一門衆
天正九年二月 安土城
その後、新五郎と談笑していると一門衆への使いが戻ってきた。一門衆の反応は概ね好評みたいで、準備が整い次第、親父の広間で執り行う事が決定した。
はぁ、やっと話しが進んだか、新五郎も、準備があるってどっか行っちゃったし暇だなぁ。ここは、今後の方針とか考えてみるかな。
俺が読んでたラノベなんかだと、大抵の主人公は知識チートとか内政チートとかやってたけど……俺、そういうの全然分からないんだよなぁ。あれだろ? 椎茸とかお酒とか作るんだろ? んで、お金ガッポガッポ〜と。
うわーもっとちゃんと読んどけば良かったよ! 不幸中の幸いだったのは、織田家がそんなの気にならない程お金持ちだった事だなぁ。
んでも、問題は戦術だよな。戦国時代真っ只中で、戦もせずに生涯を終えることはないだろう。ましてや、数年後にターニングポイントが控えているのだ。死にたくなければ戦わねば!
っても、都合のいい奇策とか知らんし、もう数で圧殺戦法しかないかな! 数は力である!……いや、こんなん超脳筋戦法だから新五郎に怒られそうだな。ちゃんと考えるか。
そうだなぁ。確か、爺さんが武田との戦いで鉄砲三段撃ちしたんだっけ? それなら孫の俺は大砲しかないでしょ! この時代あったっけ? まぁヨーロッパならあるだろうし、大阪なら貿易してるでしょ。後で爺さんに相談してみよっかな。
後は、地道に勉強するしかないか。孔明とかの書物探せばあったかな? んー織田家だしあるだろ。それか、もう諦めて軍師見つけるしか無いかな。でも知ってるの竹中半兵衛だけだし、それ秀吉のだろ? 家臣を奪ったら恨まれそうだしなぁ。うん、新五郎でいっか。ごめんね新五郎、いつか武官も文官も増やすからそれまで頑張って!
そういえば、秀吉ってどうやって天下統一したんだ? 明智倒して、清須会議で俺を担いで、柴田倒して……次どうしたんだ? 最後が北条なのは知ってるけど中間がまったく分からん。毛利か上杉攻めたのかな? それとも四国? 俺だって天下統一を目指すなら、ちゃんとその先の展望を考えなきゃ駄目だよな。
……いや、そんな優秀な男が家臣になるって思えば――ハッ! 駄目だ駄目だ、そんな甘ったれた考えだと秒で傀儡にされる。ちゃんと、主君だって認めさせなきゃ駄目だ!
ってか、よくよく考えれば秀吉って本能寺の変黒幕説あったじゃん! ……し、信用できねぇー!
なんだっけ、中国大返しが速すぎるとか高校の先生が言ってたような? 現に、史実の俺って元服したら織田秀信になるじゃん? 織田家って「信」を通字にしてるって新五郎が言ってたけど、この通字が名前を決める上で重要なんだとか。史実では元服する時、俺を担いだくらいだから秀吉が烏帽子親をしたんだろ。昔は烏帽子親から字を一つ与える事で主従関係の証にしたらしいし、「信」より前に「秀」がきてるのはちょっと秀吉さんを疑ってしまいますわなぁ。
はぁ……、秀吉を抑えるにはどうすれば良いのかな? やっぱ家康かな? でも、コイツの方が信用出来ないし、黒幕説どころか内心真っ黒だろ。確か大河で秀吉が死ぬ間際に家康に息子を任せてたけど、その後普通に滅ぼしたからな。
俺の周り敵ばっかじゃん! しかも、爺さんと同レベル帯とかそれなんて無理ゲー? はぁ……コツコツ家臣達の信頼を獲得していくのが一番か。
***
そんなこんなで時が経ち、ようやく準備が整ったと使者が伝えに来てくれた。松に抱えられながら親父の広間に着くと、俺は親父の横へ通された。既に一門衆は揃っているみたいで、俺の提案通り横一列で平服している。
……いや、よく見れば中央の二人だけ少し前に出てるな。この二人が信意と信孝か。いやはや、めっちゃ火花散らしてるし、これじゃあライバルってより怨敵じゃないか!? なんとか軌道修正しないとお家騒動になりそうだ。
「面をあげよ、一同よく集まってくれた。今年も織田家の為に尽力せよ」
『ははっ! 』
「うむ。お主らに紹介しよう、我が嫡男三法師じゃ。皆よしなに頼むぞ」
「叔父上方、お初にお目にかかります。私、三法師にございます。本年も、父共々皆様のお支えを頼りにしております」
