第13話

「それじゃあ、今日はそういうことで……」


 私がパーティーに加わることが決定した。私自身、今日の話の流れには驚かされた。

 本当に、コウヘイさんだったら私のスキルを役立てられるのだろうか……。

 ヒカリ先輩は、このギルドの中で役立ててくれた。昨日、喧嘩を止めたみたいに。

 でも、本当に冒険者としての私を役立てられる人がいるのだろうか、まだ私は懐疑的だ。


「とりあえず、骸骨将軍スケルトンジェネラルを討伐するまでのお試しってことでどう?」


 私がパーティーに加わる決断をした後、先輩はそう提案してくれた。

 私はとりあえず、骸骨将軍スケルトンジェネラルを倒すまで、コウヘイさんとユイさんのパーティーに協力する。それから、やっぱりギルドで働きたいか、冒険者に戻りたいかを考えればいい。

 お二人はパーティーを組んでから同じ部屋に住んでいるようだけれど、突然その部屋に私も泊めさせてもらうなんて出来ない。私は、今まで通り、寮で生活をしながら、ギルドの受付としての業務をこなし、必要な時だけ一緒に出掛ける。

 そちらの方が、私もやりやすいと感じたから、先輩の提案を受け入れることにした。

 そんな中途半端な形でもいいのか、心配に感じたけれど、コウヘイさんとユイさんのお二人は受け入れてくれた。思った通り優しい方々だ。このお二人となら、冒険者として復帰するのも怖くない。そう思わせてくれた。


「ごめんなさいね。モモカちゃんの意思も確認せずに突然あんな提案して……」


 先輩は私に申し訳なさそうにそんなことを言う。


「いえ。そんな。私は先輩に感謝することは沢山ありますけど、謝られるようなことは何一つありませんよ」


 本心だった。今の私があるのは先輩のおかげだ。先輩が何も考えずに先ほどのような提案をするはずがない。私のことを考えた末のことなのはよく理解していた。

 先輩がこの街の冒険者たちを好きなように私も好きになり始めている。私のスキルが役に立つなら、存分に活用してもらいたい。


「それじゃあ、また明日。今日はゆっくり休んでね!」


 先輩はそう言って私を帰らせてくれる。本当はまだ少し残している業務もあったのだけれど、先輩が代わりにやってくれるらしい。「わたしのせいで明日から忙しくなるんだから、これぐらいはさせて」と言っていた。だから、そんなことは気にしなくていいのに……。そう言っても聞き入れてはもらえなかった。

 仕方がない。私は寮の部屋に戻り、とりあえず湯屋へ向かうことにした。

 こういう時はゆっくり熱い湯船につかるのが一番だ。


「あれ?モモカさん?」


 私が湯屋へ行くと、ユイさんにお会いした。どうやら、ユイさんも湯船につかりに来たらしい。


「あ……ごめんなさい。私、また後で来ますね……」


 私はあわててそう言う。突然だったもので気が動転していた。


「え?何でですか?一緒に入りましょうよ!」


 ユイさんがそんなことを言ってくる。

 え……。本気で……?


「い、いえ……。そんな知り合ったばかりの方と……」


「いやいや。だって見知らぬ人とは一緒に入るんでしょ?それなら、私がいるからって帰る理由にはならないじゃないですか!」


 ……まぁ、ユイさんの言うことは一理ある。それはその通りだ。


「それに、こういうのを裸の付き合いっていうんですよ!仲間になるには裸の付き合いが一番ってリーダーが言ってました!」


 え……?コウヘイさんがそんなことを……?ということは、ユイさん、コウヘイさんとも……?


「あ……。いやいや、コウヘイさんじゃありませんよ。前にいたパーティーのリーダーです。いや、別にそのリーダーとお風呂入ったわけじゃありませんからね!」


 あ、あぁ……。驚いた。もしも、コウヘイさんがそういう方針なのだとしたら、正直、パーティー入りを断ることも考えた。

 違うならよかった。


「モモカさんとは少し2人で話したかったんですよ。やっぱり、明日から不安もありますし」


 考えてみたら、私も同じだ。コウヘイさんは私のスキルを活かせるというような話だったけれど、詳しいことはよく分からないから、その辺の話も聞いておきたい。


「ね。モモカさんも私と話したいですよね?というわけで、一緒に入りましょう!」


 そう言うユイさんに押し切られるようにして、私はユイさんと一緒にお風呂に入ることになってしまった。


「そうなんですよ。そうやって、私のスキル『狂戦士バーサーカー』をコウヘイさんは使えるようにしてくれたんです」


 ユイさんからは、この数日間の話を伺っていた。

 ユイさんのスキルも私と同じように、いや、私以上に扱いが難しいもののようだった。そのスキルをしっかりと扱えるものにしているコウヘイさんのスキルの優秀さもよく分かった。


