第3話
それから俺は荷物なんかをギルドに預け、採集用の小刀や防具なんかを身につけるとすぐに街の門へと向かった。
街の門は依頼書を見せると簡単に開いてくれる。
依頼書にはギルドの印が押してあるから、それが冒険者としての証明書の代わりになるらしい。
高級薬草の採集自体は何度かやったことがあるから、正直言って不安はない。
この街の周辺ではそこまで凶悪な魔物は出てこないし、俺一人でもなんとか対処できるだろう。
久しぶりの一人だし、何にも気を使う必要はないんだから、ゆったり向かうかなぁ。
そう思ってたらいきなり魔物だ。
まぁでもたいしたことはない。単なる
吐く糸に絡めとられると少し厄介だけど、この程度かわせないようでは冒険者なんて名乗れないからな。
さらっとかわし、すぐに撃退する。
うーん。手応えがない。
俺も長いこと勇者パーティーの一員だったからな。痺れるような戦いを繰り返してきたからこの程度の相手では戦いで満足感を得ることは不可能だよな……。
ただ、あまりにも強い相手と戦うとすぐに死んでしまうし……。まぁ、今後のことは後で考えようっと。
それから、しばらく歩いていると目的の場所に到着した。高級薬草の群生地だ。
少し遠めだから確かに採集に来るのは面倒だけど、ここで採集するだけであれだけの報酬がもらえるというのは本当に楽な依頼だよなぁ。
ヒカリさんもいい依頼を選んでくれたな。
そこでゆったり採集をして、必要な量も集まったしそろそろ帰ろうかと思っていると、突然足音が聞こえてきた。
この足音は……。
足音の方を見てみると、予想通り
なんだよ、ヒカリさん。こんなのがいるなんて聞いてないぞ……。
と思ったけど、その
あぁ、討伐依頼を受けてる人がいるのかな。
俺が到着する頃には討伐し終えている予定だったからヒカリさんもここを紹介したんだろう。
まぁ、少し受け止めておけばあの子が追いついてきて倒してくれるだろう。
俺は小刀を手に取り、
群れのリーダーがいたら指示を出して少し恐ろしいけど、一頭だけだったら、どうせ正面から突進しかしてこないから簡単にかわせるだろう。
俺は向かってくる
うん。このぐらいなら大丈夫そうだな。
おっ。女の子も追いついてきて……ん?なんか目が血走ってるな……。
こわっ。なんかのスキル……?
普段だったら鑑定するところだけど、突っ走ってくる女の子の勢いと向きを変えてまた向かってくる
「おい!そこの子、協力しよう!俺が引きつけるから、うまく倒してく……え!?」
俺がそう女の子に話しかけていると、突然女の子が俺に向かって攻撃してきた。幸い、速度が速くないから簡単にかわせたけれど、その剣を振った衝撃によって俺はその場から吹き飛ばされてしまう。
は……?なんだよ、あの子。俺を敵だと思ってんのか……?
しかも、ただ剣を振っただけに見えたのにこの衝撃、当たったら……。
俺は自分が真っ二つに分かれてる姿を想像して青ざめる。
え……?
パーティー追い出されてこれからどうなることかと思ってたけど、え?俺、ここで死ぬの……?
また、女の子が俺に向かってくる。
「うわー!やめてくれー!」
俺がそう叫ぶと、突然女の子の目が普通の様子になって、剣の勢いが止まる。
「え……?あれ……?人?」
いやいや。今まで気づいてなかったのかよ……。
「あっ!
女の子がそう叫ぶのが聞こえる。あぁ、忘れてた。むしろそっちが今の敵だった。
そのまま何度かやり過ごして落ち着いてきた。とりあえず、女の子も俺の方にはもう攻撃してくるつもりはないみたいだし、会話できるか……?