身内と言えども、初対面の相手だし長らく織田家に尽力してくださった方々だ。ちゃんと礼を尽くさないとな。親しい仲にも礼儀ありってやつだ。
「これはご、丁寧に感謝致しまする。某は三介信意と申します、今後共よしなにお願い致しまする」
「某は、三七信孝でございまする。三法師のお噂はお聞きしておりました。なんでも岐阜の神童だとか。お会いできて光栄でございまする」
二人の挨拶を皮切りに次々と一門衆が挨拶してくるけど、正直覚えられないかも。……いや、だって十人以上いるし「信」ばっかだしなぁ。これから、ちょっとずつ覚えていこ。とりあえず、先の2人はちゃんと覚えたから大丈夫だろ。
その後は特に問題もなく一門衆と談笑して行ったが、やはり少し空気が悪い。皆、叔父二人の様子を探っている。……はぁ、仕方ない。どの道信孝と信意の仲をどうにかしなきゃいけないし、ここは俺から突っ込むか。
「叔父上方は、いつもそのようにいがみ合っておられるのか? 」
『!? 』
「い、いや……そんなことは」
「う、うむ」
あまりにも直球ストレート過ぎる質問に、二人共動揺しているのか話し方もしどろもどろになっていた。
「……叔父上方の間に何があったのかは分かりませぬ。されど、私は仲良くして欲しいと願っております。父上も、お爺様もでございます。吉川と小早川のように、互いを認め高め合う存在へと」
「父上が……」
「兄者も……か」
俯く二人。その際、僅かに双方視線を交じわせていた。
これは新五郎に聞いたんだけど、二人共名門の家に養子に出されているんだって。多分、爺さんも毛利両川みたいになって欲しいって願ったんじゃないかな? 怨敵じゃなくて、切磋琢磨するライバル同士になって親父を支えてくれたら……て。もし、兄弟三人が手を取り合う未来が訪れたなら、きっと本能寺の変が起こっても織田家は潰れる事はないだろう。
「そうじゃな。神戸家と北畠家の当主として、俺と三法師を支えることを父上も期待しておろう。お互い思うこともあるだろうが、これを機に関係改善をして貰いたい」
『…………兄上が言うのであれば、そのように』
親父の言葉に、不承不承ながら二人共頷いてくれた。おかげで、広間の空気も多少和らいだようだ。
直ぐに仲良くするのは難しいかも知れないけど、ちょっとずつ仲良くして欲しいな。だって、俺達家族なんだもん。殺し合いなんてしたくないし、見たくもないよ。
***
それから数時間後、一門衆へのお披露目は無事に終了した。ふぅ……、やっと終わったか。あぁ、疲れたー! 皆、ひっきりなしに話しかけて来るもんだから、全然休めなかったしさぁ。まぁ、仲良く出来たから良かったけどね。
「三法師、信孝と信意が仲違いしていることよく分かったな?」
「はい。事前に新五郎から教わっていましたし、何よりも一門衆の方々が叔父上達の動向を伺っておりましたから。なんとなく察したつきましたよ」
実際、隣にいた信包叔父さんと長益叔父さんは、めっちゃ胃が痛そうにしてたしな。正直、見てて可哀想だったよ。
「……そうか、三法師はよく見ておるな、偉いぞ。二人共、織田家への忠誠は間違いないのだが、いかんせん昔から仲が悪かったからの。いつか、織田家に不和をもたらすのでは無いかと気が気ではなかった。二人共、俺にとっては大切な弟じゃ。これを機に、毛利両川のようになって貰いたいのぅ」
しみじみと語る親父。そうか、一応危険視されてたんだ……。もしかしたら、二人は討伐されていたかも知れない。親父も、心配だったんだな。
「きっと大丈夫ですよ。二人共、悪いお人ではありませぬ。父上の心遣い、きっと分かってくれましょう」
「……うむ、そうじゃの。さて、そろそろ夕餉じゃ。三法師も、此処に居るが良い」
親父は柔らかく微笑むと、そう言って頭を撫でてくれた。心配事が一つ解決したからか、どこかスッキリとした顔をしていた。
さてと、これで一門衆との会談も無事終わったし、明日からは家臣達にも会えるだろう。後で、新五郎に確認しとかないとな。うん、明日が楽しみだ!
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