世界線γ (もし後輩にお使いを頼んだら……)
11月17日(水) 16:15。
一樹が第2章を読み進めてていると部室の扉が開いた。
「はい。かず君。持ってきたよ~~」
一樹がコーヒーの買い出しをお願いした相手──
千里は一樹の1つ年下の学年の女子高生。千里とは幼少の頃からよく遊んでいで小中高と同じ学校に通っているいわゆる幼馴染だ。
千里が入学してきては小説を読まないのに文芸部に入部して、たまに一樹と雑談をしに訪れる。
一樹が買ってきていたコーヒーは冷えたため新しいものを千里に買い出しを頼んだでいた。
以前一緒に昼食を食べたりとする様子をクラスメイトに見られたとき「何あの子、時枝の彼女か?」と羨ましがられたことがあった。
確かに千里は顔が整っていて美人の部類に入るだろう。
しかし同学年の女子高生より平均身長より10cm以上低く、それに加えて可愛らしい仕草がまるで小動物のようで綺麗というより可愛いという感じ。そんな千里は周りの男子からモテるらしい。
しかし一樹にとって千里は幼い頃からの付き合いで今では妹のような存在で付き合っているわけではないし今後も恋愛関係に発展することもないと思っている。
「……なんでおしるこなんだ? 俺、コーヒーって言ったよな?」
「寒いから温かいもの飲みたいだけだったんでしょ? だったらおしるこでもいいじゃん」
「そうだけど……まぁ、いいか。ありがとう」
温かいものが欲しいと思っていたのは事実なので一樹は素直に受け取った。
「おしるこいくらだった?」
「お金はいいけど……一つお願いがあって聞いてくれない?」
「なんだ? また勉強見て欲しいのか?」
「違うっ!! まぁ、勉強も見て欲しいけど今お願いしたいのは……明日一緒に登校してくれない?」
「一緒に? まぁ別に構わないけど……高校入学してからは一度も一緒に登校してないよな?」
小学生の頃は一緒に登校していたこともあったが高校生になってから一緒に登下校することはなかった。
千里も小さく頷いて答えた。
「うん。たまにはいいかなって……あと明日私と登校するまでカフェインの類は摂らないで欲しいの」
「は!? カフェインってどういうこと?」
一緒に登校したいって言うのはいいけど、それまでカフェイン摂取NGは意味が分からない。
しかし千里は理由を口にすることなく瞳をうるうるさせながら上目遣いで「お願い」と頼んできた。さすがにその表情で頼まれると断りづらい。
「……分かったよ。だけど明日の登校までだからな」
「うん!! あっ、そろそろ私行くところあるから明日の朝、かず君家に迎え行く──」
笑顔で千里が部室を出ていこうとする刹那。部室の扉が外から開けられ、扉の前に立っていた人物がこちらに向けて煙のようなものを発射してきた。
「うわっ、なんだ!!」
一樹はその煙を鼻から吸ったとたん頭が意識が飛びそうになった。
これはヤバい。と思った瞬間ブワッと部室の中で竜巻のようなものが発生し煙が竜巻に吸い込まれて……パァンという音とともに消えてなくなった。
そのおかしな現象のおかげで一樹は意識が落ちずに済んだ。
「な、なんで私の催眠魔法が……うわっ!!」
不思議な煙を発生させた人物が驚いたが、それを言葉にする前に身体が浮かされ地面に叩きつけられた。
一樹もあまりに一瞬の出来事で驚きを隠せなかったが、一番驚いたのが、視線の先地面にうつ伏せに叩きつけられた金髪の少女──ではなくその少女を踏みつけている千里だった。
千里はいつもの可愛らしい雰囲気は一切なく草食動物を狩るライオンのような出で立ちになっていた。
「──あなた誰? 見たところあなた外国人の魔女よね。何しに来たの?」
千里の声はとても冷ややかでとても一樹が割って入れるような状況ではなかった。
するとうつ伏せで倒れていた金髪の少女は千里を捉えて目を大きく開いた。
「私はイギリスの魔女、リリィ・アントワネット。……敵から追われていたところ身を隠せそうな建物に入ると魔力の気配があったので相手と勘違いして催眠魔法を放ちました。でもその見た目……あなたは最強の魔女 Ms.Chisato ですよね?」
金髪の少女──リリィと名乗る少女は千里に対し敵意がないことを示し両手をあげた。
千里はその言葉を聞いて目を細めたが、リリィから足をどけた。
リリィは立ち上がり、三角帽子を被った。
「……あの俺全然ついていけないんだけど千里の知り合い? ってか魔女って?」
