Alius fabula Pars 9 変身魔導具と新しい身体

その面白いくわだてを、更に面白くするためにディバルが閃いた事を依頼した。


腕輪、首飾り、剣、杖、ベルトのどれかを装備して魔素を送ると、全身の装備品が変わり基礎体力と素早さを上げる付与魔法がほどこされてある魔導具の作成依頼だ。


それは変身魔導具の依頼だ。

仮面を付けて軽装鎧とお揃いの衣装を装備させるが付与魔法をほどこす予定だ。

(マントも必要か・・・)

変身後の身体反射速度は倍にして色別の衣装とする。

(まるで戦隊ものだ・・・)

出来上がった魔道具は複製すれば何人いても対応できる。

そして色により消音、気配遮断、誘惑、剛腕などの付与を行う。

これで無敵状態になるだろうと思い込んだ。

何故なら転生者である魔王と勇者に取り巻きを予定しているからだ。

ヤツらの基礎体力は普通の兵士より上のはずだから。

(やっぱ仮面よりもヘルムの方がいいかなぁ?)


だがしかし、それだけではつまらないだろ。

敵対国や悪者にそれなりの力を持つ者にも本人が知らないうちに底上げしてやろう。

多少頑張って盛り上げてくれたら面白いだろう。

勿論即座に退場してもらって構わない。

あくまでも配下を残す方向だ。

(それとも候補者を探してみようかなぁ)


ディバルの妄想は続く。


(しかし、変身のポージングに掛け声が必要だな。当事者に考えさせようか)

この魔導具を使って悪役になっても良いし正義の味方になっても構わないと考えていた。

ただ面白くなればそれで良いとディバルの悪ふざけだった。

(いっその事、転生戦隊モノで悪の組織を別枠で作るのも面白しかもなぁ・・・待てよ、逆も有りか・・・)




召喚されてスプレムスに創造神と認知され、テネブリスとアルブマに二人のメルヴィへ説明し様々な要望が言い渡された。

眷属にとって大神であるスプレムスの言葉は絶対である。

それは嘘偽りない事実だと龍種だけの確認魔法ヴェリタス・ボールで全員を納得させたからだ。



この時点でディバルが感じていた自身の小説とは違う点があった。

(確かに俺が設定した通りの世界だ。そして特定のキャラも確認した。しかしだ。ここまで設定はしていなかったぞ)


それは龍国内の街並みと暮らして居る者達に魔導科学の進歩だ。

更にはスプレムスが密かに召喚していた事実だ。


何故か召喚したのは魂だけで、希望を叶えて下界の生物に転生させていた事。

その際に多少の力を与えた事。


そして何故自分がエルヴィーノに憑依したのか?

(思い出せば・・・確か寝返りしたら抱き枕が無くて探したような記憶が薄っすらとあるなぁ)

解からない事ばかりだが、直視する現実は受け止めているディバルだ。

そしてこの先も想定していた。


世界の真実を知れば、行動原理はおのずと答えは見えてくる。

ディバルの目的はその時までの”暇つぶし”だ。



転生後のディバルはスプレムスの部屋に籠っていた。

と言うよりも外出禁止してもらうようにと、事情を知る全員の総意で大人しくしていたのだ。

そして数日後、本体が完成したと報告があり外出を許された。


事前にスプレムスと打ち合わせをして決めた”顔と股間”だ。

顔の形状や目鼻立ちの大きさをスプレムスと舌戦していたが長い戦いの末、気づけば完成していたのだ。

そこにはディバルたちの理想が形になっていた。


「素敵・・・」

出来上がった体は、前世とは比べ物にならないほど理想的な体型だった。

前世と違い割れた腹筋に目が引かれたが、全体に筋肉質で逆三角形のマッチョ体型だ。

見た目で人間とは異なる場所が三箇所あり、耳と股間と臍だ。

耳は少し尖っていて、予定通りに股間は何もない。

アレを表現するには特別な魔法を発動しなければならないからだ。

更に後からでも自由に形は調整可能だと聞いたからだ。

そして臍も無い。

龍造なので設計されてなかったのだ。


最もスプレムスがこだわった場所の一つ。

それは顔だ。

現存の誰にも似ておらず、こじつければ誰にでも似ているが優男的な面構えだ。

思わず”呟いた”のはスプレムスだったが、慌てて辺りを見回した。


“神が何を言っても下々の配下は聞いてはならぬ”

