第7話 新たな・・・

再度、聖女達四人は距離を置き話し合っていた。


「不安なのか?」

「当り前よ。勇者様は心配しないの? 貴方達はどうなのよ」

「僕は前世も現世も人間達のイザコザに飽き飽きしてたんだ。だから強大な力を持ち、女神様とつながりが有りそうな彼らに付いて行くよ。バリオラの事も守って見せる」

頬を染めながら勇者の言葉を聞いた聖女。


「ワシもゾフィも更なる力を手にする為に付いて行こうと思っておる。それで構わないなゾフィ」

「はい、魔王様」


何故か魔王達がイチャついて見えたので腹立たしく思った聖女だ。


「じゃ私達から一つだけ質問させてほしいわ」

「構わないよ」

魔王の同意を得てディバルの前に立つ勇者と聖女。


「もしかして、玉座の間で僕たちが四人だけになったのは・・・意図的なのか?」

「良く気付いたね、勿論だとも。必要の無い邪魔な存在は先に消えてもらったよ」

「「「・・・」」」


全員が嫌悪感を持ったが転生者だけを集めたと、頭で理解しても口が動く聖女だった。

「何で・・・どうしてよ」

「言っただろ、必要無いからさ。俺が欲しかったのはお前たち四人だ」

「選ばれたのは光栄だけど・・・僕らが転生者だからか・・・」

「大丈夫だ。そのうち慣れるから」

「慣れるって、どういう事かしら?」

「知り合いが先に死んでいく事だよ」

「またワシらの知り合いを殺そうと言うのか?」

未だ警戒している魔王。


「違うな。忘れたのか?お前たちの寿命は無くなると言っただろ」

「あっ」

「知り合いやお前たちに子供が出来て老死しても、お前たちは今の姿のままだ」

「「「・・・」」」

「だから、そのうち慣れるさ。習うより慣れろだ」

理解は出来るが未体験の”不死”が想像できなかった。



「最後に私から聞きたい事が有るわ」

「・・・」

「私めが聞いて回答できる範囲であれば教えましょう」」

ディバルが答える前にスクリーバが返事をした。


「貴方は神様ですか? それとも悪魔ですか?」


「その質問をするお前たちには・・・仮に我がアルジが神で有るならば、お前たちの態度は言語道断であり、今すぐにでも精神矯正したいところです。しかし、我がアルジはそれをお望みではない。そして、悪魔と言う言葉は人族が作った造語である」


「えぇっ!?」

(バリオラァ・・・なんて事を・・・)

(悪魔は造語なの・・・)

(精神を矯正する事が出来るのか)


「まぁ良い。お前たち、神と悪魔の定義をお前達が持っているとするならば、その存在達は自分達の定義を教えないし、他者が考えた定義も受け入れないだろうな。何故なら人族如きとは隔絶した存在だからだ」


一同はディバルの言葉を聞いて沈黙していた。


「まぁ俺が神ではないかと言う質問だが、お前達は自分が何者か理解しているか?」

全員がうなづく。

「周りが何と呼ぼうが俺はその存在の自覚は無い・・・」


沈黙がその場を支配していた。


「じゃ、これはどうだ?」

「「「!!!」」」

その瞬間、ディバルから悪意と殺意の波動が放たれて全員を覆い尽くした。

一瞬で体が硬直し、小刻みに震えだした。

声を放つ事も出来ず息をするのがやっとだった。


「では」

その声を聞いた瞬間、解放され一斉に後方へ飛び跳ねた四人だ。


「こんなのはどうだ?」

すると光輝くディバルから慈愛に満ちた温かい癒しの光が全員に照らされていた。


「馬鹿な」

「そんな」

「嘘」

「信じられない」


「お前達の言う所の・・・」

「あなたは何者だ」

ディバルの言葉を勇者が遮った。


「はぁ、お前達は家畜の言葉が解るか?」

「なぜそんな事を聞く」

「その答えがお前達の知りたい答えだからだ」

「そんなの解るはずがない」

「だろうな。では、解ったらどうする?」

「そんなあり得ない話に意味は無いだろう」

「そんな事は無いさ。その家畜がお前達は何者だと聞いてきたら何て答える?」

「・・・」

「これから殺して食べると教えるのか?」

「・・・」

「意思疎通出来ないから食物連鎖が成り立つ種族も存在する。通じる、理解すると勝手に思うのは人族が傲慢な証と言えよう」

「「「・・・」」」

ディバルと勇者のやりとりを全員が聞いていた。


「お前達の定義である神や相対する存在に俺を当てはめるのはお前達の自由だが、俺としては迷惑な話だ。俺も女神達も下界の生物に余り興味は無いのが事実だ。とは言え、今この場に俺がこうして居ることが前例の無い新しい”こころみ”だ。俺が何を考え、どんな指示を出そうとも黙って命令に従う事が眷属となるお前達の運命だ。今のお前たちが知る必要は無い」


