第11話

「なっ……いったいどういうことですか?」


 俺は、驚きのあまり、つかみかかるように新聞屋に問いただしてしまった。


「な……なんだよ。兄さん。怖いよ。どうしたんだよ」


「あ……すみません。勇者パーティーが骸骨将軍スケルトンジェネラルに負けたっていうのはどういうことですか……?」


「どういうことって、そのままの意味だよ。さっき、勇者パーティーの治癒士がボロボロになった勇者ショウと同じようにボロボロの女の子を連れてきたんだ。今日、勇者様はダンジョンに骸骨将軍スケルトンジェネラル討伐に行ってたんだから、そいつらにやられたってことだろ?」


 ジュンヤは大丈夫なのか……。しかし、ジュンヤの治療が追いつかないほどの大怪我をしたとなると……。


「俺もこれから取材するところなんだ。申し訳ないがこれ以上のことは分からないよ」


 そう言う新聞屋にお礼を言って、俺はヒカリさんの姿を探す。ヒカリさんなら何か……。


「……ヘイさん!コウヘイさん!待って。落ち着いてください!」


 俺が人の波をかき分け、前に向かっていると、後ろからユイが声をかけていることに気付いた。ユイが呼んでいるのにも気づかないぐらい興奮していたらしい。


「前のパーティーの人が心配なのは分かりますけど、落ち着きましょうよ」


「あ……あぁ。すまない」


 正直、ショウが負けるとは想像していなかった。そのせいで焦っていたのは確かだ。

 ショウが負けると思っていなかったその理由は、ショウのスキル『勇者』とアカリのスキル『破壊士』の能力にある。

『勇者』は敵の数が多ければ多いほど、発動する技の威力が上がるスキル。パラメータが上がるわけではないものの、技一つ一つの威力が上がれば当然一撃のダメージは上がる。それに、ショウの技は多彩だ。俺たちとは違って範囲攻撃なんかもある。魔法も使える。技の威力が上がった状態で負けるなんて考え難い。

