ピザの名は。

ちびまるフォイ

宅配ピザたちが夢のあと

気がついたときには宅配ピザの箱は空っぽだった。

次はいつ自分なのかと待っていたが箱の外から手が伸びることはない。


「いつになったら俺は食べられるんだろう」


宅配ピザの箱の中でひとり考えていた。


「そんなに美味しくないトッピングだったんだろうか?」


誰しも好き嫌いはがあるので、苦手なトッピングがあったのかもしれない。

自分のトッピングが何だったかを確認したいが、自分の頭を見てトッピングを確認はできない。


「ああ、こんなときに他のピザ達がいればなぁ」


最初はいくつものピザ達が箱の中でひしめき合っていて騒がしかった。

その中央でみんなのトッピングを眺めることができた。


自分がどんなトッピングかはわからないが、自分以外なら確かめられた、

他のピザ切れたちが食べられる前に確認しておくんだった。


なにか自分のトッピングを知る方法はないものか。


「……なんて注文していたっけなぁ?」


それはまだ宅配ピザがお届けされる前のこと。

ピザ箱の中でデリバリーの電話の声が聞こえていたのを思い出す。


「たしか……"札付き主婦監修のよくばりマシマシクォーター"だったな」


注文を思い出したことでますますわからなくなった。


全部に同じトッピングされている1種のピザならよかったが、

複数のピザが合体しているので同じピザでもトッピングは一切れごとに違う。


ますます自分のトッピングを知る機会からは遠のいてしまった。


思い出されるのはにぎやかだったピザ箱での風景。

宅配の揺れを感じながら美味しく食べてもらえることを夢見た日々。


「はぁ……自分のトッピングの何がいけなかったんだろう」


その原因も知る方法はない。

けれど諦めきれなかった。


「そうだ。自分以外のピザを思い出せばなにか傾向がわかるかもしれない!」


自分が見た他のピザのトッピングを思い出す。

自分のトッピングを類推できるかもしれない。


「たしか、右側には照り焼きのチキンのピザがあったな。

 前にはチーズがたくさんのったピザ。左がシーフードのトッピング。

 後ろのピザは……思い出した! マルゲリータだ!」


ラインナップをなんとか思い出すことができた。

これで自分のトッピングを想像できるかと思ったがますます迷宮入りだった。


「肉系はあるし、シーフードもある。シンプルなマルゲリータもあるし……チーズもある。

 これに属していないジャンルのピザってなんだろう?」


人気のメニューは抑えられているし、ベーシックなものも含まれている。

このラインナップでカバーしきれていないカテゴリーがなにか。


「……まさか、フルーツ系!?」


酢豚にパイナップルを入れるように、ピザにも特殊な組み合わせが存在する。

自分は変わり種としてピザにフルーツをトッピングしたものかもしれない。


それなら自分だけが食べられずにいつまでもピザ箱の中に入っていることの説明がつく。

温かいフルーツに抵抗ある人はいる。


「最後に自分のトッピングがわかってよかった……」


たとえこのまま捨てられるとしても、なぜ食べられなかったかがわかっただけで幸せな人生だった。

そのとき、ピザ箱の外から声が聞こえた。



ーー Lサイズはやっぱり多いなぁ。これは残しておこう



ピザ箱の蓋が開けられて、頭上にまぶしい光が差し込んでくる。

食べきれなかったマルゲリータの一切れがピザ箱へと戻ってきた。


これは自分のトッピングを教えてもらえるまたとないチャンスだ。


「マルゲリータ、お前も食べられずに戻ってきたんだな」


「ああ、そうだ。パン生地は思った以上にお腹にたまるから」


「なあ教えてくれよ。自分はいったいどんなトッピングが乗っているんだ?」


「……どうしてそんなことを?」


「どうして自分だけ食べられずにピザ箱に残っているか知っておきたいんだ!」


「お前はずっと食べられることはないよ」


「どうしてそんなこと言うんだ! いくら不人気のトッピングでも、食べられる可能性はゼロじゃないだろ!」


マルゲリータは冷えたサラミでじっと見つめた。




「だってお前、ピザセーバーじゃん」


ピザの中央にある白いプラスチックの三脚は、そのとき初めて自分の名を知った。

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