12 旅の始まり
これにてプロローグは終わりです。
次回から1章の予定ですので、乞うご期待くださいませ。
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あれから3年ほど経った。
時の流れというものは早いものだと実感する。前世との年齢を合わせれば、既に20歳を超えているはずなのだが、精神面ではまだまだ子供でいるつもりだ。
いいでしょ、心が10歳のままでも。
私はその間、世界中を巡るため勉強や鍛錬などを必死になって行った。
その結果、スキルは大幅に増えた。
この成長率はこの世界では異常であるらしく、母さんからはたくさん褒められた気がする。
母さんには、私が冒険者になりたいことを伝えた。
そうしたら母さん、「それなら最低でも10歳になってからにしなさい」と言ったのだ。
本当は出て行ってほしくないと思っているのだろう。
私が出て行けば、この家には母さん一人が住むことになるだろう。
でも私は自分の欲求に正直に生きたい。
ここでサキュバスとして生き続けるのは、わたしにとって地獄となんらかわらないのだから。
だから私は、母さんのその気持ちに見ないふりをして過ごしてきた。
そして誕生日当日の今日。
時刻は早朝。母さんはまだ部屋で眠っている。
親不孝と思うだろうか。
だけど、きっと顔を合わせたらまたずるずるとこの居心地のいい家にとどまってしまいそうだ。
だから半ば家出のように。
私は書置きを残し、肩掛け鞄を持って扉を開けた。
次にここに来るときは、一体いつになるだろう。
それはきっとすぐかもしれないし、遠い未来なのかもしれないけれど、必ず私はここに帰ってくるからね。
母さん、10年間私を育ててくれてありがとう。
前世の両親に言えなかった言葉を、私は慣れ親しんだこの家に告げてこの場を去った。
∇
「もう、フラムったらせっかちねぇ」
せっかくなら誕生日に作る料理だけでも食べて行けばいいのに、と思った。
だって10歳の誕生日なのよぉ?
私、まだフラムの誕生日を9回しか祝えてないもの。
まだ9回だったのよぉ。
これから10回、20回、50回と、増えてくものだって深く考えずに思ってたのだから。
でもそうよねぇ。
子供はいつか親から去るもの。
私だってそうだったし、フラムだってそう。
変わらない。
でもせめてもう一度あの子の顔をよく見て抱きしめたかったなぁ。私は子不孝者かしら?
え?
そんな言葉はない?
私、頭はよくないからそんな事言わないでよぉ。
いつも見える場所に飾ってある額縁。その裏に隠してある一枚の念写真。
知り合いの「念写」持ちの子に撮ってもらった、彼との唯一の思い出の写真。
そこには笑顔で映る私と、同じく笑顔でこちらを見ている白髪の男。
最初に出会ったときはあんなに暗い顔をしていたのにねぇ。
「ホント、フラムと笑顔がそっくり」
私はその大事な思い出を再び額縁の裏に隠す。これは私たち二人だけの大切な思い出。
いつかフラムが帰ってきたその時には、貴方のこの笑顔をみせてあげる。
……そうね。
久しぶりに、私もママに会いに行こうかしらぁ。
∇
私は歩く。
行きたいところ、行くべきところに歩を進めていく。
とりあえず、今はいかなければいけないところがある。
私は、胸元に入れてある首飾りをぎゅっと握る。
アヴリルの紋章。貰ってから3年も経っているため、色が若干くすんでいる。
これを持って、アヴリル領の中央街へ向かわなければならない。
もちろんアヴリルの騎士団本部に行くのではなく、冒険者ギルドに向かうためだ。
あの勧誘を受けてから私は、一度も心が揺らいでいない。
やりたいことが最初から決まっているのだから。
サキュバス街を取り抜け、人間街へと初めて足を踏み入れた。
「ついに、私は人間の街に……! あひゃっ」
私の前に2本の槍が立ちふさがる様に交差する。
まるで、アヴリルの紋章のような感じだ。
見れば両脇から門番が私の通行を邪魔しているではないか。
「君、魔族だな? ならば人間街に行くには許可証が必要だ。無ければここは通さんぞ」
やや強めの口調で脅してくる。
私が子供なのと、許可証を持っていないだろうと踏んでるような目だ。
ふっふーん。
しかし私にはこの首飾りがあるのだ。
どや顔でその首飾りを提示すると、門番二人はびっくりしたように硬直した。
そして慌てて何かの魔術具(これも判別の水晶なのだろうか)を取り出して、確認を行った。
「し、失礼しました! どうぞお通りください。フラム様」
急に態度が急変して、私は快く通行を許可された。
よろしいよろしい、初めからその態度でよかったのだよ。むふん。
スタートは順調。足並み良好。
私は初めての人間街に、ワクワクを胸に秘めながら突入した。
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プロローグ 完結。
次回から1章が始まります。
乞うご期待くださいませ。
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