第3話 対話

「あのさぁ召使いって何するの? 詳しく教えて欲しいけど・・・」

最後に勇者が食いついた。



先ほどまで死力を尽くして戦っていたのに、同郷の者達と判明すると親近感が芽生え、更に前世に戻れる可能性が有るから召使いになれと勧誘する男に興味を持ちつつ、自分に都合の良い方向に話を進めたい男女の思考が錯綜さくそうしていた。



「まぁ奴隷みたいな感じかなぁ・・・」

「「ええぇぇ~」」

「「断る!!」」

四人の男女が否定的な意思表示をした。


「まぁ召使いも奴隷も、やる事は変わらないだろ?」

「全く違うぞ!」

「全く違うわ!」

魔王と聖女だ。


「それはお前たちの見解だろ? 俺の真意は命令に従う者と言う意味だ。あえて言うなら、召使の方が心象いいから言っただけで、お前たちが奴隷にさせている事が問題じゃないか?」

「「「「・・・」」」」

全員が口をつぐんだ。


「それとお前たちが知っている奴隷が行う内容とは全く違う事を命令する予定だ」

「そんなぁ・・・どれだけひどい事をさせるつもりだぁ!!」

「あのなぁ・・・」

勇者がこの世界に染まりすぎて呆れたディバルだ。



「とりあえず、お前ら順番に自分の生い立ちを説明しろ」



勇者クリティアス・ラネウス・オドリバクターこと小鯛絢斗の場合。

その魂は礼儀正しかった。

それが唯一、”女神”の評価だ。

とにかくそれまで召喚した魂が酷かった。

その純真な気持ちが過度な贈り物として心の強さと魔法を賜った。


前世は平成生まれのシステムエンジニアだった小鯛は、鍛冶屋の子として生まれ変わり成長して戦果を挙げたのちに聖剣を賜る。

聖剣などと呼んでいるが魔法付与されて、ただ攻撃力の高い属性剣で良くある両刃の剣だ。

剣術はこちらの世界で覚えたラウネスは挫けない心を願い、女神さまにもらった不屈の心に支えられ、こちらの世界で始めた剣術で頭角を現せたのだった。


“艱難辛苦を乗り越えて”

小さな村に生まれた少年は成長すると共に”様々な功績”を上げて教会からラネウスと名前を授かる事になる。

数多の戦場を生き残り”姓”を名乗る事を帝国から許されて一代限りだが貴族としての身分を賜った。

“勇者”クリティアス・ラネウス・オドリバクターは、政治利用されただけだった。

しかし純粋にラネウスは強かった。

強さゆえに、のし上がり政治の裏側に利用されたに過ぎなかった。

だがラネウスには杞憂だった。

自らの力で勝ち取った地位に仲間たちと、地域に貢献できたのだから・・・

全ては帝国の為に余計な詮索はしなかったのだ・・・


家族用ゲーム機世代の小鯛絢斗は普通の青年だったが転生後、殺戮の救世主ソティラスと呼ばれていた。




魔王ティマイオス・コクシエラ・バーネッティこと、乙女川正五の場合。

前世は明治生まれ剣道家だ。

魔王が使う漆黒の魔法剣は片刃で日本刀に似ている。

型にこだわって顕現するソレは属性魔法が付与させれている。

現世の種族は昔、旅に出た"クエルノ族"の末裔が土着した子孫だった。


正五曰く、大正ロマンと言う言葉など皆無だった。

政権が暗躍する中で年号が変わり、戦争と社会分解が一度に訪れた時代だ。

その流れに取り残される者たちも大勢居た。

乙女川正五もその一人だった。


当時の日本は、中央政権の入れ替わりで様々な文化が新旧の政治の波にもまれ、不十分な政策と共に激動の時代が訪れていた。

民主主義への近代化を図るも、列国の帝国主義が衝突し大いなる戦乱の世となる。

そんな歴史の中で”もまれた男”は自らの力の無さに絶望していた。


「ワシに力さえ有れば・・・」

圧制を敷く政治や、暴力で支配しようとする”末端”。

知識も無く野望も無い、無垢なる者たちが”全てのしわ寄せ”を担っていた時代。

哀れな正五は剣術で鬱憤を晴らして過ごしていた。


ある日、気が付くと白い世界だった。

正五は直ぐに理解した。

信心深い正五はその存在に懇願した。

人々や仲間を助ける力が欲しいと・・・

国を変える事が出来るほどの力が欲しいと懇願したのだ。


身の上の不幸な体験を説明し、軋轢に屈しない強い体を求めた。

その説明が過度な贈り物として”女神”から魔力と魔法に肉体を賜った。

絶望していた魂が召喚されて女神に求めたのは圧倒的な力だった。


転生後、自身と世界は変わったが内容は似たようなモノだった。

新たに生きて自らが人の為、国の為に動く事を決意した転生者だった。

そんな男が、たまに遠くを見て物思いにふける事が多々有った。

自分の行いと前世を比較しての事だ。

そんな魔王を周りの参謀たちがこう呼んだ。

略奪者アルパガスの憂鬱と。

もっと他国から略奪する為に思考を巡らせているように見えたのだろう。




聖女バリオラ・オルソポックスこと藤沢春恋の場合。

「アタシはねぇ、昭和生まれで、銀座で夜の蝶だったのよ。それがさぁ、何の因果か他人を癒す事になっちゃった」

バリオラは聖女としての体裁を保っているが、本心は女神以外の誰も信じていなかった。

「ねぇ勇者様ぁ、お酒いでくれません?」

携帯していた聖水葡萄酒を取り出してチビリと口に含んだ。

(はぁぁ、お酒だけが私の癒しかぁぁぁ)

