第13話 死んだ彼女と前向きな少年

 ひとしきり泣いて、疲れたように、芝生のうえにバタッと倒れた優太くんは、ねえ、と声を向ける。


「お兄ちゃんはさ、その後どんな風に過ごしたの?」


「んー、そうだな。取り敢えず、普通に過ごしたよ」


 優太くんの横に同じように寝そべって、そう言葉を繋ぐと、そう言う答えが聞きたいんじゃないんだよとでも言いたげな目をされた。

 厳しいな……。


「……まあ、あんまり参考にして欲しくはないけどそんなに聞きたいのなら。

 基本的に親とはもう仲良くすることは出来なかった。それほど兄ちゃんの死はお母さんの心に大きな傷痕を残したし、お父さんも庇ってはくれたけど、その生活に限界を感じて俺は高校生の時から一人暮らしを始めたんだ」


 勿論たかが高校生にそんな資金はないから、仕送りは貰っている。

 お母さんもお父さんも、親としての責務としてそれだけはすると言って譲らなかったからだ。……まあ、ありがたい事ではあったけれど。

 お母さんには、年末に家へ帰るたびに、何度も病院で言ってしまったことを謝られた。

 俺はその時の言葉が何ら間違っていたとは思っていなくて、でもそれを言っても譲らないだろうから、もう終わったことだよと笑って受け流した。

 けれど俺にもお母さんにも、その頃にはもう修復不可能な溝はあって、お互いにそこには触れないようにしていた。


「高校は、まあまあの成績をとって、少ないけど仲のいい友達と楽しく過ごして、大学生でも同じように過ごして、彼女も出来て。

 未来ある子供にこんな事を言うのは忍びないけど、多分、普通に就職して普通の幸せな人生を歩むんだろうなって思ってたよ。劇的な出来事なんて特になくて、まああるとすれば光と付き合ったことくらいかな」 


「……結局のろけ?」


「君が聞いたんじゃんていうかどこで覚えてくるのそんな言葉!」


「でもあれだね。なんとなく、お兄ちゃんよりはイベントの多い人生を歩める気がするよ」


「ぉい」


 なんて言いづらい事をはっきりと言う小学生なのだろうか。

 鋼の精神を持つ俺でも傷つくぞ。


「でもそっか。うん。僕みたいな境遇でも、――――幸せに、過ごせるんだね」


 真っ直ぐに空を見上げて、優太くんは静かにそう呟く。

 その表情は、心なし晴れていて、出会った時よりは前を見る事が出来ていて、少しでも助けになれたのかなと、心が温かくなった。


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