Alius fabula Pars 4 目的

「貴方様はわたくしを創生して頂いた創造神様です」

「・・・」

美しい女性が放つ言動の意味が分からず、何かテレビのドッキリだと勘違いする男だ。


「そうか」

そう言って辺りを見渡す。

医療機器のような機械が壁一面を覆い、カーテンで仕切られているが奥がまだ有りそうだった。



男は気づいた。

《はっ、まさかっ、もしかして・・・いや、待てまてまて、よぉぉぉぉく思い出せ。俺・・・死んだのか?・・・いや、事故なんか無かったし部屋でパソコン見てただけだよなぁ・・・だけど・・・本当に異世界なのか? しかもこの三人がスプレムス・オリゴーに、テネブリス・アダマスと、アルブマ・クリスタだったら、俺の小説の登場人物じゃねぇか!! ・・・じゃぁこの双子は誰だ?》


先ほどは”良く知っている名前”に似ていたので思わず口走ってしまい全員に驚かれてしまったのだ。


《まさか、あの名前が正解って事は・・・だったら、どう見てもこの二人はアレだろうに》


「なぁ、お前たちは二人ともメルヴィなのか?」

「その通りでございます創造神様!!」

満面の笑みで応えるスプレムスだったがメルヴィ達は驚いた。



男は混乱していた。

《まさか。いや有りえない。しかし、どう見ても周りの機械に女性も現実的リアルで生々しいよなぁ・・・》

現在の状況に心当たりが有り、”あの冗談の様な出来事”が自身の身に降りかかったと想定して二つの質問を投げかけた。



「ここは龍国なのか?」

「はい、おっしゃる通りでございます創造神様」

嬉しそうに答えるスプレムスと疑心暗鬼な眼差しでみているテネブリスとアルブマだ。

2人のメルヴィは、成り行きを思慮深く観察していた。



「じゃお前たちの”本来の姿”を見せてくれ」

男は賭けに出た。

それは本来の姿だ。

これをどのように表現するかで現在の真実が解るからだ。

想定した姿であれば、現在の全てを現実として”異世界転生”もしくは”転移”を認めざるを得ないだろうと考えた。

ただし、”ドッキリ”の可能性も有るので曖昧でどのようにでも解釈できる言い方にしたのだ。


「解りました。では参りましょうか」


2人のメルヴィ以外は中央広場に向かおうとした。

それは要望に応えるために変身するからだ。


男は起き上がり歩こうとしたら、ふらついてよろけてしまった。

「創造神様!!」

慌ててスプレムスが手を差し伸べた。

「わたくし達は転移で向かうので、貴女達も来て頂戴」

テネブリスとアルブマにそのように伝えて転移した。






「ねぇ、どう思う?」

「お母さまがどうして創造神様を呼び出されたのか・・・」

封印のメルヴィが問いかけて、下界のメルヴィが答えた。

「「解からないわ」」

だが、同じ思考が別の答えを出す事は無かった。


「とにかくエルヴィーノよ」

「そうよね。どうなっちゃうのかしら」

「本体は?」

カーテンの方角を見て告げた。

「向こうよ。寝かせてあるわ」

「はぁ」

溜息をつく下界のメルヴィ。

「とにかく今は待つしか無いわね」





そこは龍国の中心地で、転移して来たのはスプレムスと男だ。

「えっ何だ? 何が起こった!?」

「創造神様がお体に慣れてない様ですから転移で移動しました」

「転移か・・・」


一瞬の出来事なので現実味は無かったが、先ほど居た場所とは違う空間に立っていた二人だ。

《転移なんて・・・転生率100%じゃねーか。あぁあ、俺どうなるんだろぉ。ダメ押しで巨体でも見てみるか・・・》


その場所は広かった。

巨大な柱が見えるが、それ以外には何もなかった。

仰ぎ見れば果てしない場所に続く天井と、壁とは認識できない遠くに見えた何かだ。

この場所は神々が本来の姿に戻って”翼を伸ばす場所”でもある。

何処までも続く何も無い空間。

そこに立つ二人だ。


「では、わたくしは変身しますので。直ぐにあの二人も変身して現れると思います」


ごくりと息を呑む男。


「ヘンシン・・・」

するとスプレムスは光り輝きだして大きく膨れ上がっていった。

男は遠くで似たような光が二つ見えたのを確認した。


見る見るうちに巨大化する光体。

それは山の様だった。


本来スプレムスの全長は100kmだ。

頭の先から尻尾までである。

男の依代は2mも無い。


そして遠くから地響きを鳴らして近づいてくる二体の巨大な生物。

真っ黒の存在は全長70kmだ。

そして純白の存在は全長65kmだ。


男が仰ぎ見る存在の顔も、ぼんやりと霞んで見えた。

足元の”ホコリの様な”召喚者に念話するスプレムス。

(如何でしょうか創造神様)

(凄いな。これほどの大きさとは驚かされたよ・・・しかし・・・)


巨大な虹色の爪の先に触り、質感を実感し”この世界が現実”である事を認めざるを得なかった。

(マジかぁ・・・転生かぁ・・・元の世界じゃ死んで無いよなぁ。良くあるパターンじゃ無いのか・・・)


(我らの姿をご覧になって驚かれないとは、流石は創造神様です)