「で……?これはどういう状況か説明してもらえるかな?」
「はい。えーっと。私はギルドの受付のヒカリさんに、ここの
「へ?俺もヒカリさんからここの高級薬草採集の依頼を紹介してもらったんだけど……?」
それって、つまりヒカリさんがこの子に
「えー……。そんな基礎的なミスみたいなことヒカリさんがしますかね……?」
この子も俺と同じ見解みたいだ。そう。あの優秀なヒカリさんがそんな新人みたいなことするとは正直思えない。
ってことは、何か狙いが……?
「因みに、君はどうして一人でここに?パーティーは組んでないのか……?おっと……」
話をしている間にも
突進力が強すぎるから一回かわせばしばらく攻撃にこないのは助かるが、面倒だな……。
「あぁ、私、今日パーティーをクビになっちゃいまして……ははは」
「は?君も……?」
なんとなく、ヒカリさんの考えが分かったような……。
「えーっと、君がクビになった理由を聞いてもいいかな?」
ヒカリさんが俺たちを引き合わせたかったんだとすると、きっと俺たちにパーティーを組ませたかったってことだと思う。
俺に対してもったいないって言ってたからな。この子もソロ冒険者ってわけじゃなくて、パーティーに入ってたってことはそれをクビになった理由に何かヒントが……。
「あー。それこそ、さっきのです。よく覚えてないんですけど、さっき、私あなたに対して攻撃仕掛けてませんでした?」
「あ、あぁ……。仕掛けられたな」
「あれは、私のユニークスキルが原因でして……」
ユニークスキル……?この子もユニークスキルが原因でクビになったのか?
「私のユニークスキル、『
「本能のままっていうのは……?」
「はい。ええっと、自分が攻撃できる範囲内において、魔力値の高いものを優先して攻撃します」
「あー。なるほど。そういうことか……」
俺は魔導師ではないけれど、スキルの発動には魔力が必要なことから、
その本能のせいで、途中で攻撃対象が俺に切り替わったってことだろう。
「そりゃー、ぶっ壊れたユニークスキルだな……」
「そ、そうなんですけど、魔導師系の魔物と戦うときには役に立つんですよ!実際、前のパーティーでは塔のダンジョンに挑んだときなんかは私のおかげで……おっと」
ぶっ壊れスキルの子も突進をうまいことかわす。まぁ、実力はちゃんとあるみたいだな。
「確かにそういうときは役に立ちそうだな。因みに、今戻ったのはどうやって……?」
「あ、それは時間です。狂化は大体2分が限界でして……。それを越えたら解除されます。ただ、すぐにまた使えるんでそんなに困ることはないんですが」
ははぁ。つまり、さっきはたまたまその前に発動してから2分が経ったから俺は助かったってことか……。え?もし、もっと遅くに発動してたら、俺はこの子も相手にしなきゃいけなかったってこと?
「ただ、私が人に迷惑かけるってこと分かってるのにどうしてヒカリさんは、あなたをここに来るようにしたんでしょうか……?」
「あぁ、それなら今の君の話を聞いて大体予想がついたよ。たぶん、俺のスキルを使えば何とかなると思う。ちょっと距離を取るから、次あいつが来たらスキルを使ってみてくれ」
さっきの、賢さの数値がゼロになるってのが俺を襲った原因だって話が本当だったらなんとかなるはず。というか、なんとかなるってことが分かってるからヒカリさんは俺とこの子を引き合わせたんだろう。
ちゃんと説明しておいてくれればいいのに……。
「え?え?本当にいいんですか?あなたのこと攻撃しちゃいますよ?」
「大丈夫大丈夫。気にせず使ってくれ。もし、俺が君の攻撃で死んでも、その後あいつは倒せるだろうし」
「わ、分かりました。あ、私のせいじゃないですからね!」
いや、死なないけどね。俺のスキルへの信頼っていうか、ヒカリさんへの信頼かな?
ん?ちょうどこっちに近づいてきた。
「よし、今だ!使ってくれ!」
「は、はい!『狂化』」
よし。作戦開始だ。
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