第5話 交渉

「眷属になる為には、今の種族を捨てろと言う訳か・・・」

魔王が呟いた。


(どんな凄い特典だろう? だけどこの魔王が居なくなっても新しい魔王が現れるのかなぁ・・・)

(人間を辞めるってどういう事かしら)

(今以上の力か・・・勇者が居なくなれば暫く帝国も静かになるだろう・・・)

(魔王様と同じ力が欲しいなぁ)


それぞれの想いとは別に流石に転生者達は現状の諸問題を知り、更なる高みを受け入れる柔軟な思考を持っていた。

(まぁ単に現実逃避したいだけだろうけど・・・)


そこにすっと立ち上がった魔王が意見を述べた。

「ワシが眷属になるのならディバルの力を知りたい。そしてどのような特典を貰えるのかも知りたい」

「「私も!!」」

「僕もだ!!」

「まぁ、当然だな。俺もそう思うよ。特典は・・・とりあえずお前たちの身体能力と魔力値を三倍にするか。それでこの大陸でお前たちより強い冒険者と通常魔物は居なくなるだろう」

「三倍・・・」

「マジかよ・・・」

「私たちが大陸最強!?」

(人族と魔物以外に更なる強者が存在するのか?)

魔王が言葉の真意を読み取った。


「ちょっと待て、通常魔物ってなんだ?」

目ざとく勇者が聞いてきた。

「現状のお前たち程度の存在かな?」

(何故に疑問形?)

「厳密にはお前たちよりも強い者は存在するが、お前たちと遭遇したり敵対するかは分からないからさ」

「「「「・・・」」」」

(更に高みは存在したか・・・)


「特典は三倍だけなのか?」

「まぁ、お前たちの欲しがる魔法も用意してある」

「そっ、それは!!!」

魔王の質問に答えたが、勇者が食いついた。



「お前たちに与えるのは特殊魔法だ」

「特殊魔法っ!!!」

魔女っ娘が食らいついた。


「これは”カンラン”と言ってお前たちの知る日本語の観覧と同じだ」

「ステータスオープンと同じでしょ? どうして変える必要があるのよ」

「あのなぁ、この世界に英語は存在しないからだ馬鹿」

「あっ!!」

「しかぁし、個人で何を発言しても良いが、世界の共通言語とするのは駄目だ。解るな?」

「「「「・・・」」」」

(それって日本語も同じじゃ・・・)


