第9話 テトラグラマトン
転移して戻ったのは聳え立つ巨大な石のゴーレムが両手で持つ小さな棲家と言うよりも豪邸だった。
小さな家だと謙遜して伝えたが部屋数は二桁も有る。
普段は海岸沿いや切り立った崖の岩肌に放置してあるが、移動する場合にはゴーレムとして起動する。
崖と同化しているので普段は分からないが、いざと言う時には隠れ家ごと移動出来るのだ。
もっとも、良く見れば草木が生えておらず岩の色が違うので違和感は有るが、誰もそれがゴーレムとは思わない程の大きさだ。
ゴーレムには二つの魔法が常時発動している。
それは岩肌の表面の摩擦係数を無くす魔法だ。
すると、ゴツゴツとした岩でも滑って登れないからで、もう一つは反重力魔法だ。
それなりの屋敷を持って歩く巨大な岩のゴーレムなので体重を軽くしてある。
因みに崖に合わせて座らせたり立ったままでの放置だが、平地では手足を伸ばし円となって寝そべり城壁にも出来るゴーレムだ。
名をテトラグラマトンとしたが長いのでテトラと呼ぶ事にしたディバルだ。
とは言え、転移したのは屋敷の中なので四人はゴーレムの手のひらに居るとは夢にも思わないだろう。
窓の景色は岩肌と青空だけが見えていた。
指令の第一段階はスクリーバから四人への指導でウルサは監視していた。
魔王城で簡単な説明を受けたが、再度細かく指導を受けた四人だ。
アルジへの忠誠と言葉使いが主で礼儀作法を魔法で直接脳漿へ送り、覚えさせられて実際にやらせてみる方針だ。
それが終わると屋敷の案内だった。
二階建てだが天井が高く庭園もある。
それぞれの部屋に談話室や男女別の風呂場に喜んだ四人だ。
一通り終わると食堂での夕食となった。
食事は四人だけで、ディバルたちは食事をしない。
用意するのはホムンクルスの女性召使いだ。
四人いるが全員金髪碧眼で顔と背格好が同じだから髪形を変えて名前としている。
ロングス、ブレビス、カウダ、ドゥオだ。
髪形は前からも後ろからも誰なのか区別できるわけだ。
食後は自由時間とし四人で対話した後、男女に分かれて風呂に入るらしい。
四人は対話した際に、スクリーバの指示通り秘密の言葉を設定した。
今後味方である証明をする場合においての言葉だ。
眷属しか知らない言葉。
それは前世の名前だ。
同郷の仲間内では前世の名前を使う事にした。
つまりティマイオス・コクシエラ・バーネッティは”ショーゴ”。
クリティアス・ラネウス・オドリバクターは”ケント”。
バリオラ・オルソポックスは”ハルコ”。
ゾフィ・ロドコッカスは”アヤメ”だ。
湯船に浸かるのは死闘を演じた男二人だった。
「しかし夕飯、美味しかったなぁ」
「ああ、久しぶりにうまいと感じたなぁ」
「だってショーゴさん無心で食べてたもんね」
「ケントだって同じだっただろ」
「「ははははっ」」
「やはり飯は大勢で食べた方がうまいな」
「全くです」
「「・・・」」
「「所でっ」」
「先に良いぞ」
「すみません」
他愛のない話だったが胸に有るトゲを処理したくて切り出すと同時だったケントとショーゴ。
「ショーゴさんは良いのですか?」
「それはワシらの関係か? それとも国の事か?」
「ん~どっちもです」
「確かにワシらは互いに殺し合いをした仲だ。しかし全てを知り同意して今は同じ眷属となった訳だ。それらの事に何の後悔も無いし、むしろこれからが楽しみだ」
「良かったぁ。僕もですよ。これからどんな事が起こるのか、今までと違った冒険が出来ると思うとワクワクしますよね」
「全くだ」
一方では
「こんな大きなお風呂初めてだわぁ」
「そっちにはお風呂無かったの?」
「在ったけど、五右衛門風呂みたいなやつだったわ」
「ふぅん、私たちも貴族や一部の特権階級くらいね、自宅に風呂場があるのは」
「それに食事も美味しかったわ」
「毎日あんな料理だったらいいなぁ」
「そうね、お酒が有ればなお良ししよ」
「私も久しぶりに飲みたいなぁビール」
「あぁ私もォォ」
「今出てきたらジョッキ三杯はイッキで飲めるわ」
「うんうん、私もよ」
「「あははははっ」」
食欲も満たされて、ストレスも温かい湯船に溶けて見渡せば旧敵と二人だけの風呂場に居る自分を認識すると現実に引き戻された二人だった。
「私たち、これからどうなるのかなぁ」
「まぁ昨日の敵は今日の友って言うじゃない。何とかなるわよ」
「そうねクヨクヨしても仕方ないわ」
「そうそう聖女様がクヨクヨしちゃだめよ」
「アルジ様が付いてるもの」
「所でアヤメちゃんは、ショーゴさんが好きなの?」
「な、何を言いだすのよぉ。ハルコちゃんこそケント君と付き合ってるんでしょ?」
「別に付き合ってるわけじゃないけどぉ・・・」
「だって、みんなの前で・・・チューしたでしょ。見てたわよ」
「あ、あ、あれは違うんだ。私がクヨクヨと悩んでいたから・・・」
「もしかして、チューで驚かせて冷静にさせようとした訳ね」
「そ、そうよ。その通りよ」
「それで・・・好きなんでしょ」
「べ、別にケント君とはそういう間柄では無くて・・・」
「良いと思うよ、勇者と聖女がくっつくのは定番でしょ? 私からアルジ様に報告しておこうか?」
「やめて。マジで止めて」
「でもアルジ様の事だから、もう知ってるかもよ」
「そうだとしても止めて。その時は自分で言うから」
「そうよね、出しゃばりすぎたわ。ごめんねハルコちゃん」
「でも、いつから好きになったの?」
「貴女だってショーゴさんといつからよ?」
「「・・・」」
☆
女性たちは恋話で遅くまで語らったと言う。
ロングス=ロング、ブレビス=ショート、カウダ=ポニーテール、ドゥオ=ツインテール
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます