2話

 繰り返しになるが、僕は、朝ごはんを家で食べない。


 この先の曲がり角の先で、みどりとぶつかれば食パンをゲットできるからだ。


「ゴチん!」


 頭と頭がぶつかる鈍い音と一緒に、呑気な声が聞こえる。


「おはよう! うん、今日も無事にパンが増えた」


 幼なじみのみどりが、頭をさすりながら僕にパンを渡す。



 ただ、今日はちょっとした違いがあった。パン以外にちょっとした「オマケ」がついてきた。


 その「オマケ」は今、僕の制服のズボンのポケットに入っている。


 ぼくは、ポケットに手を忍ばせた。「オマケ」は、四角くて、ちょっと硬い紙のように感じる。封筒だろうか?


だけと、今は絶対に確認できない。絶対にみどりに知られてはならない。



 「オマケ」が増えたのは、今回で3回目だ。


 最初に「オマケ」が増えたのは、小学校5年の時だ。


 「オマケ」は、ズボンのポケットに入っていた。最初はハンカチかと思った。でも、それは下着だった。ブラジャーだった。


 確かあの時も、僕はうっかり頭を下げてしまっていた気がする。その時の僕は、頭を下げる必要がなかった。むしろ、背筋をピンと限界まで伸ばして歩く必要があった。


 ちなみに小学5年生の時、みどりの胸とぶつかったとき、僕の頭と心は、特に何も感じなかった。


 パンが3つになったのは、小学5年生の時とはあきらかに違った、やわらかな感触を、僕の頭と心が感じてしまったせいなのだろう。



 2回目に「オマケ」が増えたのは、小学高6年の時だ。


 「オマケ」は、やっぱりズボンのポケットに入っていた。最初、僕はそれはポケットティッシュだとおもった。でも、それは、ティッシュじゃなかった。生理用のナプキンだった。


 家に帰ってズボンのポケットから出した時、手が震えて、血の気がひいていったのを強烈に覚えている。みどりが、自分とは違う、遠い存在になっていくような気がしたからだ。


 この時僕は、みどりが消えてしまうのではないかと思った。幸い、取り越し苦労だったのだけれども。



 僕は、ふたつの「オマケ」を、鍵がかかる机の中に厳重に隠している。


 みどりにはモチロン。親にも絶対に知られたくない秘密だ。もし知られてしまったら、言い訳のしようがない。「オマケ」が見つかることは、すなわち、僕の人生の終焉を意味する。


 だけど、僕はそんな爆弾みたいに物騒な「オマケ」を、捨てられないでいる。怖くて捨てられないでいる。捨ててしまうと、みどりも一緒に消えて無くなってしまいそうだからだ。



 今日ついてきた、3度目の「オマケ」も、みどりには一切告げることなく、学校からすみやかに家に帰り、自分の部屋に鍵をかけて、絶対に、確実に、完璧に、誰にも見られない状態を確保してから、ズボンのポケットから出した。



 とりだした「オマケ」は、やっぱり封筒だった。「オマケ」はラブレターだった。


 宛名には、クラスメイトの前田湊人まえだみなととあった。


 中学から友達になった、バスケ部のイケてるやつだった。

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