第4話

 不思議な事に、調味料などは普通に日本で使っていたモノが存在する。


 塩も砂糖も醤油も、ちょっと黒っぽいが味噌もある。

 ソースやケチャップまであるのだ。

 隣の国から仕入れているらしい。


 怖いので全部試しに舐めてみたが、思った通りの味で安心した。味噌は赤だしのようなものでクセはあるが中々美味しい。


 味つけに心配がなきゃこっちのものだわ。



 鍋にアサリを放り込み、海老も頭ごと、カニも贅沢にぶつ切りにして入れる。


 煮立ってくると、いい出汁の香りが辺りに漂う。魚介類って汁物の出汁に使うと、どうしてこうもポテンシャルが高いのだろう。


 エビやカニは頭の部分でいいエキスを出したら、食べづらいので引き上げて皮を剥いたりほじったりして身だけにして、最後に盛り付けの時に上からかけるため避けておく。


 ついでにアサリも出して、殻を取る。

 入れっぱなしだと身がパサつくので、これも最後に合わせるでいい。


 キノコや青菜も入れ、ニラもあったので刻んでパラパラっと。


 私は基本、食べるときに手が汚れるのが嫌いだから、殻や骨のある魚は全部取る。

 第一、食べにくいではないか。


 最初っから汚れる前提で食べるようなカニをホジホジして三杯酢で食べるとか海老の焼いたのを殻剥いてかじるとか、そういうのは諦めもつくのでいいのだが。



 タラのような白身魚やホタテも遠慮なく入れさせて頂く。

 独り暮らしでは経済的に難しかったし、拉致られた慰謝料みたいなもの、と言うことで許して貰おう。

 シャリラさんも食べるし。うん。



 味つけをして、唐辛子を刻んで入れる。

 結構辛めにした。好きそうだったからねシャリラさん。


 味見すると、私には少し辛さは物足りないが、出汁が出まくって自分史上最高に美味しいスンドゥブチゲ風スープである。


 ボウルに入っていた白いのが豆腐だったのはさっき確認したので、おたまで掬って大きめに入れる。



 よし、出来上がりっと。


 そして、アーモンドプードルを見つけてしまった私は、牛乳があるのも確認して、チゲ風スープを作る前に、手軽に甘さ控えめの杏仁豆腐をバットに作って冷蔵庫で冷やしておいた。


 本来ならアプリコットの種を粉末状にしたものを使うのがいいのだが、いきなりあるようなモノでもないし、テイストは似ているから良いだろう。


 大体アーモンドプードルだって、コックさんに聞いたら普段はないそうだが、クッキー生地に混ぜて焼いたら美味しいと聞いて試しに仕入れたらしい。


 クッキーぐらいは作るのね。


 でも、あまり複雑な料理は作ってない感じがするなあ。というより調理方法を余り知らないのかしらね。


 現に、お城の人たちの昼食の人出が落ち着いた辺りから、私の調理してるのをガン見してるもんねえ。


「キリ様、その………いい香りのするスープと、白い塊は何でしょうか?」


 細いマ●オみたいなちょび髭のコックさんが、杏仁豆腐を菱形に切っている私に話しかけてきた。


 厨房を仕切っていたので、日本だとホテルの総料理長みたいな方ではないかと思われる。

 こちらだと、チーフになるのかな?


 円満にこれからも厨房を使うためには仲良くしておくに越したことはない。


「これですか?白いのが杏仁豆腐というデザートでスープは………豆腐の辛いスープです」


 と笑顔で答えた。

 こっちでスンドゥブ風とかいっても大元が分からないだろう。杏仁豆腐は言い換えが思いつかなかったので、スイーツの固有名詞として覚えて貰おう。


「私の国の料理です。よかったら味見しますか?」


 厳密に言うと日本で食べられる日本人好みにアレンジした各国の料理ですけどね。


 コクコクと頷くチーフ(仮)に、


「ちょっと待ってて下さいね。彩りが寂しいのでオレンジを足しますから」


 オレンジの皮を剥いて1房つまむ。

 甘みの強いネーブルオレンジって感じね。

 ちょいちょいと包丁で切って菱形杏仁と混ぜて盛り付けた。


 スープも器に具を沢山入れて手渡す。


「デザートを先に食べるのは邪道なので、先にスープを。ちょっと辛いですので気をつけて」


「………ありがとうございます」


 恐る恐るスプーンで掬って口に含んだチーフ(仮)は、驚いた顔で、


「おお、ビリビリする辛さが美味い!」


 とがつがつ食べ出した。


「チーフ、僕らにも一口味見を………」


「ズルいですよ~」


 まあ味噌汁のお碗位の器だったので、チーフ(確定)は恐ろしい早さですぐ食べ終わってしまった。


「その、アンニンとか言うのも………頂いても?」


「え?ああ、どうぞ」


 ガラスの器に盛っていた杏仁豆腐を渡すと、そっと形を崩さないように口に入れ、


「おおお………何と言う爽やかな甘みとぷにぷにした食感………こんな食べ物があったのか………」


 大袈裟だなチーフ。

 部下の兄さんたちが何か泣きそうだよ。


 またしても自分独りで食べきった。

 メンタルが強いなー流石にチーフだ。


 私はなんだか申し訳ないような気になって、


「あの、これからシャリラ様に食べて頂くので、もし余ったら厨房の皆さんで試食して頂けますか?」


 お兄さんたちに声をかけた。


「はい!お待ちしてます!」


「本当にお待ちしてますねキリ様!」


 妙に圧をかけられている気がするが、シャリラさんに急いで持って行かないと。結構待たせてしまっている。



 チーフがホテルのルームサービスの人が使うようなコロコロ運ぶのを貸してくれたので、スープ鍋と杏仁豆腐、器やスプーンを乗せて教えてもらったばかりのシャリラさんの執務室へ向かう。


 執務室の前でノックをして声をかけると、


「待ってたわ!入ってちょうだい」


 とシャリラさんの声がしたので扉を開き中に入る。


「シャリラ様お待たせしました。チーフに味見して貰って大丈夫だとは思うのですが、もし苦手な感じでしたら遠慮なく………」


 こぼさないようトレイを見ながら入って視線を上げると、何でかレルフィード様とジオン様までがシャリラさんと一緒のテーブルの席に着いて私を待っていたのだった。




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