神々の些細な言動で国内の常識が逆にもなり兼ねるので、側勤めの者達には言い聞かせて有る事だった。


確かに男前だがエルフっぽいと言えば、ぽいかもしれない。

溶液越しに見る姿は申し分なかった。

要望の魔法と魔法陣は既に入力済だそうで、あとは魂の移動だけだった。


「ではディバルシス様、魂の移行儀式を行いますが宜しいでしょうか?」

「ああ、始めてくれ」


横たわる三体の男達。

1人はディバルの魂が宿った”エルヴィーノ”の体だ。

もう1人は、再度魂の分割が行われる”エルヴィーノの本体”だ。

そして急速培養作成されて作られたディバル専用の体だ。


順番はディバルの魂を移した後で、エルヴィーノの魂を分割移動する。

そして移行が粛々と行われた。



召喚されて100日足らずで新しい専用の身体に定着したディバルだ。

「ディバルシス様・・・新しいお体はどうですか?」

スプレムスが問いかけた。

「・・・今のところ、問題は無さそうだ。それよりもエルヴィーノの移行を頼むぞ」


隣で魂の移行を見ていたディバル。

(おっ頭が光った。魂が移るのってこんな感じなんだ)



スプレムスとテネブリスに二人のメルヴィと相談し、専用の体が完成するまでは本体のエルヴィーノを下界に一時的に戻し、封印のメルヴィが同行していたのだ。

本体のエルヴィーノには何も教えず、特例で外出を許してあげたと説明され大層喜んでいたと言う。

多少哀れにも思ったが、そうなる様に設定したのだから仕方のない話だ。


移行は無事に終了し、ディバルの入っていたエルヴィーノには記憶の調整が行われ下界に向かうと聞いた。


龍国内は何事も無かったか様に、以前の美しい街並みが続いていた。


「じゃ体の確認をするか」

「はい、お供いたします」


ディバルとスプレムスは2人だけで確認をする為に大広間のスプレムスの部屋に向かった。


確認するのは、全ての魔法操作に身体機能と装備品だが、戦闘技術も知識として入っているので確認を手伝ってもらった。



ディバルは軽くコブシを突き出した。

(あれ?)

一瞬だが自分の腕が見えなかったのだ。

確認の為にもう一度突き出す。

更に何度も突き出す・・・

(やばい、残像しか見えん・・・)


「ハハハハ」

(これってリアル〇〇百烈〇が出来るんじゃねぇか?)

呼吸を沈めてコブシを一気に連射してみる。

「スゥゥゥゥ、ハッ!!」

ボフゥッと空圧が飛んだ様に見えた。

「マジか・・・でも実戦じゃ・・・あっ」

1人で妄想の世界に入り込み、大事な事を思い出したのだ。

それは後ろでスプレムスがずっと見ている事を。

恐る恐る振り返ると、満面の笑みでほほ笑んでいた。


(ディバルシス様も新しいお体に満足されている様で良かったわ)

(はずかしぃ・・・)

二人の思惑は違うが、確認作業を続けるディバルだ。


今度は走ってみた。

するとかなりの速度で壁に達した。

(軽く走っただけでここまで来たか。じゃ思いっ切り走ったらどうだろ)


今度は元居たスプレムスの側に向かって全速力で戻った。すると・・・

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

ズザザザザザザザザァァァァァァァ


一瞬で移動したが、止まる事が出来ずに横滑りして逆の壁まで滑ったのだ。

(どうしよぉ。相談するしかないか)


次はジャンプだ。

軽く飛び跳ねただけで広間の中間まで上がってしまった。

(全力だったら天井を突き抜けるのか? これは下界で試す事にしよう)


「ディバルシス様、恐れ多いのですが、急停止する場合は魔法を使用された方が宜しいかと存じます」

「魔法か」

「はい、停止魔法など多数ありますし、飛び跳ねる時は同時に飛行魔法を使用された方が宜しいかと存じます」

「そうか・・・試してみよう。ありがとうスプレムス」


想定以上の身体能力に戸惑いながら、魔法の発動も試してスプレムスに確認してもらった。

その後“スプレムスの補助”もあり数日がかりで体感し、異世界を肌で感じるディバルだった。







ようやく身体が手に入った。

エルヴィーノはまた出てくるはずです。

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