Alius fabula Pars 5 依頼

どれだけ泣いただろうか、泣き止んだが無言のスプレムスだ。

男も、ここまで泣きわめくとは想像していなかったので、隣に座り手を取って寄り添っていた。すると


「醜態を晒してしまい、申し訳ありません我が創造神様」

「いや、俺の方が配慮に欠けていた。悪かった」

「いいえ、創造神様は全く悪くありません。むしろ本当に神様だと証明して頂きました」


泣き止んだ後は、互いに陳謝していた。


「じゃスプレムス。お前は俺を認めるのか?」

「・・・はい、目的は達しました」

「ん?どういうことだ?」

「わたくしの存在意義を知りたかったのです」

「それで、達したとは?」

「この世界で本当のわたくしを知っている方がいらっしゃる。それで充分です」

「そうか・・・良かったな」

「はい」


スプレムスは、椅子に座る創造神の前に跪き宣言した。

「やはり貴方様は創造神様で間違いございませんでした。今後は貴方様のご意向に沿うように致しますので何なりとご命令くださいませ」


(参ったなぁ・・・俺の考えた物語のまんまじゃねぇか。待てよ、そうなるとこの世界はやっぱりあれか!! ○○○○に○○○○へ○○のか!? しかし○○○○○○○なぁ・・・)

「・・・そうか。ほかに聞きたい事は有るか?」


スプレムスはこの時の為に沢山の質問を用意していた。

しかし既にどうでも良かったのだ。

存在理由よりも本当の自分を誰かが知っていた・・・

その事に比べたら些細な事だったのだ。



「いいえ、何も・・・全て創造神様の望むままに」

「・・・では、俺から聞きたい事が幾つかある」

「何なりとご用命下さいませ」

神妙になる二人だ。


「確認したいが、お前が転生した原因は覚えているか?」

「・・・いいえ、何も・・・そもそも原因が在ったのでしょうか?」

「本当に覚えてないのか?」

「・・・はい」

「解った。もしも思い出したら教えてくれ」

「教えては下さらないのでしょうか?」

「お前が思い出す事に意味が有るからさ」

「・・・畏まりました・・・」

スプレムスは多少不満だったが創造神の言う通りに従った。



そして男が即座に思いついたのは何の能力も無い自分を、召喚の際に全ての能力が無くなった事にする事だ。

本来、神でも何でも無い普通の凡人なのだから。

そこで龍国で1から自分の体と能力を設定する事にする。


「1つは、この体を”エルヴィーノ”に返さないといけないから新しい体を作って欲しい。何故なら、どうやら召喚の際に全ての力が無くなったらしいからだ」

「もっ、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!」

平服して謝るスプレムスだ。

「もう済んだ事だから良いよ。だから新しい体には沢山の知識に魔法を詰め込んで欲しい」

「はっ、龍国内にある最新の技術の粋を集めて、お体をご用意致します」

「容姿は俺とスプレムスの好みにしような」

「えっ、は、はい」


男が望んだのは永遠に機能し自己修復する体と、数々の魔法と龍族の知識だった。


「1つは下界・・・この星の仕組みと龍脈について確認したい」

「畏まりました」


スプレムスの説明では眷属を創生してから幾度も大地が様変わりしたと言う。

龍族の目線では地表が大地の裂け目にめり込み、海水を含み深い場所で混ざり合い惑星の体内で循環が成されているように考えていた。

古い大地を内部に取り込み、新しい大地が湧き出て生まれるのだ。

惑星の脈動は地表からも真っ赤に燃える体液を噴出させ地表が裂けて新たな大地になったり、違う大地と衝突したり、分離したりと活性化していると考えられていた。

それらは地表に芽生えた知的生命体の行いが大地を汚す行為の結果であるとも考えられていた。


また、虚空から光を注ぎ込む存在からは目には見えない強力な電磁波が送られてくる。

この電磁波の波で地表の気象変化で温度差が起こり、惑星の半分が凍てつく大地となる事があった。

たまに虚空から落ちてくる有機物の物体が大地に落ち、その爆炎の煙で空が覆われて下界の球体全てが凍てつく大地になる事もあった。


巨大な魔物に野生生物意外にも多くの文明が天災に見舞われて大地の中に取り込まれていったと言う。

生き残った者達は何も無い状態から何度も文明を起こすも、過去の魔法や技術は無くなっていたと説明してくれた。


そして崩壊細胞の存在だ。

全ての生命には敵対する崩壊細胞が存在する。

知的生物や魔物に動植物に至るまでだ。

しかし龍族はこれを自然の摂理と判断した。

特定の種族が著しく増えた場合に自然と活発化する崩壊細胞。

のちに人族はこれを病原体と呼んだ。

これは龍種とて同様だったが、魔導化学が発展してからは龍国内の病原体は撲滅されて、貴重な標本だけが保管されている。

下界においては文明社会を形成する種族が絶滅に瀕した場合のみ、龍人達が救済に向かうのだった。



龍脈とは地殻変動による大地の移動に起こる磁場であり大地に眠る魔素の流れである。

大陸棚の亀裂や溝に強い磁場が発生している為だ。

自然界の魔素の流れと磁場から発生する弱い磁力を生物が感じる場合が有り、魔導に長けた知能有る者は大地に眠る生命力を、人族の手に負えない巨大な龍になぞらえて龍脈と呼んだ。


