10.その名医、アホやん。

「さっきから、それがしの話を邪魔しておるのは、あなたがたであろう!」


 三成みつなりさんは、大きな声でツッコミ返すと、「おほん!」とせきばらいをして話始めました。


「その昔、河内かわちの国にちんという剣術けんじゅつの手練れがおりました。ある日、ちんの道場に一人の浪人ろうにんが現れました。

『頼もう! 我はと申す。貴殿の剣術けんじゅつの腕前、我が大和やまと国にも聞こえたり!』」


「ほらみろ、やっぱり、ちんだよ。」


 小早川こばやかわさんが、ニヤニヤしながらチャチャを入れました。


 三成みつなりさんは、大きく目を見開いて小早川こばやかわさんをニラミつけると、とっとと話を続けます。


「『良かろう! の名声、我が河内かわち国にも聞こえたり、いざ尋常に勝負!』」


 小早川こばやかわさんは、声を出さずに「こっわ・・・」って口を動かしておどけています。うん、三成みつなりさん、ええ感じや思います。


河内かわちちんは上段に振りかぶる火の構え、対する大和やまとは、刃先を後ろに倒した金の構え。

 剣の鋭さ互角! 太刀たち筋の力強さ互角! しからば互いの切っ先は交わることなく、互いの足を切り落とすにてそうろう!」


「こっわ!」


 わたしは、思わず声をあげてしまいました。背筋がゾワゾワってしました。笑おう思うてニコニコ準備してたのに・・・三成みつなりさんめっちゃ物騒な話ぶっこんできました。


 三成みつなりさんは、叫び声をあげた、わたしを満足そうに見ながら話を続けました。


「ソロリちゃん、安心めされよ。

 ちょうどその時、その名、天下にとどろく名医が客人きゃくじんとして河内のちんの道場に招かれておりました。名医は目にもとまらぬ早技で、ちんの足を縫合ほうごういたしました」


「めっちゃスゴイ!」


 わたしは、思わず声をあげてしまいました・・・三成みつなりさん、めっちゃ満足そう。


「・・・ですが、その名医、あまりに慌てたゆえ、大きな誤りを犯しておりました。互いの足を、互い違いに縫合ほうごうしたのです。結果、ちんの足は長くなり、の足は短くなり、互いに足を引きずって歩くようになりました・・・これぞ『ちんば』の由来にてございます」


「アホやん! その名医、めっちゃアホやん!」


 大阪城の広間は笑いにつつまれました。アホの名医の話で、笑いにつつまれました。

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