 また、アカリのスキル『破壊士』は、一度の戦闘で倒した敵の数が多ければ多いほど攻撃力の増していく能力だ。これも、今回のような大軍を相手にした討伐には相性がいい。

 そういった面から考えても敗北は想像していなかった。

 だから、少し焦って取り乱してしまった。


 しかし、本当に何があったんだろう……。


 そう考えている中、大勢いる人の中に見知った顔があることに気づいた。

 勇者パーティーの魔術師、ハルだ。


「ハル!どうしたんだ?何があった?」


「……コウヘイか?君こそ何故こんなところにいるんだ?何故、今回の討伐には君が参加していなかった?」


「え……?ハル、お前知らないのか?」


 ハルは人に興味があまりない奴だったけど、まさか、俺がクビになったことを知らないとは思わなかった。


「知らないとは?私は何か聞かされていないことがあるのか?」


 俺が、ハルのその反応に戸惑っていると、ジュンヤが近づいてくるのが見える。


「なんだ。コウヘイ。ハルに何か用か?」


「い、いや……。君らが骸骨将軍スケルトンジェネラルにやられたって聞いて何があったのかと思って……」


 ジュンヤは、アカリほどではないが俺のことを嫌っていた。だから、あまりジュンヤに聞きたくはなかったんだけど……。


「君には関係ないだろう!」


「ジュンヤ。コウヘイが何故今回の討伐に参加していなかったのか私にはよく分からないのだが、そんな言い方はないだろう。しっかりと説明した方がいい」


「……分かったよ。だけど、僕は説明したくない。ハル。君がしてくれ」


「……承知した。私たちは、討伐依頼を引き受けて、ダンジョンに向かったわけだが……」


 ハルの話によると、7階層までは問題なく進めていたらしい。

 ただ、8階層にたどり着くと様子が一変した。

 俺たちがベヒーモスを倒してから数時間で、既に骸骨将軍スケルトンジェネラルの軍勢は8階層まで勢力を広げていたようだ。


 凄まじい数の骸骨スケルトンの軍勢。

 ただ、相手がどんなに多くても、そこは勇者のパーティー。最初は問題なかったらしい。

 ショウの技の威力は上がっているし、アカリの攻撃力もどんどん上がっていく。

 ハルもどんどん魔法で蹴散らしていく。


 しかし、問題が起きたのは、8階層で骸骨スケルトンを倒し続けて数分が経ったところだった。


 ショウの魔力がなくなった。

 敵の軍勢が多く、それによる特技の能力の増加がある一定のレベルを越えたせいで、一回一回の魔力の消費量が増加していき、後に完全になくなってしまった。

 そのせいで、ショウがまず倒れた。

 魔力枯渇で倒れたショウを助けるために、アカリがすぐに向かったが、多勢に無勢。1人では対処できずに大怪我を負ってしまう。

 前衛がやられたことで、後衛の2人は今後の討伐は困難だと判断。

 逃げてきたらしい。

 逃げる時には、ハルが移動魔法を繰り返したみたいで、ハルの魔力も外に出るころには枯渇寸前になっていたようだ。


「……俺がいれば……」


 俺はそう感じた。

 実際、ショウの技の魔力の消費量が大きくなることは今までにもあった。

 そういうときは、俺が『平均化』を活用することで、それほど使用していないハルやジュンヤや俺の魔力をショウに与えていた。

 その戦い方に慣れ過ぎていて、ショウは自分で技の消費魔力を調節するのを忘れていたんだろう。


「ん?君がいれば……?無能の君が何をできると言うんだ。君がいたところで、今回はどうにもならなかったよ」


 ジュンヤが鼻で笑う。

 ハルは経緯を話し終えた段階で興味をなくしたようにその場を立ち去った。


「ただ、今回はただの準備不足だ。魔力枯渇による反動も、アカリの怪我も、僕らの魔力量も5日もすれば元に戻る。そうなったらもう一度挑むだけだ。何も問題はない」


 ジュンヤはそう言うが、強くなっていく技の魔力消費を抑えながら骸骨将軍スケルトンジェネラル軍を討伐するだけの魔力操作がすぐに出来るようになるとは思えない。


 また挑戦して、失敗する可能性だってあると思う。


「ハルに言われたから説明をしたが、だからと言って、パーティーに戻って来ようとは思わないでくれよ。君と関わるつもりはない。じゃあな」


 ジュンヤはそう言って去っていった。


 経緯は分かった。

 ただ、治ってもう一度挑戦して、それで失敗したら……。


「コウヘイさん。コウヘイさんの考えてること、当てましょうか?」


 どうやら、俺と一緒に話を聞いていたらしいユイが隣で俺に笑いかける。


「もう一度挑戦したら、今度は無理をして死ぬかもしれない。そんなのは嫌だ。だから、俺で骸骨将軍スケルトンジェネラル軍を討伐してしまおう。どうです?」


 確かに、考えてないと言ったら嘘になる。

 だけど、あのショウが討伐できなかったのに、俺たちができるのか……?


「私は、コウヘイさんを追い出したパーティーがどうなろうが知ったこっちゃないと思いますけどね。でも、そういう優しいコウヘイさんは好きなので、挑戦するというならやりますよ!」


 ユイは頼もしいな。


「あ……好きというのは、パーティーとしてでですね。あ……えっと……」


 自分で言ったことに照れてるみたいだけど、分かってるよ。


「俺はいい仲間とパーティーを組んだな。ユイ。ありがとう。協力してくれ!」


「話は聞いたわ!」


 ヒカリさんが突然そう言って話しかけてくる。

 なんだ?突然。


「私にも協力させてほしいの。ショウくんたちがこれ以上傷つくのは見たくないしね……」


 そう言って笑う。

 ヒカリさんは、この街の冒険者のことをいつも考えてるからな。

 そういう気持ちは分かる。

 ただ、協力……?


「何か、いい装備をくれるとかですか?それとも、いいレベルアップの方法があるとか……?」


 正直、ヒカリさんからしてもらえる協力というのがあまりピンとこない。確かに便利なアイテムが手に入れば、討伐はしやすいと思うが、そういうことだろうか?


「もちろん、そういう面での協力は惜しむつもりはないよ。だけど、それだけじゃなくてね。新しい仲間を紹介したいと思っててね」


 そう言ってヒカリさんは笑う。


「仲間ですか……?ソロの人ですか?それとも、またクビに……」


 突然、パーティー入りする人材なんて、そのぐらいしか思いつかない。

 ユイも不思議そうな顔でヒカリさんを見ている。


「クビになったと言えばなったんだけど、クビになったのは一月ぐらい前ね……ね、モモカちゃん」


 ヒカリさんは横に立っていたモモカさんにそう声をかける。

 え?モモカさん……?

 モモカさんって受付だよね。冒険者ではないのでは……。


「え……?あ、は、はい。え……?先輩、何言ってるんです?」


 モモカさんも戸惑ってるじゃないか。

 ここに4人いるけど、笑ってるのはヒカリさんだけだ。


 え……?どういうこと?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る