「バナナですべってタイムスリップした話」

　わたしは、アイドルなんやけど、お笑（わら）い好（す）きです。あと猫（ねこ）好（ず）きです。

　アイドルなんで、もちろんアイドル好（ず）きなんやけど、お笑（わら）いも好（す）きです。猫（ねこ）も好（す）きです。割合（わりあい）でいうたら、28対（たい）32対（たい）31くらいです。

　中学（ちゅうがく）んときは、ようお笑（わら）いライブを見（み）に行（い）っていました。お笑（わら）いの養成所（ようせいじょ）に入（はい）って、芸人（げいにん）さんになろうと思（おも）っていたこともあります。

　結果（けっか）、アイドルにならせてもらったんで、お笑（わら）い芸人（げいにん）さんにはならなかったんですけど、お笑（わら）い芸人（げいにん）さんにずっとあこがれています。

　実（じつ）は、去年（きょねん）、お笑（わら）いの賞（しょう）レースに参加（さんか）したこともあります。

　ピン芸人（げいにん）さんのコンテストだったんですけど、あの時（とき）の怖（こわ）さは今（いま）でもはっきりとおぼえています。

　ネタをやるわたしを、お客（きゃく）さんはずっと無表情（むひょうじょう）で見（み）ていました。

　わたしは、アイドルをやらしてもらってるので、人（ひと）から見（み）られるのにはけっこう慣（な）れています。

　カワイイと思（おも）って見（み）られるんは、やっぱり嬉（うれ）しいです。あと、ふとももをイヤラしく見（み）られることもあるんですが、そういう服（ふく）を着（き）てるし、まあ、「しゃあないな」とおもいます。

　こいつ、バカやなーと見（み）られたりすることもあります。でも、まあ、事実（じじつ）だし、「しゃあないな」と思います。

　たまに、同（おな）じチームの人から、嫉妬（しっと）の目（め）で見（み）られることさえあります。悲（かな）しいけど、でも、そういう仕事（しごと）だし、まあ、「しゃあないな」とおもいます。

　「しゃあないな」と思（おも）った時（とき）、わたしはニコニコしています。

　「笑（わら）ってたらどうにかなるかな」と思（おも）っています。実際（じっさい）、いままで結構（けっこう）どうにかなっています。

　でも、お笑（わら）いの賞（しょう）レースでネタをやった時（とき）は、どうにもなりませんでした。

　ネタがスベリにすべって、無表情（むひょうじょう）になったお客（きょく）さんの目（め）は、とても怖（こわ）かったです。「笑（わら）ってたらどうにかなるかな」と思（おも）ってニコニコしても、お客（きゃく）さんは、ずっと無表情（むひょうじょう）のままでした。

　お笑（わら）いコワイ。と思（おも）いました。

　だれも笑（わら）わなかったのに、なんでか、わたしは三回戦（さんかいせん）まで進出（しんしゅつ）しました。

　でも、三回（さんかい）ネタをやって、三回（さんかい）とも、だれも笑（わら）いませんでした。

　ほんま、お笑（わら）いコワイ。と思（おも）いました。

　もう、二度（にど）と出演（しゅつえん）したくないと思（おも）いました。

　大会（たいかい）とおんなじ名前（なまえ）の赤（あか）くてちぃちゃくて高（たか）いドリンクも、嫌（きら）いになりました。

　お笑（わら）い芸人（げいにん）さんは、ホンマすごい人（ひと）です。

　でも、最近（さいきん）、そんなすごいお笑（わら）い芸人（げいにん）さんに、ほめられるようになりました。

　「こいつ何言（なにい）ってるかわからん」

と、ほめられるようになりました。

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