第9話

「お前にスキルを使われると、いつまでたっても敵が倒せねぇじゃねぇか!」


 そう言われて、私はパーティーを辞めさせられた。言われたことの意味は分かった。だから、私はそれを受け入れた。受け入れざるをえなかった。

 ただ、私はユニークスキルを持って生まれたせいで、故郷くにの期待を一身に背負っている。

 帰るわけにはいかなかった。

 辞めさせられたが、この街で信頼出来る人なんてほとんどいない。ここは冒険者の街。こういう街に集まる人はこわい。私は出来るだけ人を傷つけたくない。闘技場なんかもあるけど、あそこの人たちは人同士で傷つけ合っている。意味がわからない。ただ、そんな街の中で唯一信頼出来ると感じていたヒカリさんに相談することにした。


「え……?モモカちゃん、パーティークビになっちゃったの?」


 私がヒカリさんに相談すると、目を丸くしてそう尋ねてくる。

 ヒカリさんは、こういう反応をしてくれるところが優しい。

 大抵の人は、「だからどうした」みたいな反応だ。「無能なのが悪い」と言ってくる人だっているぐらいだ。


「はい……。私のスキルを使うといつまでも敵が倒せないということで……」


「あぁ……。モモカちゃんのはモモカちゃんの優しさが全面に出てるようなスキルだからね……」


 ヒカリさんは、ここにやってくる冒険者のスキルを全部把握しているんじゃないかってぐらいスキルに詳しい。本当にすごいと思う。


「はい……。それで、どうしたらいいかなって……」


「このままソロでとか、別のパーティーを探してとか考えてるわけじゃないって感じかな?」


「はい……」


 そう。今回辞めさせられたパーティーは、故郷くにを出るときに紹介されたパーティーで、正直言って私は乗り気じゃなかった。私は自分が戦うのに向いてないことは分かっていたから。