「つまりは従順になれと言う事ですな」

回りくどいので、スクリーバが答えを提示した。

「もう良い。スクリーバ、始めてくれ」

どうせスクリーバが矯正してくれるので早く眷属化の儀式を進めすように呼び掛けるディバルだった。

「は、仰せのままに」

「ちょっと待って! 私はまだ納得して無いわ!」

未だに悪態をつく聖女にあの男が動いた。


「バリオラッ」

勇者が優しく聖女の頬を両手で抑えて、唇を押しつけた。

「!!!っ」


「っぷは、なっ、何するのよぉいきなり!!」

「バリオラ、僕を信じて」

顔を固定されて目の前で直視する勇者の顔を見て真っ赤ななる聖女だ。


(聖女は正常だろう。むしろ勇者こいつがそこまで俺の事を信じたのかぁ? 謎だ。あいつは変だな。どこかオカシイぞ。それとも狂ったか)


勇者クリティアス・ラネウス・オドリバクターこと小鯛絢斗はゲームオタクが興じてSEになった男だ。

転生後、強さの限界を感じていたラネウスは魔王を倒す事が出来ず、自身の力に迷いが生じていた。

そこに聖と魔を自在に操る偉大な存在の眷属になる事で、更なる力を手に入れて今まで帝国の権力に甘んじていた人間模様を断ち切る機会だと直感していたのだ。



「あー、それから注意する事が有る。子孫は作るな」

「「「ええぇぇぇっ!!」」」

「どうしてなのか説明して欲しいです」

代表して勇者が問うた。

「さっきも言ったが子孫がお前たちよりも先に死んで逝くのを見たいならば止めはしない」

「!!!!」

「それは・・・」

「それぞれが考える事にしましょう」

女性二人は同じ考えの様だった。


「以上の事に納得するならば眷属へと進化する儀式を始める」

「わかったわ・・・」

「じゃ、お願いします」

スクリーバが確認し聖女も納得して全員の合意を得た様だ。




種族変換は積層型魔法陣で行われる。

スクリーバが取り仕切って行う儀式は静かに始まった。

数えきれない魔法陣が足元から頭まで続き、光の柱の中に四人が入った。



人族である勇者と聖女。

クエルノ族である魔王と魔女。

二組ともに同種族となるが系統が若干違うようだ。

それは属性であり、白と黒である。

しかし今回の進化は対極する属性も扱える設定だ。

肉体の基本性能と体内魔素保有量を増やす設定をして、説明してあった特典が与えられた。


実は眷属になると支配者に従属する為に強制的に矯正される。

絶対服従、それが眷属なのだ。

全ての思考が支配者を中心に考えて行動する様になるのだ。

そしてスクリーバから改めて主人に対しての礼節を享受きょうじゅする事となる。



時間はさほど掛からなかったようだ。

魔法陣の光が収束し、四人の姿が現れた。

変換前とはさほど変わらない容姿だが、全員が茶髪になっていた。



「我が種族はシャドーバイオスフィア。かげから世界を見守る者だ」

「ねぇ、それ英語じゃない?」

「良いんだよ!! お前たちの思考に合わせたんだから! この世界の言葉だと発音が難しいし種族名が長いと面倒だからだよ!」

聖女の突っ込みに焦ったが、ゴリ押ししたディバルだ。


「スクリーバ、こいつは念入りに指導してくれ」

「は、畏まりました」

「ええっ私だけぇぇっ!!」


「ではそれぞれ自分を”カンラン”しなさい」

「「「おおおっ!!」」」

「種族名がシャドーバイオスフィア※になってるぅぅ!!」

「カッコいいなぁ」

「我がアルジよ、見慣れぬ肩書が表示されているが、これは一体・・・」

「僕もだ」

「「私もっ」」

「でも※って観えないのかな? それともこれが正しいのか?」

「とりあえず今は気にするな」


元勇者が細かな事を気づいたようだが、ディバルがゴリ押しした。

四人の新たな種族名はシャドーバイオスフィア(仮)だ。

とりあえず今は仮り進化だ。

仮、下級眷属、上級眷属と進化する。

基礎能力も1.5倍、2倍、3倍と強化される。

無論本人達には秘密にしてある。


そしてそれぞれの名称が変わっていた。

魔人王ティマイオス・コクシエラ・バーネッティ。

聖魔王クリティアス・ラネウス・オドリバクター。

聖魔女バリオラ・オルソポックス。

魔天女ゾフィ・ロドコッカス。







新たな称号

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