11 勧誘
「いてて……」
サンクシオンは頬を擦りながら痛みに悶えている。結構強めに叩いたのに、演技臭いその表現にイラッとする。しかし、まあこれ以上叩いても、すっきりしないだろうしいいや。
叩いた拍子に記憶が吹き飛べばよかったのに。
前世では男に裸を見られるなんてことはなかった。それなのに、現在7歳で既に見ず知らずの男に裸を見られた。
いや、わかるよ?
7歳の少女の裸なんて見るに値しないってことは。
でも、中身はもうちょっと精神年齢高いんだよ?
元は学生だったんだから。
「それで。私にその内情を話した理由を教えてくれる?」
「あ、ああ。わかった。端的に言おう。君、騎士にならないか?」
おお?
どういうことだ?
なんで私が騎士に勧誘されているんだ?
「君のお母さんには既に伝えたんだが……。『あの子、立派なサキュバスになりたがってるから、もし才能あるんだとしても本人に聞いてみないとねぇ』と仰っていた。だから、君に問いたい。騎士になる気はないか?」
いや、お母さん。私サキュバスになんてなるつもり毛頭ないよ。
口で言ったことはないけど、積極的じゃない態度取ってきたつもりなんだけどなあ。今度思い切って直接言おうかな。
それよりも、だ。
何故私が騎士に誘われていることを聞かなければならない。
「なんで私が騎士に?」
「君は自覚がないのか? 君はおそらく凄い魔力を持っている。それは今の時点で既に俺を張り倒すだけの力だ。その若さならさらなる成長も見込める。どうだ?」
もしかして昨夜のあの緊縛の魔眼のことを言っているのだろうか。あれはたまたま出ただけで、私使いこなせる自信があまりないんだけど。
現に今、その後遺症で頭痛が酷い。こんな状態で活動するなんて無理だろう。
「直ぐにとは言わない。もう少し年齢を重ねてからというのでもいい」
「お気持ちはうれしいんですが、私は多分戦いにあまり向いてないです。それに、いつかは冒険者になりたいって思ってるんです」
「冒険者か……」
サンクシオンは残念そうな表情をする。
申し訳ないな。騎士みたいな一つの主に仕えるようなのじゃなくて、私はもっと自由に動きたい。
前世だった頃からその気持ちはずっとあった。
将来は世界中を歩き回ってみたいなあっていう漠然とした夢。それは無残にも果たせなかったが。
だから私は、今度はこの世界でその夢を果たしたい。
「そうか、それは残念だ。しかしいつでも俺たちは待っている。そうだ、これを受け取ってくれ」
サンクシオンは、腰にあるポーチから何かを取り出す。それを私に差し出してきた。
それは紋章のついた首飾りだった。
紋章は三対六枚の羽に槍が中央で交差したような形だ。
裏にアヴリルの名が刻まれている。
「それはアヴリルの領地の紋章だ。それがあればいろいろなところで融通が利くだろう。気が変わって騎士になる気になったのなら、それを持ってアヴリル領の中央街にある騎士団本部へ向かうといい。そうでなくとも、冒険者になる時それをギルドに提示すれば身元と実力の証明にもなる」
「こんな大事なモノ、貰っちゃってもいいんですか?」
「ああ、構わないとも。ただし無くさないように。それは信用のおける強者に渡すものだ。今から君の持ち主登録をするから、その紋章に触れてくれるかい」
私は言われた通りに紋章部分に手を重ねる。
するとサンクシオンが私の手のひらからさらに手を重ねてくる。
一瞬ドキッとしたが、サンクシオンは真剣な顔をしていたので意識を紋章に戻した。
「今から君の魔力をこの首飾りと同調させる。少し疲れるかもしれないけど、直ぐに終わるから安心してくれ」
そういうと、彼は手のひらに集中をし始めた。
私もそれにならって、目を閉じて集中する。
見えないけれど、サンクシオンの手のひらがほんわか光っているのを感じる。その光は私の手のひらと通っていき、紋章までたどり着いた。
謎の力の奔流は首飾り全体に広がり、やがて消えた。
「終わったよ。疲れはないか?」
「大丈夫。何ともないです」
サンクシオンは少し驚いた表情をとったが、すぐさま気を取り直した。
「これでこの首飾りは君の物だ。この首飾りは特殊な金属でできていてね。魔力と同調することで、その人の魔力が金属と融合するんだ。この融合は一度金属ごと溶かさない限り消えないから、持ち主の保証になるんだ」
へえ。そうなんだ。
不思議だなー。
この金属は武器にも使われたりだとか、魔力伝達率がどうとか言っていたけど、難しそうな話だったのであまり聞いていない。
私はアヴリルの紋章をじっと見つめながら、その内包した魔力を感じる。
確かにこれは私のだ。だけど、魔力ってよくわからない感覚、どうやって感じてるんだろう。
いつの間にか話が終わったのか、サンクシオンが立ち上がる。
「それじゃ、俺はこれで失礼する。その紋章を持っている限り、また会うこともあるだろう」
そう言って、サンクシオンが部屋から立ち去った。
それと入れ替わりに、母さんが鍋を持って入ってくる。
「あら、あの人もう帰っちゃうのね。結構イケメンだったわよねえ。ま、それよりフロム。おかゆでも食べて寝てなさい。まだあなた目が真っ黒なんですもの」
「え?」
私はそれを聞いて慌てて手鏡を持ち出した。
うん。目、真っ黒。
想像以上に真っ黒だった。
こわっ。
これ、治るのかなあ。
しばらく、緊縛の魔眼は封印だな。
これじゃ乙女の可愛さも台無しだもの。
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フラムの目がほんのりとした赤い色から真っ黒に。しばらくしたら戻ったそうだ。
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