 だけど、私のスキルを聞いたら誰でも前衛で使いたがる。そうすると、自分が傷つけなかったとしても、魔物とか仲間が傷つくのが見えてしまう。

 本当はそれが嫌で嫌でたまらなかった。

 だから、この際、冒険者自体をやめてしまおうと思っている。


「じゃあ……うちのギルドで働くっていうのはどう?モモカちゃんの真面目さはよく分かってるし、給与も出るし、寮で住めるし。いいことだらけじゃない?」


 そんなこと、思ってもみなかった。

 だけど、冒険者の人と接するのは少し怖いし……。


「怖いと思ってるなら大丈夫。そのためのユニークスキルだと思えばいいんじゃない?モモカちゃんを傷つけられる人なんていないでしょう」


 言われてみればそうだ。こちらから危険なところに首を突っ込みさえしなければ大丈夫……かもしれない。


「分かりました。よろしくお願いします」


 そんな話をしてから、1ヶ月ほどの時間が流れた。

 私はまだまだ新人だけれど、この仕事の楽しさは分かってきた気がする。

 私が確認した依頼を達成した冒険者がいると、本当に嬉しくなる。

 旅立った冒険者が帰ってきてくれると、ホッとする。


 それに、冒険者の人たちがそんなに怖くないってことも少しずつ分かってきた。それぞれに事情があって冒険者をやっている。

 私と同じように故郷の期待を背負っている人。本当に戦うのが好きな人。自分の育ったこの街を平和にしたいと願う人。それぞれだ。


 そんな慌しいけど平和な日。そんな毎日を過ごしていたその日も、いつも通りの一日になるとそう思っていた。

 その2人がある依頼の途中経過を話に来るまでは。


「9階層に、骸骨将軍スケルトンジェネラルが出ました。しかも、300体規模の骸骨スケルトン部隊を引き連れています」


 その報告に来たのは、昨日、ヒカリ先輩が別々に対応していたのに、帰ってきたら何故かパーティーになっていた男女だった。

 昨日先輩が言っていた話によると、2人ともユニークスキル持ちでパーティーをクビになったらしい。

「モモカちゃんと同じだね」とか言われた。

 私はもう冒険者だった過去なんて忘れようとしていたんだけどな。


「本当に?それで、2人とも大丈夫……?」


「はい。そもそも8階層でベヒーモスと戦った後だったので、様子を見てすぐ報告に来ました」


「え?ベヒーモス……。2人とも倒したの……?」


 先輩が驚いたようにそう尋ねている。

 ベヒーモスは、Bランクのパーティーがやっと倒せるレベルだと聞いたことがある。

 たしか、こちらの男性の方はAランクだったはずだけど、確かに2人でとなるとかなり大変だったであろうことは想像できる。


「はい。あっ、その素材の買取なんかは後でちゃんとお願いしますので」


「え……ええ……。しかし、あのダンジョンそんなことになってたなんて……」


 確か、この2人が引き受けた依頼は、初心者向けダンジョンの6階層以降の調査だったはずだ。

 私もあそこには行ったことがあるが、たいした難易度ではなかったはず……。

 深い階層ではそんなことに……。

 恐ろしさに少し震えてしまう。


「けど、その規模になると、Aランク以上にしか討伐の許可は出せないかな……。コウヘイ君は?引き受ける?」


「冗談やめてくださいよ。俺たちにそこまでの実力ありませんって。ショウがやってくれるでしょ?あいつらはまだこの街にいるんだし」


 ショウ。この街を拠点にしている勇者の名前だ。確かに、勇者なら骸骨将軍スケルトンジェネラルの軍隊ぐらい倒せるのだろう。


 と、そんな話をしていると、何か騒がしくなってきた。

 何か、揉めてる冒険者の集団があるみたいだ。


「もう。何、あいつら……」


 先輩が不快そうな顔をする。

 先輩はいつも優しいけれど、冒険者たちの揉め事には厳しい。戦いたいなら闘技場に行けというのをこの1ヶ月の間に10回は聞いた。


「ちょっと、ごめんね。モモカちゃん。一緒に来てもらえる?」


「あ、はい」


 先輩に言われて私は後に続く。

 その冒険者の集団は私たちが近づいてもまだ揉めているようだ。

 先輩の目が怒っているのがよく分かる。

 怖いんだよな……こういうときの先輩。


「ふざけんじゃねぇよ!俺たちが先に引き受けようとしたっつってんだろ!受付に詳しい話を聞いてたんだよ!」


「は?そんなもんしらねぇよ。手続きしたもん勝ちだろ!」


 依頼をどちらが受けたかで揉めてるらしい。

 どれだけ先に依頼についての内容を受付に聞いていたところで、手続きが早かったパーティーがあるなら、そちらの方が優先だ。

 それは規則上当たり前のこと。揉めるような内容ではない。


「は?ふざけんじゃねぇよ!」


 そう言って片方のパーティーのリーダーらしきものが拳を握りしめている。

 もう片方のパーティーも引くつもりはなさそうで、拳を握る。

 あ……くるな。そう思った私は、予め『守護者ガーディアン』を発動しておく。


 ドンッという音と共に、2人の拳がそれぞれの顔に当たる。

 しかし、2人とも何事かあったのか、不思議そうな顔をしている。


 うん。うまくいったみたい。いつも、スキルを発動した実感がわかないから、うまくいくか冷や冷やする。


「はいはい。あんた達!ここは依頼について話をする場で揉め事をする場じゃない!揉め事は闘技場で決着つけろっていつも言ってるでしょ!」


「ヒカリさん……」


「揉めるなら、そっちの依頼も引き受けないし、あんた達2組ともここ出禁にするよ?それでもいいの?」


「あー!それはやめてくれ。すまなかったよ。ちょっと最近失敗続きでムシャクシャしてて。申し訳なかった」


「俺たちも、奪い取るようなマネしてすまなかったよ。今度から気をつける」


 なんとか、話はまとまったらしい。

 先輩はさすがだ。


「ありがとう。モモカちゃん」


 先輩が私に感謝の言葉を告げてくれる。

 冒険者だった頃には、役立たずだと言われた私のスキルが役に立つなら、いくらでも使ってほしい。

 本当に、ここで働けてよかった。

 もしかしたら私の天職かもしれない。


 それから先輩は、骸骨将軍スケルトンジェネラル軍討伐依頼の手続きを進めていた。


「久しぶりのAランク依頼だから、少し忙しいかもしれないけど、モモカちゃんも頑張りましょうね」


「はい。これからもよろしくお願いします!」


 大きな依頼があったとしても、私にとっての日常は変わらない。

 私は冒険者ギルドの新人受付。

 ユニークスキルは、ここや先輩を守るのに使うんだ。

 明日からも、楽しい毎日が送れるといいな。

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