第17話
【レルフィード視点】
「あ、レルフィード様…………シャリラ様にジオン様もお帰りなさい!」
食堂に入ると、皿を片付けていたキリが笑顔で出迎えた。
「ただいまキリ。忙しそうね。ちょっとお昼時過ぎちゃったけど、私たちのお昼ご飯はあるかしら?」
「勿論いつでも用意してますよ。ちょうど一段落ついた感じで静かに食べられると思います。
本日は、豚肉の味噌漬けと、ナスと挽き肉のピリ辛炒めです。あとデザートにプチシュークリームを作ってありますのでお持ち下さい。午後のおやつにでもどうぞ」
席についた私たちに水を運んできたキリは、そう言ってぺこりと頭を下げると、厨房へ戻っていった。
もう少し砕けた感じに話してくれると個人的には嬉しいのだが、仕事のオンオフだかの切り替えが大事だと言う。だから別に働けとは言ってないのだが、その辺りはキリも頑固なところがあると私は思っている。
少しして持ってきた味噌漬けやナスのピリ辛炒めもいつも通りご飯が進む美味しいオカズであった。
またしてもご飯をお代わりしてしまった自分が少し恥ずかしい。
「…………キリ」
ようやくタイミングを見計らい声をかけると、食後のお茶を淹れていたキリが、私を見た。
「レルフィード様、何でしょうか?」
「確か、次の休みは明日ではなかったか?」
「よくご存知ですね。あ、でも雇用主ですから把握してて当然ですよね」
「それで、…………その、明日の予定は決まっているのか?」
「いえ、先日購入した本も読み終えてしまいましたので、この間の本屋にまた何冊か探しに行こうかと」
「………そうか。女性だけでは何かあると危ないし、その、例の、練習もしたいから、私も一緒に行っていいだろうか?」
キリが「練習?」と首をひねったが、すぐああ!と納得したように頷いた。
「分かりました。覚えてらしたんですね。勿論喜んで。ではまた、明日は同じ位の時間で宜しいですか?」
「ああ」
「では明日。楽しみにしております」
ふわりと微笑んで、持ち帰り用のシュークリームとやらを入れた袋を3つテーブルに載せると、頭を下げて厨房に戻っていった。
「…………おい、練習とは何だ?レルフィード様よ」
ジオンが私を見た。
「…………私が外に滅多に出ないから、このままだと良くないから、色々な人と接するのに慣れるように一緒に出かけてくれるんだそうだ」
一生独り者ですよ、と言われた事は別に言わなくてもいいだろう。
「まあ!ようやく外の世界に目を向けるようになりましたのねレルフィード様も!!」
シャリラが嬉しそうに手を叩いた。
「私だって、ずっとこのままではいけないとは思っていたさ。…………だが、キッカケがなくてな。
キリが、自分はいつかは帰るから、恥はかきすて出来るし口は堅いですからと言うもので、少し努力してみようかと…………」
段々と言い訳めいてきて小声になってしまうが、決して疚(やま)しい気持ちがある訳ではない。
と、思う。
「キリったら、よくこの引きこもりのレルフィード様を引っ張り出してくれたわね。お給金弾んであげないと。
レルフィード様、頑張って下さいね!この先、あの聖女ともまみえる事もあるでしょうから、是非ともこの機会にスマートな立ち居振舞いというものを学んで下さいませ」
「スマートな立ち居振舞い…………」
あまり自信はないが、キリと出かけるのにちゃんと理由づけが出来るのは悪くない。
「レルフィードだって磨けば光るんだから、聖女がやってきた時に紳士的なところを見せられるように頑張ってくれたら俺たちも助かる。
というか気苦労が減るからよ、頼むわマジで。
普通でいいから普通で」
素に戻った口調でジオンも真顔で頭を下げた。
2人にかなりの負担を強いていたのを今更ながら痛感して、申し訳ない気持ちになる。
「出来る限り、頑張ってみる。
キリの都合がつく時には頼むつもりだ」
「心から応援するぞ」
「何かあれば聞いて下さいね」
2人ともご機嫌な表情でお茶を飲んでいるのを見て、流石に数十年引きこもり生活だった自分を反省した。
キリが帰るまでに、何とか普通の魔族になれるよう精進しなくては。
普通の魔族というのもよく分からないが、まあ恐らく自分は普通ではないのだろう。
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