「かず君ごめん、少しだけ待ってくれる? ……リリィさん少し2人でお話ししましょう」
千里は僕の質問を遮りながらもリリィを5分ほど廊下に連れ出したあとすぐさま2人で部室に戻ってきた。
「……もういいのか?」
「うんっ。大丈夫だよ!!」
一樹が千里に尋ねると千里の雰囲気や言葉遣いがいつもの調子の戻っていて拍子抜けた。千里の後ろにいるリリィはそれをただ無言で眺めていた。
一樹はリリィに声をかけようとすると千里が近づいてきて瓶を一本差し出してきた。
「かず君。事情を聞く前にこれ飲んでくれる?」
「これはなんだ?」
見た目は茶色の小瓶。その中には液体がゆらゆらと揺れているのが分かった。
「まぁ、ただの栄養ドリンクだよ。これを飲んでくれたら全部説明するから」
「全部?…………分かった」
一瞬、これを飲んだらどうなるか不安だったが、それ込みで千里は色々話すつもりなのだろう。
とりあえずこれを飲まなければ話が進まないと思い、意を決して茶色の小瓶の中身を一気飲みした。
「うわっなんだこれ。苦っ!!」
あまりの苦さに飲んだものを吐き出しそうになる。その様子を見て千里は僕の両肩をがっちり掴んだ。
「かず君。私、上条千里のことを好きになって」
「千里? 何言って──っ!!」
一樹は千里のセリフに疑問を持った瞬間、突然体全体に雷撃が落ちたかのような衝撃が走り、そして段々瞼が重くなってきて視界が暗くなって──意識が遠のいていった。
──。
────。
一樹はぼんやり意識を取り戻してきた頃千里とリリィが会話しているのが耳に入ってきた。
「千里さん。こちらの報酬で今回のMSCの件ご協力いただけるんですよね?」
「えぇ、リリィさん。もちろんよ。私は最強の魔女よ。どんな組織でも一ひねりよ」
「ありがとうございます。ですが、わざわざ彼に惚れ薬を飲ませなくても好きあっているようにも見えましたが?」
「確かに仲はよいのは間違いない。だけど私はかず君のこと愛しているけど、かず君は私のこと妹くらいにしか思っていなくて恋仲になりそうになかったの。毎日読心していたし、好きになってもらえるように努力したけど全然ダメだった……」
千里は肩を落としながら落胆していた。
「でも、報酬で惚れ薬をくれるっていう話でとても助かったわ。ありがと!!」
「でも事前にカフェインを飲まれていると惚れ薬の効果が失われるとのことでしたが、さっきはすぐに飲ませましたね?」
「うん。かず君には私が魔女ってことは内緒にしてたから。先にそういうこと話すと惚れ薬を飲ませるときに変に思われそうだったからね。本当は協力後の報酬もらって明日の登校時に飲ませようと思ってカフェイン摂らないで会う約束していたんだけどさっき買ってきた飲み物もおしるこだったし大丈夫かなって」
リリィは「すみません。この後待ち合わせ場所に向かう予定だったのですが」と言いペコリと頭を下げた。
千里は満足げに「結果オーライよ。私はかず君に惚れてもらえれば何でもよかったから」と言って手でOKサインを作っていた。
「まぁ、じゃあ約束通り今夜組織を潰しに行きましょう──ってかず君起きた?」
「あ、あぁ……ちとせ……うん!?……なんだか……俺は今、お前が……とても愛おしい」
「っ!! かず君っ!!」
一樹は意識が覚醒し声の主を見ると視線がそのまま千歳にくぎ付けになった。
千歳は喜びのあまり一樹の胸に飛び込んで抱きついた。
「かず君っ!! いつまでも、……一生 ……永遠と私を愛してね!!」
「あぁ、もちろんだ。お前以外の人間を愛することなんてできない!!」
千里の言葉を聞くと段々胸の中が熱くなり次第に千里への愛がボロボロとあふれ出してきた。
今まで恋というものをしたことがなかった一樹にとって千里という愛する人物を目にして心の中に空いていた隙間が埋まった気がした。
先ほどの言葉を聞いたもののその内容がどんなことであっても今自分の満たされた心の前ではどうでも良いことだった。
「千里。これから俺とお前でラブストーリーを創っていこうな」
「うんっ!!」
千里の瞳にはおかしな光が宿っていたが、一樹はそれすらも気にも留めずくさいセリフを口にしていた。
──かくして一樹達は偽造された愛から始まるラブストーリーがはじまるった。
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