第8話 死んだ彼女と家族の気持ち
ガチャリいう音と共に、扉が閉まる。
彼が去った後の空間を少し見つめて、ひとつため息をつく。
「子供にこんなことを任せて、ダメな大人ね」
けれど光が見込んだ男の子なのだから、何かしらをやってくれるんじゃないかっていう期待感が無いといえば嘘になる。これでも多くの人間を見てきて、色んな人のカタチを知っているつもりで、その点から見た彼は信用に足る人物だった。
そういえば彼からは随分、光の空気感というか、光の存在を感じた気がする。まあ、私が光を失った悲しさから来る錯覚か、そもそも光と一緒にいて感化されたのか、そういう可能性を上げればキリがないのだけど、どうにもそういう事ではないような気がするのだ。
「なーんて。歳をとったのかしらね、私も」
……話している中で少しだけ、彼に関して気になるところが一つあった。
それは光から聴いていたことではなかったけど、あの光がそんな事に気付いていないという事もないだろう。
「今ではもう知る術は無いけど、あの子は何を考えていたのかしらね」
◆
「随分デレデレしてましたね」
部屋を出て、優太君がいるというリハビリA棟に向かいながら歩いていると、今までだんまりを決め込んでいた光は、開口一番、そう言った。
「……いや、別にしてないが」
「しーーてーーたーー」
「というかそんなことより」
そんなことっ⁉︎と、光が今にも噛みつきそうな表情をしていたが、ステイステイと諭しながら話を続ける。
「なんでずっとだんまり決め込んでたんだ?」
がるると唸っていた光は、きょとんとして歩みを止める。獣かお前は。
「うーん。そうだなぁ」
そういって親指と人差し指を顎に当てながら考え込むように目を瞑る。
こういう動作を細かく見てみると、ほんとに親類なんだなぁと、腑に落ちる。……ある時から俺はあまり家族というものと深く接してこなかったから、こういうふとした時に家族と分かるというのは少し羨ましいなと、柄にも無いことを考えてしまった。
「叔母さんってさあ、勘が異常に良いんだよね」
物思いに耽っていると、光はそう切り出す。
「あの歳で病院の院長なんてしてるからだと思うんだけど、色んな人間と知り合って、色んな事があったらしくて。隠し事とかがあの人に通用した試しがないんだ。だから私が話す時に指示とか出しちゃうとボロが出るかなって」
「いやまずこの状態で気づける訳無い……とも言い難いんだよな。あの人」
実際に少し怪しい場面はあったし。
「だとしても、別にボロが出る分にはいいんじゃないか?叔母さんに気づいて貰えるわけだし」
「……それは駄目だよ。私の事を知ったら、────叔母さんは私を助けようとしちゃうから」
「……っ」
光はそう言うと俺の手を取り「ひとまず行こっ」と歩き出した。
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