世界線α (after story)
11月18日(木) 7:35。
一樹は大きく欠伸をしながら朝食をとるべく席へ着いた。
昨日、夜遅くまで小説の続きを読んだせいで寝不足だ。しかし1日で読み切ることのできた小説がとても面白い作品で大満足いくものだった。
一樹は朝食のトーストを手に取った。そんな中、対面に座る父親がテレビを見ながら「ん?」と眉をひそめていた。
『17日の18時頃、A市の住宅地にて2人組の男を銃刀法違反疑いで現行犯逮捕しました。2人は株式会社MSCの社員で同社は昨日から取締役をはじめ役員達が行方が不明になっているとのことで県警は事件との因果関係を調べています。同社加盟店のスーパーやドラッグストアは本日から事業を停止するとの発表をしております。──』
ニュースの女性アナウンサーが聞き取りやすい口調で読み上げた。
「やだ今日丁度、行こうと思っていたんだけど……何だか怖いわねぇ」
一樹の目の前にコーヒーを置いた母親が不安げな声を漏らす。
確かに大企業が『銃刀法違反』、『役員達の行方不明』としてニュースに取り上げられたら何があったのかと疑問に思ってしまう。
だが、事件についてなにも接点を持っていない一樹にとってふぅんという他人事程度のニュースだった。
「……あ、そろそろ行かねぇと」
テレビ左上に『7:45』という現在時刻を確認して席を立った。母親はその様子を見て首を傾げた。
「あら今日は早いのね?」
「昨日、千里から今日一緒に登校したいって連絡が来たんだ」
昨日学校から帰宅した時、千里から連絡が来て『明日一緒に学校行こっ!!』と連絡が来ていた。少々疑問に思ったけど断る理由もないから『分かった』と返事をした。
「あらまぁ! 千里ちゃんとねぇ。相変わらず仲良しね~~」
「別にただの幼馴染だって母さんも知っているだろ」
母親のウザい笑顔が尻目に一樹はコーヒーを飲み干して逃げるように食卓を後にした。
制服には着替えていたので洗面所で歯を磨いて髪型がおかしくないかチェックする。そして上着を着てバッグを手に取った。
「待ち合わせ遅れそうだな」
待ち合わせの時間は7:50。現在時刻は7:55。家を出る前からすでに遅刻。
待ち合わせ場所は急いで向かえば5分とかからないのだが、先に遅刻する旨を千里に伝えるべくメッセージアプリを起動する。
すると千里のチャット画面で昨日未読のメッセージが来ていた。
『そういえば明日私と会うまでコーヒー飲んできちゃ駄目だからね!!』
「どう意味だこれ? まぁ、いいか……『悪い、寝過ごした。今から家出る』っと」
内容を確認するのも時間が惜しく、自分の伝えたいことを送信する。
するとすぐに既読マークがついて『待っているよ』との文字が書かれていた可愛らしい招き猫のスタンプが送られてきた。
とりあえず外は寒いし、これ以上待たせるのは申し訳ないから速足で向かおう。
「あっ、昨日丁度読み終わったし部室に戻そう」
机の上に昨日読み終えた『パラレルワールドの真実』というタイトルの小説をバッグに詰めて一樹は家を出た。
──かくして一樹は何も知らずに平凡な生活を続けているのであった。
俺の知らない世界 桜もち @_sakura
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