『秀吉豊臣のすべらない話』すべると打ち首獄門やて。

03.こいつ何言ってるかわからん。

　わたしはアイドルなんやけど、たまにバラエティのひな壇（だん）にすわらしてもらいます。

　最初（さいしょ）にひな壇（だん）にすわらせてもらったときは、「おもろいこと言おう」と思（おも）っていました。

　でも、「おもろいこと言（い）おう」と思（おも）えば思（おも）うほど、観客（かんきゃく）は無表情（むひょうじょう）になってました。お笑（わら）いコワイ。と思（おも）いました。

　お笑（わら）いは頭（あたま）がよくないとできません。わたしは、頭（あたま）がよくないことに、けっこう自信（じしん）がある方なので、「お笑（わら）い向（む）いてない」と、思（おも）いました。

　でも、ある日（ひ）、

「君（きみ）は、『こいつ何（なに）言（い）ってるかわからん』って感（かん）じがオモロイ」

と言（い）われました。

　そう言（い）われたのはクイズ番組（ばんぐみ）の収録（しゅうろく）のあとです。クイズは、とても難（むず）しくて、わたしは散々（さんざん）でした。一問（いちもん）も当（あ）たりませんでした。

　ふつう、「トリニクが何（なに）でできているか？」とか、考（かん）えます？　ムズイわ。

　一問（いちもん）も、答（こた）えることができんかったわたしは、「こいつバカだなー」と言（い）われました。まあ、事実（じじつ）だし、「しゃあないな」と思（おも）って、ニコニコしていました。

　でも、

「君（きみ）は、『こいつ何言（なにい）ってるかわからん』って感（かん）じがおもろい」

と、ほめてもらえました。

　ほめてくれたんは、声（こえ）がしぶくて大喜利（おおぎり）が上手（うまく）くて、運動神経悪（うんどうしんけいわる）い芸人（げいにん）さんです。

　バラエティ番組（ばんぐみ）の収録（しゅうろく）が終（お）わった後（あと）、声（こえ）がしぶくて大喜利（おおぎり）が上手（うま）くて運動神経悪（うんどうしんけいわる）い芸人（げいにん）さんが、わたしに質問（しつもん）してきました。

「どうやったら、そんなオモロイ回答（かいとう）できるん？」

「べつに・・・思（おも）ってること書（か）いて、それを説明（せつめい）してるだけです」

　そう答（こた）えたら、声（こえ）がしぶくて大喜利（おおぎり）が上手（うま）い芸人（げいにん）さんは、いきなりウデを組（く）んで、クビをひねりながら考（かん）え始（はじ）めました。

　そして、しばらくたって、

「なるほどなぁ」

と、しみじみ言いました。

　意味（いみ）わからん。

　大喜利（おおぎり）が得意（とくい）な芸人（げいにん）さんの言（い）うことは意味（いみ）わからん。

「君（きみ）は、自分（じぶん）の思（おも）ったことを、ゆっくりしゃべるとおもろいタイプやわ」

　意味（いみ）わからん。

　運動神経悪（うんどうしんけいわる）い芸人（げいにん）さんの言（い）うことは意味（いみ）わからん。

　意味（いみ）わからん過（す）ぎてニコニコしてると、運動神経悪（うんどうしんけいわる）い芸人（げいにん）さんは、わかりやすう説明（せつめい）してくれました。

「なんて説明（せつめい）すればいいかなぁ・・・あ！　そうそう、ほら、あるやろ、『ソロリ、ソロリ』っちゅうモノマネのネタ」

「ああ、『あむあむ』カキ食（た）べるやつ」

「そうそう、あれ、めっちゃ、ゆっくりやけど、おもろいやろ」

「確（たし）かにおもろいです！　めっちゃ、ゆっくりやけど、めっちゃオモロイです・・・でも、わたしは、有名（ゆうめい）な美容師（びようし）さんのモノマネの方（ほう）が、めっちゃオモロイです」

「どんだけ〜！

　・・・いやいや！　僕（ぼく）が言（い）いたいのは、『どんだけ〜！』やなくて、君（きみ）の話（はなし）は、ゆっくりしゃべった方（ほう）がおもろいってこと。空気（くうき）をよまんで、自分（じぶん）の思（おも）ったことを、ソロリとしゃべる」

「はぁ・・・」

「そしたら君（きみ）は、バラエティにひっぱダコになる」

「はぁ・・・」

　ちょっとなにいってるか、わからんかったけど、わたしは運動神経悪（うんどうしんけいわる）い芸人（げいにん）さんに言（い）われたとおり、「ソロリ、ソロリ」のネタしてる芸人（げいにん）さんを頭（あたま）に浮（う）かべてから、しゃべるようになりました。

　結果（けっか）、めっちゃ効果（こうか）ありました。わたしは、ゆっくり、ゆっくり考えて「ソロリとしゃべる」と、めっちゃすべらなくなりました。

「こいつ何言（なにい）ってるかわからん」

と、めっちゃ、ほめてもらえるようにりました。