聖女バリオラは酒豪で有名だった。

「そうよ、癒しよ。癒しさえ有れば良いの。何か文句ある?」


前世同様に容姿端麗なバリオラに言い寄る男は後を絶たず、信じられるのは自分だけだった。

自らを鍛え、筋肉が増える事で自己満足して癒されていた。

そんな藤沢春恋は鍛えられた筋肉が自慢の戦う聖女だ。

酒精は趣味だ。

本人は嗜む程度と言い張っている。

願ったのは本当の恋。

互いに求め合う事で癒されたい心身だ。




魔女ゾフィ・ロドコッカスこと小鹿あやめの場合。

「私は令和生まれで広告代理店の営業事務をしていた体育会系女子のゲームオタクよ」

その魔女は旅に出たクエルノ族の末裔だった。

「異世界って言ったら魔法でしょ? ほかに何が要るのよ」

転生した小鹿あやめは男好きのする肉感ある体形の女子だ。

自らが求めなくとも近づいてくる異性が面倒だった。

魔物としての自覚は”出来てきた”が、恋愛となると話は別だ。

どうしても前世の知識を引きずってしまうらしい。

本人は出世して魔王直属と言う最も安全な地位を手に入れたと思っていたようだが、魔王からすれば秘書兼、片腕兼、都合の良い仕事の出来る女が同郷の仲間だと知り驚いたようだ。


前世では無理難題を言う魔物クライアントをブチ殺してやりたいと常々思っていた。

ゲームの様に魔法でブッ飛ばしたいと思っていた女だ。

魂が召喚されて”女神”に求めたのは魔力と知識で男たちを制圧したかった。

種族と環境が変わっても言い寄る男達は同じだったが、今は違う。

魔法が使えるからだ。

気に入らない奴らは魔法でぶっ飛ばし、狂暴かつ仕事の出来る魔女として地位を築いていた。




「やはり全員が女神様に会ったのだな」

「姿は見えなかったけど、やさしい声だったわ」

「よく覚えてるねぇ」

「そう言えば、最初に何か質問されたけど理解できなかったから有耶無耶にしたなぁ」

「私もぉ」

「ワシはもう覚えてない・・・」

「ねぇ魔王っていくつなの?」

「確か・・・200歳は過ぎたはずだが」

「マジか・・・」


「私はもっと魔王様のお話が聞きたいです」

「わたくしも勇者様の前世をもっと知りたいわ」

「それは別の機会にしようか」

ディバルが話を割ると二人の女性に睨まれた。



「ねぇどうして、あんたたち戦争始めたの?」

「はぁ!? 貴方達が攻めて来たからでしょう!!」

「私たちは人間が攻めて来たから対処しただけよ」

魔女が聖女に口論を始めた。

「どういう事だ、魔王?」

「ワシも報告でそのように聞いておる」

「お前たちはどうなのだ?」

「僕らは命令に従っているだけだよ」

「なるほど・・・互いに真相を知らない訳か」

「どういう事なの魔王?」

「ワシが説明するよりもディバルに聞いた方が良くないか?」

全員の視線が集まった。


「まぁ、アレだよ・・・」

「何よ、アレってちゃんと説明しなさいよぉ!!」

何故か魔女っ子に怒られるディバル。


「魔物と冒険者の遭遇ってあるだろぉ? 魔物達もスライムから魔王まで何段階も有る訳だ。主に知性を元にした強さの段階だけどさ。そして上位の魔物達は下等な魔物達を大雑把に管理しているんだよ。そして偶然が重なって冒険者と接触したのかな?」

「「「「・・・」」」」

四人は黙って聞いていた。


「普通、冒険者が驚愕するような強い魔物と遭遇するとどうする?」

「魔物の情報を持ち帰るために逃げる事を優先するはずだ」

勇者が答えてくれた。

「まぁ無事に戻れば話が膨らむ訳だな。どれだけ凄い魔物を見たってさ。まぁ管理する魔物も定期的に巡回してるし、この辺は人間と変わり無い訳だ」

「私たちに下等な人間なんていないわ!!」

聖女が吠えた。

「そうか? 貧富や能力に出生の差別が帝国内で格差を生み、区別と称して管理しているのが人間だよなぁ。それこそ人間と言う動物だぜ。魔物達も同様だけどな」

「「「「・・・」」」」

聖女と勇者は思い当たる事が多すぎて言い返せなかった。







ちょっと脱線。

殺戮のソティラス=救世主

アルパガス=略奪者の憂鬱

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