第10話

「はーい、できましたよ。ベヒーモス肉の塩焼きです」


 ベヒーモスを倒し、骸骨将軍スケルトンジェネラルの部隊を発見したその日、俺は家に帰るとユイが食事を作ってくれた。

 材料は今日自分たちで倒したベヒーモスの肉。脂肪の少ない赤身肉で、大変美味しいと噂だったけれど、さすがに高級で一度も食べたことはない。それを、自分たちで取ったんだからとヒカリさんが少しだけ譲ってくれた。


「ありがとう」


 俺はそう言って差し出された皿を受け取る。

 今日一日で俺たちも結構パーティーらしくなった気がする。俺が『贈与ギフト』を使った反動で倒れてしまった後に泣き出したのには焦ったけどね……。

 けど、結果的に絆を深めることにもつながったからよかったんじゃないかな?


「どうですか……?」


 ユイは自分の味付けが俺に合うかどうか心配みたい。


「いや、普通に美味しいよ。ユイとパーティーになったおかげでこんなに美味いものが食べれて嬉しいなぁ」


 俺の言葉にユイは照れたように下を向く。

 ん?あれ?なんか変な空気だ。


「ユイも食ってみろよ。自分で作ったんだから。な」


「あぁ、はい。いただきます」


 慌てるようにしてユイが肉を食べだす。うん。味わってるな。


「けど、実際どうします?骸骨将軍スケルトンジェネラルの討伐……」


「いやいや。俺たちには無理だろ。あそこまでの軍隊になってると、骸骨将軍スケルトンジェネラル自体が相当スキルで強化されてるはずだから……」


 魔物も、特別な上位種になるとスキルを持つことがある。骸骨将軍スケルトンジェネラルはその中の一体。

 そのスキルはその名の通り『将軍ジェネラル』。これは、常時発動のスキルで自分の指揮下にある骸骨スケルトンの数の分だけ敵が強化されるというものだ。

 そんなスキルを持ったうえであの大軍。どれだけの力を持っているか分からない。


「あれは、8階層がベヒーモスの巣になってたのがよくなかったんだろうな」


 結局、ベヒーモスhが8階層を巣にしていたせいで9階層が完全に骸骨スケルトンのための階層になってしまったんだろう。

 魔物自体も階層を行き来することはできる。そのため、たとえ骸骨将軍スケルトンジェネラルが生まれたとしても、骸骨スケルトンの軍勢が各階層に分かれて、結果的に骸骨将軍スケルトンジェネラルの指揮下から外れることも多い。ただし、今回は全ての軍勢が9階層に留まったまま規模が拡大。結果的にあれだけのことになったんだろう。


「けど、大丈夫ですよね!うちの街には勇者が……あっ……」


 ユイはそこまで言って口を閉じる。俺に気を使っているんだろう。


「気にしなくていいよ。実際、ショウは強いし、なんとかしてくれるはずだ。そう信じよう」


 骸骨スケルトンの軍勢が他の階層にいかなかったのは、ベヒーモスが蓋を閉じてくれていたからなわけだけれど、結果的に俺たちがその蓋を開いてしまった。そうなると、その軍勢がダンジョン内を満たし始める。あれだけの軍勢なら、数日のうちに6階層まで勢力範囲を広げ、最終的に5階層まで到達するのに2週間ほどだというのがギルドの見解。

 そうなると、あの初心者用ダンジョンが新人冒険者の体験としてはふさわしくないレベルのダンジョンになってしまう。

 そうなると困るってことで、早々に骸骨将軍スケルトンジェネラルの討伐任務は掲示板に張り出されてた。ただ、Aランクの任務。そもそも依頼を受けることができる者が少ない。まぁそれでもショウは受けてくれるだろう。きっと。


「まぁ、俺たちは気にしないで、明日からは普通の依頼をこなしていこうよ。何がしたい?」


「うーん……やっぱり派手なのがいいですね!こう、どかーんと敵を倒せるような!」


「どかーんねぇ……」


 正直、気乗りはしないけど、せっかくいい感じのパーティーになってるんだ。ここは明日、ユイの言うような任務がないか確認してみよう。


 その日の夜は、昨日みたいな雰囲気もなく穏やかに眠れた。

 勇者パーティーの頃みたいな後ろめたさもないから、安眠できるね。


 次の日、依頼の確認にギルドを訪れると、ちょうどショウたちが来ているところだった。

 アカリが目ざとく俺のことを見つけて、話しかけてくる。


「あんた、パーティー組んだんだって?あんたみたいな無能、よく一緒にパーティー組んでくれる人が見つかったなって今、ショウと話してたところ」


「なっ!コウヘイさんは無能なんかじゃありません」


 ユイがアカリのその言葉に怒ったように言い返す。


「え?あぁ、そのバカそうな女があんたのパーティー?ほんと、物好きね。それに、昨日は骸骨将軍スケルトンジェネラルから逃げ帰ってきたんでしょ?ホント。余計な仕事増やしてくれちゃって。かったるいわー」


