、最初の時よりは随分と強くなったと思うよ」
「師匠、褒められても嬉しくないっすよ」
三人だけの特訓で関係性は親密となり、魔王は威厳も何も考えずに”素のまま”で対話していた。
見た目は少女ながら自分達の何倍も生きて双剣の極意を得た師匠には、ディバルから得た現在の力をもってしても勝てない相手だった。
力では無く速さと多様な技と体捌きで全ての攻撃が”いなされて”しまうのだ。
リオと魔王の二対一でもファルソには届かないのである。
一緒に双剣を学び修練しているリオも同様だが考えもあった。
「師匠、今回の修行は期間限定と聞いてますが、大会が終わっても私達からのお願いで修行を続けてもらう事は出来ないのですか?」
「そうねぇ、アルジ様に聞いた方が良いと思うわ。私は構わないけどね」
「やったぁ!! じゃアルジ様にお願いしようかしら」
「ただ、今回みたいに長期間は出来ないわ。私も色々と有ってね、定期的に訪問する感じかなぁ」
二人の話を聞いていた魔王。
「是非、それでお願いします。今の俺では師匠に勝てませんが、大会では全力を出して挑みます!!」
「うん、良いんじゃない」
「流石は魔王様」
ファルソは微笑んで魔王の挑戦を受けた。
そんな魔王を応援するリオだ。
「まぁ、短期間に何でも出来れば誰も苦労しないわよ」
「ですよねぇ」
「でも魔王様は本当に強くなったと思うわ」
「全然そんな気はしないけどなぁ」
「まぁ戦ってるのが私達だけじゃねぇ」
「本当は色んな戦士や魔物と戦って経験を積んだ方が良いけどね、魔王様がそんな事したら大変な騒ぎになるでしょう?」
「ははは、確かにそうよねぇ」
「とにかく基本の型を体に覚えさせるしか無いわ」
「「はい」」
数日前、帝国に居た魔人王の執務室にて。
「陛下、試合の対戦表が届きました」
「ふむ、見せてみろ・・・どれどれ・・・ほぉ」
(初戦の二人は魔族か・・・知らん名だな。他は全員がクエルノ族か。決まったな。後は誰の券を買うかだ)
「ゾフィにも教えてやるか。誰が勝つか予想するのも楽しみだな。誰か、魔法大臣を呼べ」
二人は魔物が勝ち残ると予想して購入する出場者を選ぶのだった。
☆
誰が勝ち残るかな?
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