「じゃ現地の言語は?」

「発音が難しいし長くなる。それに他種族が使えないだろうし逆も同じだ。だから簡単な単語にしたんだよ」

「・・・」

「いいか? お前たちに与えるのは我が”眷属専用の魔法”だ。普通の人間や魔物達には使えないようにしてある」

食い下がる魔女っ子に説明した。

四人は首を縦に振り同意してくれた。


「じゃぁ魔法の説明だ」

これは召喚時に要望の多かった”ゲームのステイタス表示”を現実にする為に龍国で開発させた魔法だ。

※物や生物に個人の地位や身分と健康状態に特殊技能を観覧する事が出来る魔法で項目が一覧で見える。

※現在は特定転生者専用の魔法なので対象の特性と技能を能力名称とし数値化したものを日本語表示してある。

※具体的には物品や魔物に個人の”アニマ”と身体を魔法陣で精査して表示する。

※派生魔法で能力擬装と表示妨害を常時発動させる魔導具を開発させた。

※魔法発動者の熟練度と魔素量で対象相手の表示内容が変わる。


「凄い、防御対策も万全ね」

聖女が納得したようだ。



「そしてサクテキだ」

「「「おぉぉっ索敵魔法!!!」」」

聖女以外が反応した。

「じゃぁ説明する」

これも召喚時に要望が多かったので龍国で開発させた魔法だ。

※魔法発動者を中心に発する魔力波が熟練度と魔素量で索敵範囲の半径が変わる。

※敵対するアニマと、好意や同意するアニマを判別する。

※無関係者も視界表示出来る。


「人間、魔物、動植物、無機物もだ。そして”対象名をサクテキ”と唱えると発動する」

「凄い・・・」

「なるほど、便利そうだ」

「敵の位置を把握できるのは良いね」

「どうして今まで無かったんだろう?」

「それは・・・気にするな」


全員が笑顔で意見を交わしている。


「じゃ最大の特典を教えよう」

全員が会話を止めてディバルを見た。


「俺の眷属になるならば、寿命は無くなる」

「馬鹿なっ・・・」

「あり得ないわ・・・」

「すっげぇぇぇ」

「ねぇ、本当なのそれっ!」


「ただし、注意しろ。何事も無ければ死なないが、殺されたら終わりだ。普通に死ぬ事になる」

「なるほどねぇ、一種の呪いみたいじゃない」

「まぁ違うけど似たような感じかな。とにかく方法はどうあれ、言葉通りだよ」


「「ちょっと考えさせてほしい」」

魔王と勇者だ。



四人は席を離れて話し合っている。

「お前たちどう思う?」

魔王が問いかけた。

「条件は凄く言い・・・」

「そうね。寿命が無くなるなんて信じられないわ」

「それだけの特典をくれると言う事は・・・」

「どんな無理難題か・・・」

勇者、聖女、魔女、魔王の順だ。


「魔王は本当に良いのか? 僕たちと仲間になっても」

「お前たちこそワシらと同族になるのだぞ。まぁ見た目が違うだけで魂は同じ日本人だがな」

「魔族・・・魔物としては嫌だけど、私と同じ転生者だから良いわ。この世界の戦いも前世の戦争も現場はただの殺し合いでしょ? 今は種族が違うだけだから・・・」

「そうね。私も元人間として立場が変われば見方も考え方も変わる事を体験したわ」

それぞれが現実を受け止めていた。


「じゃ向こうの要望を聞いてみないか?」

「こちらの要望は他に無いのか?」

「「「「・・・」」」」




「なぁスクリーバ、あいつら動くかな?」

「間違い無くアルジ様の思惑通りになる事でしょう」

「まぁ転生者だしな。一通り異世界で生活して理解しただろうからな」


異世界は甘くなかった。

それが四人の共通認識だ。

常に生と死が隣り合わせの世界だ。

昨日の敵が今日の友、と言う言葉通りに先程まで殺し合いをしていた四人が、同郷の仲間であると認識し、新たに絶大な存在の眷属になろうとしているのだから。


話がまとまったのか、全員が席に着いた。

「我らから幾つか確認したい事が有る」

「あぁ、なんでも聞いてくれ」

魔王が代表して問うてきた。


「ワシ等の主人となる者の力量を知りたい」

「アルジ様、この件は”私め”が対処してもよろしいでしょうか?」

「皆聞いてくれ。眷属となれば全員の知識を合わせる為に再教育する必要がある。それをスクリーバに頼んであるから質問の種類によってはスクリーバが対応する」


「では、聖女よ立ってくれるか?」

スクリーバの指示に従う聖女。

「では私めと貴方達の力量差を、聖女と召喚する者に表して見せよう」

するとスクリーバは呟き、聖女の足元に召喚魔法陣が現れた。

「さぁ戦いなさい」

「はぁ?」

目の前には誰も居なかった。

「足元を良く見なさい」

「不機嫌な聖女はしゃがんで足元を見た」

ガンッ

片足で地面を踏みつけて叫ぶ聖女。

「ちょっとぉ、どういう事よ、これはぁ!!」

「そのままの意味ですよ。私めとの差は、貴女方と蟻ほどの差が有りますからねぇ」

「ちょっ・・・」

「バリオラッ、落ち着いて」

イライラする聖女を勇者が止めた。


「これでも過大評価してるのですよ、あなた達の事を」

「しかし、具体的に体感出来んと分からんぞ」

聖女とのやり取りを見て魔王が口を出した。

どうやら極端な表現をしてしまったと理解したスクリーバだ。

「そうですか・・・では、今ここで私めを攻撃しなさい。貴方達が持つ最大級の力でね」

「その方が解りやすいわ、みんな行くわよぉ!!」

聖女が意気込んで全員に指示を出した。







龍国=どこかに存在する龍が統治する国。

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