第7話

「………え?レルフィード様の好きな食事、ですか?」



 ラッキースケベの翌日。

 


 厨房で話してるうちに打ち解けてきたコックさんたちに、まあちょっと不敬と言うか、かなり失礼な事をしてしまったたレルフィード様に、お詫びがてらお好みの料理でも作りたいと相談したが、皆さん一様に首を傾げた。



「レルフィード様は、好き嫌いがよく分からないのです」


 チーフが唸った。


「うーん………多分気に入ったんだろうな、と言うのは全部召し上がりますし、気に入らなかったとしても、残すと私たちに悪いと思ってるのか、全部召し上がられるのです」


「敢えて言うなら、食べ終えるスピードの違い位しか………」


 お城のコックなのに知らないとはこれ如何に。


「無口で物静かですしね。本ばかり読まれてますし、加えてあの魔力でしょう?

 気圧されて声をかけにくいのです」


「私たちを強く叱るようなこともない代わりに、余りご自身の希望を訴える事もないです」


「どうせならなるべく気に入った食事を召し上がって頂きたいのに、ジオン様のようにハッキリとアレコレ仰ることもないので、当たり障りのないものばかりに」


 あの魔力でしょう?って言われても。

 なーんも感じないけどな。

 魔族には分かるものなのかも知れない。

 私は魔力なんかないもんねえ。そかそか。


 やはり、魔王さまって位だから、とんでもなくお強い感じなんだろう。



 しかしレルフィード様、魔王ってやりたい放題とかじゃないんだろうか。

 ハッキリと意思を示さないってのは、上に立つ人間としてはちょっとどうかと思うぞ。


 謙譲の美徳ってのは国王が部下にやるもんでもないと思うのだが。


 え?それともシャイなのか?

 あの美形で軍人ばりのいい身体してて威圧感さえ漂うコワモテの美丈夫が。

 いやいや、まさかなー。



 それにしても、長いこと働いてる人が分からないのだ。新参ものの私ごときが味の好みなど分かる訳もない。


「でも、辛いのは好きなんですよね?一昨日のスープ2杯も飲んでましたし」


「お代わり、されたんですか?それはかなり珍しい………と言うか、私が勤めだして10年以上経ちますが、数回しかありません」


 それも、食事を3日ばかりし忘れるほど読書にのめり込んでた時位だそうだ。


 やはり辛いモノ好きなのか魔族。


「すると、やはり辛みが付けられるモノが良さげですね。コショウとか、赤い液体の香辛料でタバスコと言うのなんかはありますか?

 ついでにあれば仕入れて欲しいモノがあるのですが………」


「コショウもあるし、タバスコもあります。

 タバスコはなかなか使い道ないですよね?

 コショウなんかは炒め物したり、肉を焼く時に使いますけど………」


「………グラタンとかピザとかパスタとか使い放題じゃありませんか?」


「ピザ?グラタン?………パスタはありますが、ミートソースとかにかけるんですか?」


「え?かけないんですか?辛いモノ好きなのに?」


 野菜の皮むきや皿洗いなど、まだ下働きとして入って数年しか経ってないと言っていたお兄さんが、


「確かに大好きなんですけど、意外と保守的なんですよ。香辛料を使うのも、ほら、使いすぎると味が変わるし、辛すぎると食べられなくて食材を無駄にしてしまうでしょう?

 魔族は………えー、人間の国では何故かあまり好まれてないので、レストラン修業なんかも難しくてですね。

 料理についても、客としてコソっと行く分には問題ないので、調理してるところを盗み見たりとか、屋台で料理を出してる人の背後を木陰から眺めるとかしか出来ないので、あまりレパートリーと言うか、調理方法が増えないのもあるのです。冒険がしにくいんですよ」


 そんな有名な見ちゃった家政婦さんみたいな事をされてたんですね。


「それでですね、間近で人が料理をするのを見られるのも貴重なので、これから作られる際には、私とサブチーフがメモを取っても良いでしょうか?かなり料理のスキルもお持ちのようですので、大変勉強になるのです」


 どっかの鉄人みたいに言うのはやめて欲しいんだけどな。ただの料理が好きな一般人でございますよええ。


「そんなの幾らでもどうぞ。でも料理は店によって味が違うでしょう?

 ですからメモするのも作ってみるのもいいですけど、いずれはチーフの味、とかサブチーフの味、というのを追求した方が楽しいですよ」


「………出来ますでしょうかね?」


「え?当然じゃないですか。食べる側ではなく作る側の仕事をしてるのは、美味しいモノを食べたいだけじゃなく、誰かに食べて貰いたいからでしょう?」


「………ぐぅっ」


 チーフ以下全員が泣いた。

 なんでだ?!励ますつもりがなんでいじめたみたいに。


「あのっ、すみません、私何か失礼な事を?」


 私がおろおろしていると、チーフが手を振って、


「いえ、そんな優しい言葉を頂けるとは思わなかったので………だって、料理の味つけなどは料理人にとって秘中の秘と聞いておりますのに」



 そんな大袈裟なもんじゃねえっつーの。

 第一料理人じゃないし。



 このむっちりした身体を見て分からないのだろうか。


 単にご飯とスイーツ食べるのか好きな人なんだってば。

 ついでにファンタジー小説や映画なんかがお供にあれば最高だけどね。



 ………そうか。余り人間と接する機会がないんだもんね。せっかくだから、帰るまでにある程度教え込んでしまおうか。

 そうすれば、私が帰った後も、レルフィード様やジオンさん、シャリラさんは美味しいものがずっと食べられる、と。



 あーそれまでに皆さんの好物の傾向も探り出さないとねえ。

 辛いモノだけじゃレパートリーすぐ尽きちゃうし。そのためにはチーフたちにもっと前向きになって頂かないと。



「私は半年ほどで自分の国に帰る人間です。料理の腕も、正直いって国ではもっと上手い方が山のようにいるのです。

 ですがそこまで仰るならば、お世話になっている御礼に、帰るまでの間、私の秘中の秘である、ファジージャパニーズ料理を伝授致しましょう!

 みなさーん、美味しい料理を食べたいか~!」


「「「はっ、はい!!!」」」


「違います、そこは『おー!』でお願いします」


「「「おー!」」」


「食べてくれる仲間に喜んでもらいたいか~?」


「「「おーー!!」」」


「………分かりました。みなさんはこれから料理人モードの時には私の弟子です。

 頑張って付いてきて下さい。立派な料理人になって下さい。いや、なってもらいます!」


 何となくノリで言ってみたが、みんなキラキラした目で頷いていた。


 ………うむ。こちらではあるあるネタは全く通用しないことを忘れていたわ。誰にも突っ込まなれないのは我ながらかなり痛い。



 しゃあない。


 真面目にここを3つ星とは言わないまでも、町の人気レストランというレベルまで底上げしますか。




 その前に、レルフィード様のご飯、何にしようかなあ………うーん。






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