36.三成さんは小早川役です。

「アップ、アップ! えーん。押すなって言ったのに、ひどいしん!」


 わたしが、通康みちやす役やると、武吉たけよし役の小早川こばやかわさんが言いました。


「うるせぇ! 押すなと言われたら、それは押すってことだろうが! 海賊なめんじゃねえ!」


「アップ、アップ! お、溺れるしん、助けて欲しいしん!」


 わたしは、通康みちやすさん役になって溺れる演技しながら、さっき蹴り飛ばされた三成みつなりさんの目を見ながら言いました。


「あ! そこのお侍さん、助けて欲しいしん! その船に乗せて欲しいしん!」


 わたしはキョトンとしている三成みつなりさん見て「(カン悪い・・・)」思いながら、三成みつなりさんに抱きつきました。


「ああ! お侍さん、ありがとうだしん! ありがとうだしん!」


 そしてキョトンとしている三成みつなりさんの耳元で「(小早川こばやかわ役、やってください!)」と、ささやきました。


 ようやく状況を理解してくれた三成みつなりさんは、コクンとうなづいて、小早川こばやかわ役をやり始めました。


「(ニヤニヤ)良かろう!

 (ニヤニヤ)では、誓うが良い!

 (ニヤニヤ)この小早川こばやかわ隆景たかかげに、永劫の忠誠を誓うのじゃぁあああ!」


「誓うしん! 誓うしん! 小早川こばやかわ様に忠誠を誓うしん!」


 小早川こばやかわ役の三成みつなりさんは、わたしに手を差し出しました。わたしは、手をギュッと握って、息を切らしながら、


「はぁ、はぁ、助かったしん!」


と、言いました。


 すると、武吉たけよし役の小早川こばやかわさんが、小早川こばやかわ役の三成みつなりさん見て、大袈裟に驚きました。


「ま、まさか! そこの笑顔が素敵なお侍さんは、小早川こばやかわ隆景たかかげ様!? てっきり海の藻屑もくずになられたかと・・・聞いてないよー!」


 笑顔が素敵言われた小早川こばやかわ役の三成みつなりさんは、これ以上ない、ニヤニヤした顔して言いました。


「(ニヤニヤ)いかにも!

 (ニヤニヤ)我こそが、天下一の恥知らず!

 (ニヤニヤ)地獄の閻魔エンマ恥運ちうんで逃げ出す!

 (ニヤニヤ)小早川あ!こばやかわ隆景たかーーかげであーーーる!

 (ニヤニヤ)頭が高〜い! 控えおろう!」


「ははーーーー!」


 武吉たけよし役の小早川こばやかわさんが土下座をすると、


「こうして、村上海賊衆を、毛利配下に取り込んだのでございます」


と、キレイにオチを言いました。


 大阪城の大広間は、拍手に包まれました。

 小早川こばやかわ役の三成みつなりさんは、満足そうに両手を胸のトコくらいまで上げて、「まあまあ」ってジェスチャーを入れました。


 拍手が「ピタッ」と鳴り止むと、さっきまで武吉たけよし役で土下座していたホンモノの小早川こばやかわさんが、三成みつなりさんを思いっっっきり蹴り飛ばしました。


 三成みつなりさんは派手にぶっ倒れると、畳の上を「ツィー」ってスベって行きました。


 三成みつなりさんを蹴飛ばした小早川こばやかわさんは、めっちゃ威厳ある声で言いました。


「調子に乗りすぎだ! 隆景たかかげ! お前の悪いクセだ!!」


 これは・・・小早川こばやかわさんのお父さん・・・かな?

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