第3話 本当はわかってたんだ

わたしと向き合うと言ったものの、

なかなか頭の中がまとまらない。

書いては消して、書いては消して。


そんなことを考えながら通勤路のいつもの道を歩いていたら、フッと頭の中に言葉が浮かんだ。


「本当は、わたし知ってる。」

「わたしの声に気づいていたけど、その声に耳を塞いで違う方向に自ら進んでいったんだ。」


この言葉になんだかすごく納得した。

納得してしまった。


ぽっかりの理由…

いろんなモヤモヤの理由…

本当はどこでどう間違えたのか、

気づいてたし、知ってた。

節目節目で決断するとき、間違えた決断だと分かっていても、その当時はその感情を無視して、気持ちに蓋をして進めてきたんだ。


10年前結婚を決めた理由に、そもそもの原因があったんだ。


このときのわたしは、相手はともかく、とにかく結婚さえできれば、そのあとの幸せは勝手についてくると楽観的に考えていた。

たとえ相手のことをものすごく好きにならなくても、よほど受け入れられない何かがなければ、なんとなく好きになれていればいいかな、と。


でも現実はそう簡単で単純なものではなかったし、精神をバキバキに折られることになるなんて。

こうなるとわかっていたらな…と思うが、

時すでに遅し。


もう後戻りはできないし、そんな勇気もなく、この10年ずっと過ごしてきた。


誰のせいでもない、自分のせいだ。

他の誰でもない、わたしがわたしを苦しめてきた。


そもそも本当に”この人がいい“と心から精神的に深い部分で思って結婚を決めたのか。


答えは”NO”だ。



付き合っているときから、わたしの中にある「ここは」という重要な部分の価値観が合わないことに気づいていたし、彼がわたしを心から大事に思っていないと感じることも多かった。

(わたしも歪んだ理由で相手を選んだのだから、彼がわたしを大事に思わなくても当然か。)


これはわたしの推測で、彼の本音はわからないが、お互い上辺だけの薄っぺらい「好き」で付き合い始めたように思う。

心の底から好きになるのとは違う、それぞれ別の理由で需要と供給がかみ合いそうだから

付き合ったのではないかと思う。


そんな関係だからか、会話も少なく、一緒に過ごす時間は「退屈・つまらない」だった。

旅行に行っても、楽しむ価値観・楽しみ方が違うから全然楽しめなかった。


彼は生まれてからずっと実家暮らしだった。

そのこともあり、付き合いだしてわりとすぐに彼の両親と会う機会があり、彼の勧めで会うと必ずといっていいほど、実家で夕飯を共にすることになった。


このときすでに彼と両親の親子関係に何か違和感を感じたし、正直彼の両親への第一印象はよくなかった。

初対面のインスピレーションで、「なんか嫌な感じ」がした。

人だけでなく、その家から漂う雰囲気も。

なにかこう子どもが小さい頃のまま時間がずっと止まったままのような雰囲気。

家の匂いも埃っぽい古い建物の匂いがした。


後にこの直感が正しかったことを知ることになる。

やはり人の直感は大事だ。

自分の感覚は大事にしたほうがいい。


そこまでいろんな場面で違和感を感じていたのに、騙し騙し関係を続けたのは、当時30歳を間近に控え、わたしの中で焦りがあったから。


もうこの人にしがみつくしかない、でないと「30歳までに結婚できない。」と思い込んでいたから。


大袈裟にいうなら、もう相手がどんな人かなんて関係なくて「30歳までに結婚」が目的になってしまっていた。


だから、彼に嫌われないように、いろんな場面で出来る限り彼に合わせてきた。

無理に相手に合わせるのだから、わたしの心は我慢して、窮屈で、苦しかった。


当然だ。

自分に嘘をついて偽っていたのだから。


そんな思いをしてまで、わたしは「30歳までに結婚」することにこだわっていたんだ。


人間だれでも「あのときこうしていれば。」と後悔することがあると思う。


わたしにとって「結婚」がまさにそれだった。


あまりに人生に大きな変化、影響がある重大な決断を偽りのまま進めたのだ。


結婚はしてしまったら、何かあったとき、もう自分一人だけの問題ではなくなる。

夫・子ども・両親・義理の両親と、いろんな他者もついてまわる。


ここから「修行の日々」がはじまった。

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