磁力の力は本来地殻の中心で発生し、虚空から降り注ぐ磁気嵐を防ぐ惑星が持つ防御幕だ。

だが、極稀ごくまれにその磁力を感じ取り魔訶不思議な力で神格化した生物が存在した。

微弱な磁力は種族の魔素に影響し変異種を生む事となる。

体内の魔素保有量が種族平均の数倍持って生まれる赤子などの種族がそれにあたる。



それでも繁殖力の強い人族は何度も文明を起こして戦い、同族の血を流していった。

一方で長命種は、その魔法と技術を伝えてそれぞれの種族を発展させていった。


そんな事実など短命種は知りもしない事だ。

長命種にも伝承が絶えて久しい。

惑星の生い立ちを共にする龍種だけが知りうる事だ。




「なるほど、良く分かった。じゃ体が完成したら、動作、魔法、魔法陣の発動確認に、装備や武器の作成をしたい」

「何故、武器が必要なのでしょうか?」

「折角だから下界を旅したいじゃん」

「大変申し訳ありませんが、創造神様が下界へ降臨されますと、大変な騒ぎになるかと存じます」

「え、いや、降臨なんてしないさ。ちょっと散歩するだけだよ」

「しかし・・・」


そこから多少のやり取りが有ったが、男は散歩と称して旅がしたかったが、スプレムスは大事を取り龍国内に滞在して欲しいと、二人の意見は対立したままだった。


結局、妥協案として護衛の従者を連れて定期的に期間を決めて散歩に出かける事でスプレムスの認可が下りたのだった。

その際に下界の精霊王を従者とする為に、精霊王たちに新たな依代を作る事となる。

従者が精霊王となったのは理由が有り、性別が備わっているからだ。

これは精神体の精霊だが、自我と志向性を下界の知性ある生物に合わせる事で霊格を制御する意味だ。




「最後にもう一体の龍の創生をしてもらう」

「ええっ更に龍種を増やせとぉ!?」

「そうだ。お前は魔素の無くなった世界を想定しているはずだが、魔素以外の動力源は何になると思う?って、解るよな?」

「・・・今は雷雲からの膨大なエネルギーを取り込む研究が有りますが、成果は出ていません」

「そうだ。厳密にいえば磁力と電気の属性を持つ龍の創生だ」

「磁力も含めてでしょうか?」

「出来るよな」

「お時間をください。余り見た事も無い力なので創造が難しいわ」

「勿論、創生は俺も手伝うよ」


遥か次元の向こうには魔素の代わりに電力と磁力に光力を使い全ての生活動力源に使用している。

男はその事を説明しスプレムスは古い記憶を思い出して再確認した。

光力は既に"セプティモ"が筆頭で研究が進められていたので、もう一体の龍族を創生する事を納得したのだった。


「分かりました。一応眷属たちに伝えてからでも宜しいでしょうか?」

「勿論、お前の眷属だからな」




するとスプレムスからの依頼の申し出が有った。

それは下界に散歩しに行くなら、ついでに過去に召喚してしまった者達が辛い目に遭っていたら無に帰して欲しい事と、人族から魔石を回収する依頼だった。


自分の考えで召喚転生させてしてしまった者達に今更ながら慈悲の死を与えて欲しいらしい。

「それを俺にしろってか?」

「この世界に馴染めずに苦しんでいる者が居たらです」

「苦しんでいなかったら・・・どうする?」

「それは・・・」

「様子を見て、俺に任せてくれるか?」

「はい、よろしくお願いします」

念のために人数を聞く事にした。


「一応確認だが、俺の前にどれだけ召喚したんだ?」

「召喚しても貴方様では無かったので転生させた者が千人ほどおります」

「千人もか⁉︎」

「ですが、全て言語習得の魔法と最低限の生活魔法を与えてあり、下界で精霊が監視しております」

「何処に住んでるとか、何か一覧にしたものは有るか?」

「はい、御座います」

召喚者一覧を受け取り、深々と頭を下げたスプレムスだが神妙な気分の男だ。



そしてもう一つの依頼。

魔素を保有しない人族ならば体内で”ガレンシャタイン”が精製される場所に出来るのが魔石だ。

しかし人族の魔素は特殊で、回収して暫く放置すると気化してしまうのだ。

空気に触れると魔素が無散してしまい、白い石に変質してしまうので外部からの魔素を当てて保存すればよいのだ。


本来、体内魔素は”ガレンブラーズ”から魔素が”ガーラ”と一緒に排出され、腸で吸収され身体全体に行き渡るはずだが、魔素が無い者は”ガーラ”だけが精製される機能となっている。



人間の魔石はいびつだ。

鉱物の原石の様に丸みおびたゴツゴツした形である。

それが魔素を含んでいる為に赤みを帯びている。

魔素の保有量が多い者は魔石の大きさも比例して大きくなる。

とは言え人間の魔石は小さい。

標準的な大きさで、成人男性の小指の爪ほどの大きさだ。

大きくても小指の第一関節程度だ。

明らかに魔物の方が大きく利用価値が高い。


そして魔素が無くなった人間には白い塊りが出来るらしいが、体内の有害な異物になると言う。

龍国が下界に行っている種族管理で、魔法により本来の生体機能が変えられて、”ガーラ”を出す機能へと変化したようだ。

また”ガレンブラーズ”に発生した魔素は早い段階で蓄積されて魔石となるが、個人差もかなりある様で、一般人よりも魔法を扱える者や魔法師の方が濃度の高い魔石が取れる。



男はこの世界が自身の設定した物語通りならば確認する事があった。

「人族から魔素を取り除く実験はどこまで進んでる?」

「はい、現在の人族全体では三割ほどになります」

「それはあの方法だよな? 魔法陣を使って遺伝子操作して・・・」

「はい、小脳の機能を七割停止させています」

「だよな・・・でもたまに能力を受け継ぐ者も生まれるよな?」

「はい、確率は徐々に低くなっております。いずれ人族の全てが魔素を含まない体で生まれて来るでしょう」

「そっか。予定通りなんだな」

「はい」








”ガレンシャタイン”=胆石

”ガレンブラーズ”=胆嚢

”ガーラ”=胆汁

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る