第24話
これは、いかんよなぁ……。いかんいかん。
私は、自室のベッドで溜め息をついていた。
レルフィード様の事である。
恐らく……薄々感じてはいたのだが、レルフィード様は『デブ専』と呼ばれる性癖に違いない。
ここ2ヶ月ほどのレルフィード様の様子を観察していて、私は確信していた。
あれはきっと本人も気づいていないんじゃなかろうか。そうだよなー、コミュ障で殆ど外に出てないんだもんなあ。
でなければ、私のような美人でもない丸々した女の手を嬉しそうに握って休みの度に出歩こうと思う訳がない。アレはガチだ。
魔族とは言うが、私には人族と全く違いは分からないし、コワモテとは言え目鼻立ちの整った細マッチョのイケメンさんである。その上気遣いも出来て、魔力最大のマイロンド王国の王様である。
他の人とも緊張せずに話せるようになれば、多分モテモテに違いない。というかモテない要素が見つからない。
私も力になれればと助っ人を買って出たが、レルフィード様は話せば話すほどイイ人である。
一緒にいて楽しい。喜んでご飯を食べている姿などを見ていると幸せな気持ちにすらなってしまう。
最近では手を繋ぐ行為が私の平常心を掻き乱す。
だから困るのである。
自分に優しくしてくれて、一緒に居て楽しくて一緒にご飯を食べると幸せ。
これはもう魚じゃない方のコイである。
しかし自分はいずれ元の世界へ帰る人間なのだ。
偶然気づいてしまった彼の個人的な性癖を利用して、
【むちむちが好き(無自覚)→キリが好き(洗脳)】
に強制的に誘導するなど私には無理だ。
恐らく女性に免疫がない人だから、素直に流されてしまうだろう。だが、そんな未来のない関係に無理やり落とし込んだとして何になる。
一時的に私は幸せ気分を味わえたとしても虚しいだけだ。それに、こんなモテた事もない女に弄ばれてポイされて傷ついてしまうレルフィード様なんて、とてもじゃないが見たくはない。
あの人は、ちゃんと本当の幸せをこの世界で掴んで欲しい。掴むべきだ。だって国王様なんだもの。
私は深く頷くと、シャリラさんのところへ向かうべく部屋を出た。
□■□■□■□■□■□■
「……レルフィード様が、デ、デブ専ですって?」
「そうなんです」
私は、シャリラさんの見開いた目に、そら驚くよなあと申し訳ない気持ちになってしまった。
シャリラさんに、これまでのお出かけの時のレルフィード様の様子を詳細に伝えた。
「常時歩く時は手を握り嬉しそうに?『手がフワフワして気持ちいい』とまで?あのレルフィード様が?」
「間違いありません。その上、ぼんきゅっぼんの美女に誘われてもキリと予定があれば、そちらを優先するとまでごく当然のように……」
「ガチね」
「ガチでございますね」
「そっち系統のお好みだとは気づかなかったわ……」
「恐らく城に籠りがちで、ご自身でも自覚がないのだと思われます」
「ははーん……どおりでねぇ。
城で働く魔族の女性は、若い子はスタイルいい子……というか単に細い子が多かったもの……スタイルを保つというより、食に興味が薄いというか。
キリが美味しい食べ物を提供してくれるまでは、ほら、食事が余り……アレだったしね。
だから最近では男女ともにふっくらした感じで、むしろ健康的になったんだけど……そうか、城の人間の様子を見て、ご自身の嗜好がはっきりした感じなのかしらね」
私はウエストが2センチ位増えて、服がキツくて困ってるんだけどねぇ、とシャリラさんが悲しそうな顔をしたので、
「それでしたら、シャリラ様だけローカロリーのダイエット食に切り替えま──」
「止めてちょうだい!美味しいモノがカロリー高いのは仕方ないのよ!甘んじて受けてやるわ、いざとなれば運動でどうにでもするから今まで通りでお願いよ!」
喋ってる途中で食い気味に遮られてしまった。
まあ本人が良ければいいのだけど。
「……まあ、それでですね、出来たらレルフィード様の身の回りのお世話を、こう、豊満なタイプの女性にして頂くのは如何でございましょうか?」
「……それは可能だけど、キリはそれでいいの?
身内贔屓かも知れないけれど、レルフィード様は無愛想に見えても優しいし、いい人なのよ?
ねえいっそのこと、キリがパートナーを狙ったら?」
探るような目を向けられて、内心で動揺した。
「勿論お人柄は分かっておりますが、私はあと2ヶ月もすれば元の世界へ戻る人間ですから……この国の方と上手く行く方がよろしいかと」
「そう……そうよね。レルフィード様がようやく外に目を向けたのに、貴女がいなくなったらまた引きこもりになってしまうのは避けたいわ。
──分かったわ。手配はしておくから安心して。
でも、そのつもりならキリも一緒に出かける機会はなるべく減らした方がいいわ。下手にあの御方が好意を抱いてしまったらまずいもの」
「そう、……そうですね。それではシャリラ様、出来たらなるべく仕事を増やして頂けますか?手持ち無沙汰な状態だと断りにくいですから」
「ええ、体力的にキツくない仕事を選んでおくわ。任せてちょうだい」
お辞儀をしてシャリラさんの部屋を後にしながら、この滅入った気分をどうしたらいいのやら、と泣きたくなった。
自分が提案した事で返り討ちに合ってどうすんだ。
大体、私にそんな資格はありはしないのだから。
「緑子ちゃんたちのとこ、遊びに行こうかな……」
あの子たちといると楽しいしね。
そう思いつつも、私の気持ちはいつまでも晴れないままだった。
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