第5話 晶

 聡太は続ける。


「———晶の時もだった。

 彼は誠実で真面目で優しい人間だった。無闇に人を傷つけることに怒り、哀しむ男で、僕も君も彼から多くのことを学んだと思う」


 明子がゆっくりと頷く。


「彼は入社先でパワハラを受けらしい。

 先々週頃、晶から連絡が来たよ。

 酷いものだった。あからさまな差別、言葉の暴力、無意味な拘束時間。然るべきところに行けば罰は免れないようなものばかりだった。

 だけど、あいつは一人でその責を抱え込んでいた。自らの非を探し、人を憎まないように努めていた。

 その結果が、あの疲れ果てた声と電波越しに聞こえる涙だった。

 ———晶は人一倍繊細なくせに優しすぎたんだ。もっと暖かい場所が晶には必要だった……。

 あいつは、「死にたい」って一言呟いて、後はひたすら「ごめん」を繰り返した。

 なのに、僕は、何も言わなかった。

 言えなかったんじゃない、言わなかったんだ。

 頭に彼を助ける言葉を浮かばせながら、口に出さなかった。

 晶はきっと、僕にあの社会を否定して欲しかったんだ……あいつは優しすぎるから、あいつ自身で否定できないから、僕の手を借りようとしたんだ……

 僕はそれを知りつつ、助けを求める手を退けた……卑怯者、臆病、不義理」


 涙が枯れ、視界が明らかになると、向かい席に明子の姿はなかった。その代わりとして眼前にいたのは、聡太が心から慕う恩師だった。

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