(予想よりも巨大だったから驚いたさ。ところで元に戻ってくれるかな)

(かしこまりました)



巨大な龍たちが発光しながら先ほどの美しい女性に戻っていった。



「じゃスプレムスと2人だけで話がしたいが、後からメルヴィ達を含めて全員で話したいと思っている」

「畏まりました。貴女達、創造神様の事は内密にしてね」

「「はい、お母さま」」

「では創造神様、お手を拝借します」



スプレムスに手を取られて再び転移したのはスプレムスの自室だった。



「わたくしの部屋であれば、誰にも会話を聞かれる事はございません」

スプレムスの部屋はゆったりとした空間で、心地よい香りと快適な温度調整がなされていた。


案内されて部屋を見回すと鏡が視界に入り何気に見ると見慣れない男が映っていた。

「えっ!?」

驚いて近づき良く見ると、黒髪黒目だが召喚者の記憶とは違い別人の誰かだった。

「何だこれ! 俺の体じゃない」

「申し訳ありません。貴方様の魂しか召喚出来なかったので、お体はご用意させていただきました」

「用意したって・・・もしかして・・・まさか・・・エルヴィーノなのか?」

現在の状況を鑑みれば、自身の物語ではダークエルフのエルヴィーノが出てくる可能性が高いと考慮すると口からこぼれた。

「その通りでございます」

「はぁぁ・・・何でまたエルヴィーノの体に入れたんだよ・・・」

(エルヴィーノの声ってこんな感じだったんだなぁ)


スプレムスは子供たちにした説明を創造神であろう魂に説明した。


「なるほど。体は別に用意してあったと」

「はい。ですがその憑依体がお気に召さなかったようで、直ぐにこのお体に移られました」

「・・・」

(そう言えば、寝苦しくて寝返りしたような気がするけど・・・)



椅子に腰かけて、スプレムスが用意した飲み物を口に含み話し出した。



「しかし驚いたなぁ」

「何がで御座いますか?」

「お前に召喚された事にだよ。しかも魂だけだなんて体はどうなっているのかなぁ」

「申し訳ございません。貴方様の魂を召喚する事がやっとでお体までは呼び寄せる事は出来ませんでした」

「一応確認だが、元に戻ることは・・・」

「今の我らには出来ませんが研究は致します」

(やっぱりな。しかし、本当に俺の物語通りなら・・・)


「まぁいい」

「よろしいのですか?」

「ああ、構わん。方法は”知っている”」

「流石は我が創造神様でいらっしゃいます」


「俺も聞きたい事が有るが、まずはお前の話を聞こうか」

「はい、では。わたくしが長い間ずっと思っていた事ですが、何故わたくしがこの世界で生まれたのでしょうか? わたくしの存在意義は有るのでしょうか?」


この質問には含みが有った。

スプレムスしか知らない過去を説明せずに問いかけた質問に、どのように答えて来るか。

その答えが”本当の創造神”で有る事を証明してくれると考えたのだ。


「存在意義ねぇ・・・今更必要なのか?」

「はい、是非聞かせ下さい!!」

「・・・」


男は暫く沈黙した。

そして賭けに出た。

本当に異世界転生で自らが考案して綴った物語であれば、目の前の女性の”不安”も予測できたからだ。


「はぁ・・・俺を試すわけだな?」

「!! いっ、いいえ、その様な事は・・・」

「じゃ俺がお前の本当の名前を答えればいい訳か?」

「そ、それは・・・」

驚愕の顔をするスプレムスだ。


「随分と我慢したな・・・」

「!!!」

エルヴィーノの体を使って発せられたその一言に何故か体が反応したスプレムス。


「信じられる訳ないよなぁ、スプレムス・オリゴー。いや、転生前の〇○○○○○○○○とでも言った方が良いか?」

「どっ、どうしてその名を!!」

「それとも魂の根幹である〇○○○○○○○○〇○○○の方が今は真実味があるか?」


「!!!・・・・・・あうっ、うわああああぁぁぁぁぁ!!!」

その言葉を聞いたスプレムスの目から、止めども無く涙と慟哭が溢れ出していた。

心のどこかで隠していたのは自身が転生者である事だ。

そして誰も知らない前世の名前を答えてくれたら創造神と信じようと思っていたが、ずっと隠し通していた魂の根幹の名をスラスラと”その男の口”から出た瞬間に、涙が溢れ出したのだった。


「・・・すまない。そこまで泣くとは思って無かった。許してくれ」


スプレムスは嗚咽交じりで号泣していたのだ。

首を振って否定するスプレムス。


「そ、創造・神・様は・・悪く・ありませ・ん・ヒック」

顔を真っ赤にして泣きながら答えるスプレムス。


「俺を呼び出した答えは出たか?」

「は、はひぃ・・・」


千年や万年では足りない程の時間を費やして、ようやく本当の自分を理解する者が現れたのだ。

しかもこの男の体で。


スプレムスは泣き終わる事は無かった。

流石に罪悪感にさいなまれスプレムスの側に寄り、そっと肩に手を回した男だ。

すると、更に激しく泣き始めたのだ。


号泣する女性の隣で、落ち着くまで寄り添うと決めたのだった。







女性を泣かせる悪い奴なのか。


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