第14話

「コウヘイさん!聞いてくださいよ!モモカさんの前のパーティーの人たち、酷いんですよ!」


 ユイは湯屋から帰ってくるなり、そんなことを叫んでいる。


「おう、お帰り……って、モモカさんも連れてきたのか?」


「あ、お邪魔します……」


 どうやら、湯屋で一緒になったらしい。モモカさんはそのまま寮に帰ると言ったそうだが、ユイが無理やり連れてきたらしい。


「裸の付き合いの次は、同じ釜の飯を食うんですよ!」


 とかなんとかわけの分からないことを言っている。

 どうやら、前のパーティーのリーダーの口癖だったらしい。なんというか、暑苦しい感じの人だったんだろうな……。


「今日も私の手料理をご馳走しますから、若いお二人は御歓談を!」


 なんのお見合いだよ……。


「モモカさん、申し訳ありません。ユイがご迷惑をおかけしました……」


「いえ。私もお言葉に甘えてついてきたことに変わりはありませんから。ユイさん、明るくていい方ですね」


「何か、ダンジョンに行きたがったり好戦的だったり面倒くさいことはありますけど、そうですね」


 そこに関しては間違いない。ユイの明るさには救われる。俺は前のパーティーで責められがちだったから、マイナス思考になる傾向にあるんだけど、ユイはポジティブだ。

 そういうところは本当にありがたい。


「そう言えば、さっき、ユイが前のパーティーの人たちが酷いとか言ってましたけど……」


「あぁ。私があまりにも使えないスキルを持ってるので雑用みたいなことをさせられてきたんです。そのことをお話したら私の代わりに怒ってくれて……」


 モモカさんは笑う。

 俺のときと同じだな。

 どうやら、ユイの方は使えないスキルだと言われても優しく接してもらっていたみたいだ。3回クビになったって聞いたけれど、いつもパーティーメンバーには恵まれていたらしい。

 それに比べると、俺とモモカさんは酷い環境だったんだな。


「それだけじゃないですよ!どうせ痛くないんだろとか言って、殴られたこともあるらしいですよ!サイテー!」


 ユイが料理を作りながら、俺たちの話を聞いていたみたいで口を出してくる。

 しかし、それは酷いな。


「いや、いいんですよ。そうすることでリーダーのストレスが解消できて、依頼が達成できるんですから。実際、私は別に痛みは感じませんでしたし」


 いやいや。そういうことじゃないだろ。そもそも、そんな奴が冒険者パーティーのリーダーをやっていること自体が……。


「ね。コウヘイさんも酷いって思いますよね。私たちはそんなことぜっっったいにしないから大丈夫ですよ!楽しくパーティーで過ごしましょうね!モモカさん!」


「まぁ、そうですね。そんなことがあったなら、冒険者を続けたくなかった理由も分かります。けど、本当に大丈夫ですか?不安があったら言ってくださいね」


「いえ。大丈夫です。ユイさんの優しさはよく分かりましたし、そのユイさんが信頼されているコウヘイさんもきっと優しいんだと思います。私は、寧ろ、私がお二人の邪魔にならないかと……」


「あぁ、それは気にしないでください。俺たちも今日、巨大熊ジャイアントベアの討伐に行ったときに防御力の弱さを実感していたところなんです。それを補強して下さるモモカさんの存在は大変ありがたいですよ」


 そもそも、俺とユイなんて、出会ってまだ3日ぐらいしか経ってないんだ。その程度の関係を邪魔するだなんてそんなそんな。


「……分かりました。ありがとうございます。明日から、よろしくお願いします。ところで、明日はどうするおつもりですか?いきなりダンジョンへ……?」


「あぁ、それについては考えていたんですけど、時間が経てば経つほど、骸骨スケルトンの軍勢の勢力が強まってしまうと思うんです。そうなると、討伐の危険性がどんどん増していきますから、そうならないように俺たちのスキルを使ったときの感じなんかもダンジョン内で確かめた方がいいと思うんですよ」


 ユイが湯屋に行っている間、これについては結構考えた。

 実際、試してみないとモモカさんのスキルとの相性は分からないから不安ではあるんだけど、明日1日ダンジョンに潜らないせいで勢力が7階層まで広がっていた場合、危険度は増す。

 どちらの危険度が高いかと言えば、圧倒的に勢力が強まる方が怖い。だったら、たとえぶっつけ本番になったとしても、ダンジョン内で試した方がいいと考えた。

 もちろん、モモカさんのご意見は聞かないとだけどね。

 俺のその提案にモモカさんはうなずいて答えてくれる。


「私も、そう提案しようと思っていたところです。コウヘイさんとユイさんを結びつけたのも先輩みたいですし、その先輩が組むことを勧めてくれた以上、信用してもいいのかなと思いますし」


