第16話
【レルフィード視点】
「…………おいレルフィード」
「…………ん?何だ」
「いやだから、まだろくに勇者選定も終わってないって話だよ」
「あ、ああ、そうか」
キリと町へ買い物に行ってから3日後、ジオンやシャリラが偵察から戻ってきた。
現在絶賛会議中だったのにボンヤリしていたらしい。
「ああそうかじゃありませんわよレルフィード様。ついでにたまたま護衛をつけて町に来ていた聖女を見る機会があったのですが、それはもう足が長くてスタイルの良いプラチナブロンドの美人でしたわ」
プラチナブロンドの美人か。
自分も金髪だが、キリのような艶やかな黒い髪の方がミステリアスで魅力的だと思うのだが。
「あの聖女目当てに立候補する男は多いらしいが、腕の立つ奴ばかりじゃないからふるい落とすのが大変みたいだぜ?」
「なるほど…………」
そもそも私には美人の基準が今一つ分からない。
見た目が綺麗なだけなら、恐らくシャリラも美人なのではないかと思うが、だからと言って付き合いたいとか、押し倒してしまいたいとか言う邪(よこしま)な感情は一切起こらない。あくまでも仕事仲間で友人である。
そして、キリは多分、本人が自虐的な発言を時たますることから、一般的に言う美人の枠からは外れていると推測される。
ただ、私にとっては人間として、というか女性としてとても話しやすいし、ふくよかな体は触り心地がいいし…………といっても二の腕と手しか触れてはいないが、柔らかな笑顔はこちらの心までほぐれてゆくような印象だ。
一緒にいると、穏やかな気持ちと少し穏やかではない感情が入り交じって複雑な心境になるが、決して不快ではなかった。
そして、彼女も読書家で、自分の世界にはこんな小説があってですね、と色んなジャンルの話を楽しそうに語ってくれた。
私が普段は見知らぬ男女と緊張してうまく話せないと言うと、そのままでは一生独身だとデートの練習台になると約束してくれた。
私よりものすごく年下だが、人生経験は私などよりはずっと積んでいるような気がする。
彼女が協力してくれるなら私も頑張ってもっと魔王として───
「だから話を聞けってんだよ」
頭をゴン、と殴られた。
「…………すまない。またぼーっとしていたか?」
私は申し訳なく思いながらジオンを見た。
「珍しいな心ここにあらずって感じだぞ?
腹でも減ったんだろ?また本ばっか読んでたんじゃないか?」
「まあまだのんびり出来そうですからご安心を、という報告だけですからね。…………でもそろそろお昼過ぎですし、キリのご飯を食べたいので食堂に行きませんか?」
シャリラの提案に頷き、3人で食堂に向かう。
「日本というところは、食い物に対する熱意がすごいよな。料理人でないキリでもあんなに美味いメシが作れるんだもんなぁ」
歩きながらジオンが呟く。
「隣国でレストランに入ったが、前ほど美味いと思わなかったもんなー」
「それは私も思いましたわ。前は何食べても美味しいと思ってましたけれど、今回は早く帰ってキリが作った美味しいモノを食べたいとばかり思ってましたし」
「城内のコックたちも『毎日新しい発見があって今料理をするのが楽しくてしょうがない』とか言ってたからな。キリも『独り暮らしの時と違っていい食材が使えてラッキーです』とか喜んでたしな。アイツはいい奴だ」
「あら、元からいい子でしたわよ?気が利くし、必要もないのにマメに働くし、本でスライムとかの人でない魔族の勉強も始めたみたいですわよ」
「ん?なんでだ?」
「ホワイトスライムの白ちゃんがよく働いてくれるし、お礼にクッキーとか上げてたけど体に問題はないのか、実はもっと好物があるのかとか。
他の色にはどんな仕事が出来るのかなんかも興味が出たらしいですわね。そこから別の種への興味も掻き立てられたみたいです。リアルファンタジーすごいわー、とかご機嫌でした」
「ファンタジーねえ。変わってるなキリも」
「『私に実は魔力があったりとか、こっちに来て急に魔法が使えるようになってたりとかしてませんか?』と以前聞かれた時に、それは全くないといったらかなり落ち込んでましたから。
元の世界にないモノへの憧れがあるんでしょうね。こちらの人間には普通のことでも、キリにはビックリする事が多いみたいですものね」
私は、話している2人の後ろを歩きながら耳をそばだてていた。
ないモノへの憧れか。
キリは私が魔法を使っているところを見せたら感心してくれるのだろうか。喜んでくれるだろうか。
次に外出する時に試してみるのもいいかも知れない。
こちらが世話になってばかりじゃ情けないしな。
私は人知れず頷くのだった。
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