「なるほど。だから、私のスキルもコウヘイさんのスキルを使えば……」


 どうして、先輩が私を2人のパーティーに入れたがっていたのかも話を聞いてよく分かった。

 コウヘイさんとユイさんは完全に攻撃に偏っているパーティーだ。そこに私のような守備主体の人間が加われば、まず戦略の幅が広がると思う。

 更に、コウヘイさんのスキルを使えば、2人の守備力の強化にも繋がる。そうなれば、十分骸骨将軍スケルトンジェネラルとも戦うことが可能になるだろう。


 骸骨将軍スケルトンジェネラルが恐ろしいのはその軍としての数だ。

 数が多いと、それだけ攻撃を受ける確率も高くなる。しかし、その攻撃によるダメージをほとんど受けなくなれば、いくらでも戦える。

 正直、コウヘイさんのスキルで3分割された私の守備力でどれだけ相手の攻撃を抑えられるかは未知数だけれど、ほとんど食らわない可能性は十分にあると思う。

 そうなれば、骸骨スケルトンの軍勢は恐れる必要がない。ただ……。


骸骨将軍スケルトンジェネラル自体がどこまで強化されてるかってところだと思うんですよね。問題は」


 そう。相手のスキルは抱える軍勢が多ければ多いほど強化されるもの。正直、勇者様の敗北状況を聞く限り、どの程度強化されているか全く想像がつかない。


「まぁ、だけど、あのショウっていう人たちのパーティーが弱かっただけかもしれませんからね!意外と戦ってみたら余裕かも!」


「え……。あの、ショウさんたちは勇者様ですよ……?」


「えー、だけど、コウヘイさんのスキルを上手く使えなかった人たちですよね?そんな人たちが強いとは思えないんだよなぁ……」


「そ、それはユイさんや私のスキルが特殊なだけで……」


「それはそうですけど。うーん。なんか、あそこの人たち、コウヘイさんを邪魔者扱いしてて腹立つんですよね。あんな人たちのためになんで今回も骸骨将軍スケルトンジェネラル討伐しなきゃいけないのかなって私は思ってるぐらいでー」


「意外です……」


「え?何がですか?」


「いえ。ユイさんとコウヘイさんはしっかりと意思の疎通が出来ていると思っていたので。ユイさんが乗り気ではないなんて……」


「いやー、乗り気じゃないことはないですよ。骸骨将軍スケルトンジェネラルとは戦いたいですし。けど、理由が微妙だなって思ってるだけで……あー。もうなんかよく分かんなくなってきちゃった。今言ったことは忘れてください」


 ユイさんはそう言って顔を背ける。

 いや。言いたいことはよく分かった。

 ユイさんはコウヘイさんのことは助けたいけれど、コウヘイさんをバカにしているショウさんたちのことは嫌いで、その辺が割り切れないだけなのだろう。

 とりあえず、ユイさんがコウヘイさんのことを信頼して、いい仲間だと思っていることはよく分かった。

 この、いい仲間の中に私は明日からすんなり加われるのか、少し不安に感じないわけではなかったけれど。


「……関係ないですけど、モモカさんいいなぁ……」


 と、いつの間にかこちらを向いていたユイさんが私の身体の方を見てそんなことを言ってくる。


「や、やめて下さいよ。なんですか」


「えー?いいじゃないですか!私もそういう女の子っぽい体型になりたかったなって思ってるだけですよ!」


 ユイさんは、私が嫌がっても私の身体から目を離そうとしない。


「そんなことありませんよ……。ユイさんは冒険者らしい身体をしていると思いますよ。そのぐらいの方が、冒険者としてやっていくにはいいと思います」


 実際、私は前のパーティーでもスキルに頼っているだけで、ほとんど攻撃には参加しなかったし、ダンジョンの中や山越えなどでは足手まといになっていた。辞めさせられるのも当然だったと思う。


「そうですかねー?あ、そう言えば、モモカさんは冒険者としてはどんな依頼に参加したことあるんですか?」


 それからは、私の冒険者時代の話を聞いて、私への扱いをユイさんが怒ったり、羨ましがったり忙しかった。

 とりあえず、よく分かったのはユイさんがいい人だということ。

 裸の付き合い、悪くないかも。

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