「アカリ。その辺でいいだろ」


 まだまだ嫌味を言うつもりのアカリをショウが止めに入る。


「あぁ、はいはい。ヒカリさーん、喧嘩なんてしないから大丈夫ですよー。そんなの時間と体力の無駄だからね」


 アカリはそう言ってその場を去っていく。どうやら、これからあのダンジョンに向かうみたいだな。


「コウヘイ。ベヒーモスを倒したんだって?頑張るのは分かるが、あまり無理をするなよ」


 ショウが俺にそう声をかける。心配してくれてるのか?なんだかんだ、勇者は優しいな。


「僕のパーティーを抜けたせいで君が無理をして死んでしまってはさすがに目覚めが悪いからね。無理はせずに君のできる範囲の任務で大人しく生活している方が君のためだと思うよ。必要なら資金の援助ぐらいするから、どこか田舎に行ったらいい」


「余計な世話にはならないし、ショウの迷惑にならないように気をつけるから、心配しないでくれ。俺のことは気にしなくていい」


「……そうか……」


 そう、残念そうにつぶやくと、ショウはそのままギルドから出ていった。

 結局、俺が心配なんじゃなくて、自分の評判の方を心配してるんだろう。


「なんなんですか?あの人たち。勇者パーティーってあんなんだったんですね」


 ユイが不満そうに口をとがらせている。


「気にするなよ。俺たちは俺たちのことをしよう」


 俺たちはそのままギルドの受付に向かう。

 今日は、適当な討伐依頼を受ける予定を立てていた。実際、ベヒーモスを倒せたんだ。ある程度のものなら問題ないのは分かってる。


「ヒカリさん。なんか、すみませんでした」


「コウヘイ君のせいじゃないから……。で?今日は何の依頼を受けに……あっ。今日はこの子に依頼の相談をしてもらえる?モモカちゃん。こっち来て」


 ん?確か、昨日冒険者同士の喧嘩をヒカリさんが止めた時に後ろにいた子だよな。

 新人さんだっけ?


「あ、モモカです。よろしくお願いします」


「あぁ、よろしく」


「それで、今日はどのようなご用件ですか?」


 それから、俺はユイとモモカさんと相談をして、Cランクの依頼である巨大熊ジャイアントベアの群れの討伐依頼を受けることにした。

 モモカさん、対応は丁寧だし、俺たちのパーティー構成から提案する依頼もちょうどいいし、これはいい受付になるんじゃないかな?


 巨大熊ジャイアントベアの群れは近くの村の農作物を荒らすために現れたみたいで、7頭ほどの集団になってた。


「いやーいつみてもでかいですね!」


 ユイが興奮気味に言う。ベヒーモスを倒して自信がついたのか余裕の表情だ。


「もう、やっちゃいますよ?」


「あぁ。準備はいいぞ」


「『狂化』」


 つかったあとの、かしこさがおちるかんじにも少しなれてきた。

 あたまにはもやがかかる。だけどしょうがない。今日は、おれもこうげきに加わるかたちのやつでいく。

 おれはけんでつきさす。てきにけんがつきささるかんじは、おれがじぶんでこうげきするときにはかんじられない、かんたんさできもちいい。

 そんなかんじでいると、となりから巨大くまにこうげきされる。

 いたっ。そのままけんをつきさすがいたみはきえない。

 見ると、ユイもこうげきをくらってる。


『狂化』が解ける時間になると、俺たちはそのまま回復薬を体に振りかける。

 倒すには倒したが、7頭を二人でってことになると少しさばききれなかったみたいで、二人とも結構傷ついてしまった。

 昨日はベヒーモス一体だったからな……。


「これ以上の魔物ってなると、やっぱり俺たちじゃあ防御力が足りないんだよな……」


「そうですね……。『狂化』を使うとそんなに守ることまで考えられないですし……」


 パーティーとしては、回復役か防御役は欲しいところだよな……。

 ショウのパーティーでは、ジュンヤという名前の『治癒士』がいた。こいつの治癒は的確で、いつもダメージを受けるとすぐに回復してくれるから痛みをあまり感じないんだよな。


「仲間、増やす方向で考えた方がいいかもなぁ」


 行動が制限されるよりも、その方がいい。ギルドに戻ったら、ヒカリさんかモモカさんに相談してみよう。


 そう思って、ギルドに戻ってみると、ギルド内が騒がしい。

 受付前に人がたまってるみたいだ。


「何かあったんですか?」


 こういう時は、情報が売りの新聞班に聞くのが一番。俺は、話しかけやすそうなギルド内の新聞班の人に声をかける。


「そ、それが……勇者パーティーが骸骨将軍スケルトンジェネラル軍を討伐できずに帰ってきたみたいなんです」

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