第15話

「………良かった………」


 レルフィード様が本屋で本を選んでもらっている間に、パン屋のおばちゃんに聞いて下着を扱っているところを教えてもらい、貰っていたお金でブラやパンティー、着替えの寝間着等も購入できた。ようやく夜のノーパン生活ともオサラバである。

 いや、なんか言葉にするとエロいが、好きでノーパンだった訳ではない。



 ただ、魔族の女性は派手好きなのか、この店の商品は全ての柄がエキゾチック&アグレッシブなモノばかりなので閉口した。

 何が悲しくてこの体型でエロいすっけすけレースの勝負下着を着ないといかんのだ。


 アロハシャツみたいな極彩色の花柄のブラやパンティーも勇気はいるよなぁ、と悩んではみたものの、まだすけすけよりマシだと消去法で購入した。とりあえず今は身につけられるモノがあればそれでいい。


 今度シャリラさんに聞いて無地の下着を買おう。別の店を探索してレルフィード様を待たせてはいけないし。


 まあ、私のメイド服やユニ●ロもどきのシンプル上下にこんなグラビアアイドルみたいなド派手な下着が隠されているとは誰も思うまいが、見えてなくても気分的には落ち着かないしなあ。

 


 パン屋に戻り、お礼がてらと戻ってからのオヤツ用に、美味しそうなチーズがサイコロサイズでごろごろ入っているパンと一口サイズのドーナツを買って本屋の前に戻ったが、まだレルフィード様は出てきていなかった。


 暫く待っていたが、出てくる気配すらない。


 そろりと中を覗くと、何冊か本を抱えたレルフィード様が熱心に雑誌のようなものをめくっていた。


 本好きあるあるで、夢中になると時間を忘れるのは自分でも経験として知っている。


 まだかかりそうだなと思いながら棚を見てみると、不思議なことに書いてある文字は違うというのは分かるのだが、日本語で翻訳された状態で脳に入ってくる。理解できる。


 きっと書けと言われても無理だと思うが、会話が出来る位だ、文字が読めるのも転移サービスなのかも知れない。


 少しほおーー、と感心していたが、ハッと気づいた。おお!それなら私も休みの日に本を読めるではないか!

 服を買ったからと言って、休みの日にそんなに始終外に出たいと言う訳ではない。


 日本では週末の楽しみは小説と漫画とレンタルビデオの一気見、凝った料理やスイーツの制作だったぐらいである。

 考えてみたら、レルフィード様の引きこもりは責められる立場にはない。


 暫く鎮まっていた本好きの血が騒ぐ。


 少しばかり浮かれて、タイトルからファンタジーっぽいものや、この国の歴史を綴ったような分かりやすそうな子供向けの本などを何冊か選んでみた。大きな本屋なので見てないところは沢山ある。まだまだ興味は尽きないが、重くなるのでまた別の休みにしよう。


 会計を済ませてもまだレルフィード様は雑誌を読んでいた。


 好奇心から、何を読んでるのかなー、と背後から窺うと、


『男子力アップ~次に繋げるための爽やか会話術~』


 とかいう特集だった。


 努力をしようという意図は分かるが、いきなり無口な引きこもりがそんなものを読んですぐに身につく訳があるかーい。


「あの………レルフィード様」


 溜め息をついていたレルフィード様が、ビクッと肩を揺らして私の方を見た。


「あのですね、そういった内容は人によって全く役に立たない場合も多いのです。向き不向きというものがございますので。

 レルフィード様は、長寿で時間がいくらでもあるのですから、無理せずご自身に合わせて自然な成長を求めるのがよろしいかと」


「そ、そう、か。相性というものだな」


「左様でございます」


「読んでても自分が出来るとは思えないものばかりで、途方に暮れていた。デートに誘うために花を渡すとか、痒くなるような甘い台詞で女性を褒めまくれとか」


 ええそうでしょうねぇ、とは言えない。


「ひとつずつこなしていくうちに慣れると思います。ほら、今日は女性と手を繋ぐというミッションもクリア出来ましたし」



「………そう、だな。いきなり女性の扱いが上手くなるものでもないしな」


「では、そうと決まれば2つ目のミッション行きましょう」


「2つ目?」


「デートと言えば食事ありき、というのは基本です。町でどういうご飯があるのか興味があるので、よろしければお付き合い下さい」


 私はレルフィード様が会計を済ませるのを待ってそう告げた。


 いや、デートなんぞしたことはないから適当だが、あながち間違ってはいるまい。


 もう昼過ぎである。ご飯大事。

 まあ単に私のお腹が空いただけともいう。


「そうか、食事か。………しかし、殆んど食事を外でしたことがないので………」


 どこがいいのかとまた悩み出したレルフィード様に、


「それなら、適当に入ってみましょう。大丈夫です、こういうのは経験値を上げるためのチャレンジが大切なのです」


「分かった」


 レルフィード様が素直に頷くと、私の手の洋服や本の入った袋を自然に取って片手にまとめて持つと、右手を差し出した。


 あ、あーまだ手繋ぎは続行なのね。


「ありがとうございます」


「女性に荷物を持たせたままなど、男として許されないからな」


 なんだ、結構女性ゴコロを分かってるではないですか。

 

「レルフィード様、意外にモテモテになられる日は早いかも知れませんね」


 2人でのんびりと手を繋いで歩きながら、私は呟いた。


「………モテモテにはならなくてもいいが、普通に女性と接するようになれたら、嬉しい」


 少しはにかむように返すコワモテのイケメンは、何だか可愛らしくて頭を撫でたくなったのは内緒である。




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