「じゃあ、それでいきましょう。明日、ギルドに伺ったときに骸骨将軍スケルトンジェネラル討伐の依頼を引き受けることにするので、準備お願いします」


「分かりました」


「もう!真面目な話ばっかりして!御歓談をって言ったじゃないですかー!」


 ユイの料理が完成したようで、そんなことを言って現れた。

 今日は、巨大熊ジャイアントベア討伐のお礼に村から大量に野菜をもらっていたから、それを使って料理をしてくれたらしい。


「やっぱり、人数が多いときは鍋だと思うんですよ!」


 ユイはそんなことを言って、昨日のベヒーモス肉のあまりと一緒に野菜を煮込んでくれたみたいだ。

 味付けには、乾物の海藻を利用した出し汁に塩と酒を入れて煮詰めた特製のタレを使うらしい。

 危険なスキルでも、パーティーメンバーがユイに優しかった理由には、この料理の腕もあるかもしれないと思えるほどのものだ。


「野菜とお肉を一緒に煮込んだだけで、こんなに美味しいんですね……」


 モモカさんも驚いた声を上げている。


「モモカさん、料理は?」


「簡単なものなら作りますけど、そんなに得意ではなくて……。どうしても不器用で、上手く包丁が使えないんです……」


「包丁なんて簡単ですよ!魔物を剣で倒すときみたいにしっかりと筋肉の状態を感じとれば上手く使えます!」


 ……それがモモカさんには難しいんじゃないかな?誰でも剣で魔物と戦ってると思うなよ。ユイ……。

 しかし、本当に今日の料理も美味い。

 野菜が新鮮なのもあるけれど、ベヒーモスの肉も下味をつけて処理したみたいで、昨日食べたものよりも美味く感じる。


「美味しいですか?美味しいですか?モモカさんもこれで、期間限定なんか言わないで、私たちのパーティーに入りたくなってきましたよね!」


「ユイ……料理でパーティーに入るか決める人はいないと思うぞ……」


「えー?胃袋を掴んでしまえば男だろうが女だろうがイチコロだって、リーダーが……」


「ユイの前のリーダーは、どんな奴なんだよ……」


 俺が呆れたように言うのを見て、モモカさんが笑ってる。


「さすがに美味しい料理が食べられるという理由でパーティーに入るか決めるつもりはないですけど、たとえ入らなかったとしてもたまに食べに来てもいいですか?お邪魔でなければ……」


「もちろんですよ!コウヘイさんと2人で食べるより楽しいですし!ねー!コウヘイさん!」


「それ、俺に対して言うのか……。まぁ、言いたいことは分かるけどさ」


 ユイは、モモカさんが食事に来てくれて、昨日よりも明らかにテンションが高い。

 新しい友達ができて嬉しいんだろう。

 実際、俺とモモカさんが勝手に話してパーティー加入を決めてしまった印象だったから、ユイがどう思っているかは心配だったんだ。受け入れてくれているようで、本当によかった。


「絶対に骸骨将軍スケルトンジェネラルを倒すぞー!」


 ユイがそんな風に叫んでる。


「そこは、2人とも、『おー!』って言わないと!もう一度いきますよ。絶対に骸骨将軍スケルトンジェネラル倒すぞー!」


「「おー」」


 俺も、モモカさんも、小さな声でそう言う。

 その小さな声に納得しなかったのか、ユイは2.3回同じことを繰り返す。

 うーん。受け入れてくれたのは嬉しいけど、面倒臭さが上がってるぞ……。


 その後も、色々とユイに付き合わされた。

 ただ、迷惑をかけられた同志として、モモカさんと俺との絆も深まった気がする。

 その後も、ユイはモモカさんに泊まっていこうとかなんとかしつこかったけれど、うまく引き離して、モモカさんはなんとか帰宅できた。

 帰り際、「お二人となら、冒険も楽しくなりそうです」と言ってくれたことが印象的だった。


 ただ、ユイはその後もずっとテンション高いままで、寝かしつけるまで時間がかかった。寝かしつけるって俺はコイツの保護者か!

 騒ぎすぎて、明日に響かなきゃいいけどな……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

極振りユニークスキルは俺のユニークスキルで『調整』してやる パーティを追放されるようなダメスキルの俺たちだけど、全員そろえば負け知らず roundra @roundra

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