Alius fabula Pars 2 元の世界

その男はアラサーを超えると唯一の趣味である小説に手を出して数年が経っていた。

本人は物書きとして才能など有るとは思ってないし、現実生活でもこれといった才能も無かった。

目立つことも好きではないし、娯楽にもさほど興味は無くなっていた。

仕事に対する意欲も最初から存在しなかったが、それでも今まで生きて来て妄想だけは衰えたりはしなかった。


そんな妄想を趣味の世界に投影する事が唯一の楽しみになっていたのだ。

誰かに読んでもらう事では無く、自分の欲求を満たす自慰行為じみたラノベ投稿が何年も続いていた。

日中でも深夜でも暇さえあれば書き足して修正する事が日常だった。


この世界に本当に転生してみたい作家予備軍に読者たちが何万人居るだろうか?

本人もその一人だと気づいたのは投稿を初めて半年が経ってからだった。

そんな彼は都内に住む普通の現代日本人男性だ。

取り立てて何不自由無い暮らしだが、世の中への不満は人並みに有るらしい。

残業の多さや賃金の安さを恨めしいとは思わず、分相応の暮らしで満足だった。


長い人生の途中だが、現在本人の占有場所は6畳にも満たない広さだ。

とはいえ、マンションの中の王国ワンルームだ。

誰にも邪魔されない彼だけが支配する空間だ。

ベッドに机と椅子に、PCとWi-Fiと小型の冷蔵庫にTV。

“王国”には小さな調理場と”ユニバ”が付いていて、休みの時は引きこもりTVを消音にして悶々とキーボードを叩いている。

何故なら女性や友人との関りは、無くなって久しい今日この頃なのだ。

物欲は世間一般にこの男にも存在するが、どうしても欲しい物は無かった。


一番の理由は、費用対効果の満足度が少ないからだ。

もしくは無いと考えている。

それを入手、または体験するだけに必要な出費と労力が見合っていると思えないからである。

考え方は人それぞれで、物事に強制される事を嫌う傾向があった。

メディアであれ、活字であれ情報の押し売りも迷惑千万なのだ。

とは言え、社会のモラルには順応していると本人は思っている・・・



そう、全て本人が思っているだけの話だ。



そんな男も一人暮らしで偏った食事のせいなのか貧血気味で頭がクラクラと眩暈めまいする事が良く起きていた。

日時に問わず仕事中もクラッとする。

眩暈は数年前からで歳のせいだと思っていたが、近ごろは月に一度はクラクラではなくフッと意識が飛びそうな程やばい事もある。

流石に食事改善して医者に処方してもらった薬を飲んでいるが、趣味の物書きは止めていなかった。


最近は物語を設定していた時パソコンにインストールしたフリーソフトを乱用していた。

それはAI機能を持った自動手記で、過去に入力した日記や文章を読み取り、AIが入力補助してくれるソフトだ。

新たな創作に便利そうだと思って入れたのだ。

主語、動詞、形容詞や副詞に特定の人物が使う口調などに、続く言葉を自動的に予測してくれる代物だ。

例え数文字であっても自動で表示されると、慣れれば使いかっても良くなっていた。



そんな毎日が続く中、今日も午前0時てっぺんを過ぎてキーボードを叩いていた。



「ふぁぁぁあっ、もうこんな時間か。でも良いとこだからもう少しだけ・・・」

すると急に眩暈めまいが襲ってきた。

(あれ、最近は無かったのに久々に来たなぁ。眠気もあるからかぁ?)


普段ならば気をしっかりと保っているが、眠気の後押しもあり一気に意識が飛んでしまった。

机の上に頭を置き、そのまま深い闇に落ちてしまったのだ。 



“社会”のストレスが身体にも影響するが本人に自覚症状は無かった。

だがしかし、これは本人の意思とは無関係に突然訪れた症状だ。

深刻な異常が脳に・・・

魂に・・・

異変をもたらしていた。

それは後頭部に小さな魔法陣が存在していた事が原因だった・・・




暫くすると、画面に文字が勝手に入力され始めた・・・






注意、死んでません。

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